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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第二章:懐疑と優越感
10/30

#10. 数千人の命の上に私が

 また新しい朝がやってきた。


 昨日(みず)()びをした(みずうみ)を去った後私はまたずっとゆっくりと歩き続けてきた。


 時々疲れて途中で休んだけど、基本的に前へ進んでいく。日が暮れても夜は星の光があるから問題なく昼と比べたら少し遅いけど進行が続く。


 それにしても昨日から薄々気づいていたけど、どうやらこの体はお(なか)()かないし、睡眠を取る必要もないらしい。恐らく排泄(はいせつ)なども不要だろう。


 なんかおかしいよね。見た目は人間と同じで、体が柔らかくて、暖かくて、息もして、鼓動もあって、違和感なく生身(なまみ)の人間のように動いているのに。


 やっぱりこの体はサイズ以外にも普通の人間と違うところがあるらしい。


 でもそのおかげで助かったかも。だってこんなでかい体の食べ物なんてどうしたらいいの? このサイズだと恐らく数千人分の食料はあっという間にこの胃袋(いぶくろ)の中で消えてなくなっちゃうだろう。だって20倍サイズだから20の3で8000倍くらいだね。こう見えて私は数学に興味があって独習しているからわかる。


 人間1000人よりも私一人だけが……、と考えたらなんか大変でとんでもない気がするよね。


 それに食事して中に入れるものがあれば当然出すものもあって、つまり便所のことも……それはあまり考えたくない。とにかくそんな心配がなさそうなのでこれでいい。


 しかしそれならなんであの時彼女は私を捕食したの? 食事は必要ないはずなのに。


 でも確かに味覚がちゃんとあるし。水も飲める。どうやら何か食べたいなら普通に食べれるらしい。飲食は特に必要ないけど、食べても問題ない体か。なんか都合のいい体だ。


 人間は生き延びるために食事をするけど、それ以外にも美味しい食べ物を翫味(がんみ)して楽しむという目的でもある。私だって今美味しいお菓子(かし)の味を思い浮かんだらなんかまた食べたくなっちゃうよ……。でも今の体に見合う大きいお菓子(かし)なんてあるはずないよね。だから我慢するしかない。でもこれからもう美味しいものを味わうことができない人生になると考えるとなんか(むな)しく感じちゃう。


 眠気がなくて寝る必要がないってのもすごく助かる。そのおかげで夜もずっと歩き続けられるし。眠っている間に何かに(おそ)われるというリスクも避けられる。冒険の途中の睡眠は命取りに(つな)がるというのはよく聞いたことある。まあ、この体ならたとえ無防備な時に(おそ)われても余裕で大丈夫かもしれないけど。


 便利で都合のいい体だけど、だからこそ私はつい考えてしまう。こんな体でも本当にちゃんと人間……生き物なのか、って。


 そもそも生き物の定義って何? 人間の定義は? 『生きている』ってどういうこと? 今まで深く考えたことない。


 なんか哲学っぽくて(むな)しく長くなってきた気がするからもうこの辺にしておこう。






 私は今でも当てもなく歩いていく。目の前はまだ木々いっぱい。森って大きいものだね。随分歩いたつもりなのにまだずっと森の中だ。


 森の中にたくさん怪獣がいる。時々見かけたけど、大半怪獣は私を見て尻尾(しっぽ)を巻いて逃げてしまった。無理もないか。さすが知能のない怪獣でも本能では適う相手ではないと察するだろう。でもたまに私の足に付き(まと)う怪獣も現れて、こういう時やむを得ず私は反撃した。足に登られたらさすがにまずいと思うから。


 最初は可哀想(かわいそう)だろうと思ってつい力を振るうのを躊躇(ためら)ってしまうけど、やっぱりこれが怪獣で人間の敵だから殺しても仕方がないと思って自分で自分を納得させた。それでも苦しまないようにできるだけ一発で踏み潰してあげた。


 わざわざ潰されに来るなんて(あさ)はかだよね。こんな巨大な女の子に勝てるわけないじゃないか。かかってこなければこんな(むご)たらしい末路にはならないはずなのに。


 父の教えによると、怪獣は基本的に人間より大きくて、2メートル以上が一般的で、武器を持っていない人間を簡単に()れる。


 でもそんな怪獣でも今の私は簡単に足一本で圧倒的に始末できる。なんか不思議な優越感が湧いてきた。


 『ガルルル!』

 「……っ!」


 目の前に今まで見たことないくらい大きい怪獣が現れてきて、私を(おびや)かそうとしている。とはいっても、2本足で立つその怪獣の身長は私の膝より低い。恐らく6メートルくらいだろう。大きな怪獣でもこんな大きさは珍しいけど、私から見れば猫みたいなサイズだけど。


 この怪獣の姿は大体熊と似ているけど、頭に2本赤い(つの)が生えて、毛は狐色だがお(なか)の部分は黒い五芒星(ごぼうせい)っぽい模様が付いている。


 「こいつ、もしかして……」


 こんな特徴を持つ生き物、私は聞いたことがある。これは『アカツノクロハラクマ』という巨獣だ。この地方の森の怪獣の中でも図体(ずいたい)が大きくて上位の捕食者である。ちゃんとした10人以上のパーティーを組まないと倒せない相手だそうだ。


 そして父の命を奪ったのはこいつだそうだ。つまり父の(かたき)でもある。まさかこんな形で会えるとはね。


 『バシャッ!』


 こっちにかかってきて私の足を攻撃しようとしたアカツノクロハラクマを、私が()り倒して足を上げて力いっぱい踏み潰した。


 「終わった? あっさりだな」


 最強だと言われた怪獣でも結局こういう程度か。やっぱりどんな相手でも私の足にかかればこんな簡単に。なんかぞくぞくする。


 「私はやったよ。お父さん」


 これで敵討ち完了か。いや、別にこれは父の命を奪ったアカツノクロハラクマであるわけではないとわかっているけどね。それでもなんか達成感が感情が(たか)ぶってしまった


 そしてつい余計なことまで考えてしまった。あの時こんなに強い私が一緒にいればこの力で人を守れて、あんな悲劇が起きなかっただろう、と。


 大体最強になってどうする? そもそも私は普通の女の子で、戦うことなど興味を持っていない。いきなり最強の力を手に入れても困るだけではないか。


 それにこれは『戦う』と呼べるのか? ただ足を動くだけで終わるなんて。なんか物足りない気もする。


 でもそれでいいの。私は何かと戦いたいわけではなく、ただ自分の身を自分で守るためこの力を使うだけ。昨日からそうだったし。そしてこれからも。


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[一言] こんな大きな力を持っちゃったら、私ならいい気になってやりたい放題やっちゃうかも?(^.^; ミウリラが狂いませんようにm(_ _)m
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