#11. 小さな連れ合い
森の中で歩き続けたら、私は途中で人間たちが怪獣の群れによって襲撃されているところを目撃した。
この怪獣は私が見たことないからどういう呼び名なのかわからないけど、外見でいうと白い虎と似て、体長は3メートルくらい(人間サイズ基準)で、2本の長い牙が口から出ている。
体のサイズだけでも人間の2倍くらい大きいのに、10匹くらいもいるなんて。
助けに行かないと……。
確かに彼らは私の知らない赤の他人かもしれないけど、殺されそうになっている人間を見捨てるなんて私にはできない。今の私なら人を助けるくらいの力を持っているからそれを使わない理由はない。今この強さを人のために活かす時だ。そう思って私は走り出した。
しかし私は助けようと思って現場に近づけていく間にも怪獣との戦いで負けて命を落とす人間が増えていく。かなり残酷な光景だ。もし私が来るのがもっと早ければ……。
今更もう遅かったかもしれない。それでもせめて一人でも助けられれば……。
「助けに来たよ!」
最後に生き残っている一人の女性が怪獣に囲まれて縮こまっている。私はそこに飛び込んで彼女の体を鷲掴みにした。
「やった!」
女性の乗っている手のひらを高く上げたら、彼女はもう怪獣に襲われる心配はないだろう。彼女の服と体はあっちこっち汚れているけど、目立つ怪我はないから、とにかくまだ攻撃に当たっていないことはわかって安心した。
『パシャッ!』
同時に私は足を下に振って近くに付き纏っている一匹の怪獣を踏み潰した。他の怪獣は自分の仲間があっさりと潰されたところを見て怖がってすぐ尻尾を巻いて逃げていった。賢明な判断だ。さすが野生でも私が絶対勝てる相手ではないと理解しただろう。
今追いかけて討伐したいなら全滅はできそうだけど、そうする必要ないだろう。そんなことより人間の方が心配だ。
「もう大丈夫だよ」
私は手の中に掴んでいる彼女に向かって話しかけてみたが……。
「ເຄຍຄຽວຈິງ ຢະດະ ໂຄໄນເດະ ໂອະເນະໄງ ດະກະຣະ」
彼女は私を見てすごく怯えて悲鳴を上げた。まあ、こうなるのも予想できた。それにしても彼女は何か言っているけどやっぱり言葉はわからない。でも多分、私が敵だと思って命乞いでもしているだろう。
彼女のことも心配だけど、今他の人のことも心配だからとにかく周りを調べてみよう。
「やっぱりみんなもう……」
この辺りで倒れている人間が数人いるけど、誰も血塗れでもう息していないみたい。この人たちが乗ってきた馬車も破壊されて、荷物は滅茶苦茶になっている。
そんな……。結局生存者一人だけか……。
もうどうしようもないか。でも最初からすでに最悪な状況だったから一人助けられてもよかったかも。ここに飛び込んできた甲斐があって無駄ではないとわかった。
さて、次はどうしよう。
私は助けた女性をじっと見てよく調べてみた。やっぱり人間って今巨人になった私にとって小さくて小動物みたいね。もっと手に力を入れたら簡単に潰れそう。あの時巨人に掴まえて手のひらに乗せられていた私もこんな感じかな? 巨人はこんな感じで私を見ていたのか?
さっき勢いで手で掴んでしまったけど、誰かを手の中に乗せたのは初めてだな。(昨日私のスカートの中を覗き込もうとした変態鼠を手で掴んだけど、すぐ投げ出したからカウントしないよ。そもそもあんなの早く忘れたい)
見た目からこの女性は私より年上で20歳前後だろう。身長は私(の本来の体)と同じくらい。格好から見れば多分商人で戦う能力を持っているわけではなさそう。でもここに死んでいる人たちは戦う装備を持っているものは数人いる。護衛の人だろう。
商人と護衛が怪獣に襲われる……。これって、父が死んだ事件と似たような悲劇ではないか。
実際、このような事件は頻繁に起きているようだ。怪獣が危険だとみんなが知っているから、商人が商売のために遠い町に行く時は必ず護衛が付いていく。だけど時々油断して案外強すぎる怪獣と鉢合わせて全滅する場合もある。
あんな状況で父は自分の命と引き換えにして犠牲を最低限にした。すごく立派なことだ。
それはさておき、今手の中の女性はまだ私を見てぶるぶる震えて縮こまっている。私ってこんな怖いのかな? 私は何をするつもりがないのに。そんな反応されると随分傷ついた。
まあ、昨日私も彼女と同じような立場だったから気持ちはよくかわる。
私は力を抜いているつもりだけど、彼女はいきなり自分の体より大きい手で握られて苦しがっているのかな? やっぱりまず解放しておこう。
そう思うと私はしゃがんで女性を地面に置いて自由を与えた。すると彼女は私を見上げてすぐ目を逸らして走り出した。やっぱり私って嫌われ者だな。
私のことをこんなに嫌で逃げたいのなら彼女を放っておいて好きにさせればいい……という気分にもなったけど、よく考えてみればやっぱり今の状況ではまずいだろう。小さな女一人で森の中で歩くなんて危険すぎる。さっき生き残った怪獣だっていつ戻ってくるかわからないし。その他にも危険な怪獣がうじゃうじゃいる。
だから私は走っている女性を追いかけていく。彼女が走っているつもりのようだけど、私から見ればすごく遅く見える。私がおもむろに歩むだけですぐ追いついちゃう。
やっと彼女も息切れして足が止まってしまった。私から逃げることももう諦めただろう。
そんな彼女に私は手を差し伸べてみた。手のひらを開いて仰向けにしている状態で。
「ここに乗って」
無理やり手で握って体の自由を奪うよりも、彼女自身の足で手のひらの上に登らせた方がいい。そうしたら恐怖も不安も少なくなるだろう。
言葉が通じないから口より態度で意思を伝えた方がいいと思って、私が味方で怖がる必要ないと伝えるためにあえて笑顔を見せた。
彼女もしばらく躊躇していたけど、結局私の手のひらの上に上がってくれた。少しでも信用してくれたのかな? それともどうせどうしようもないからしぶしぶ従っただけ? それでもいい。
「ありがとう。それじゃ行こうね」
どうしたらいいかまだよくわからないけど、とりあえず彼女を安全な場所まで連れて行こう。
こうやって私はしばらくの間の同行者ができた。言語が違って言葉が通じないし、サイズも違いすぎる人間だけどとりあえずよろしくね。




