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日常茶飯事

作者: けぽ

今日食べたもの レトルトカレー かぼちゃコロッケ オレンジジュース チョココロネ 杏仁豆腐 チーズ2切れ かき氷 イチゴジャム   今日吐いたもの レトルトカレー かぼちゃコロッケ オレンジジュース チョココロネ 杏仁豆腐 チーズ2切れ かき氷 イチゴジャム



「……ホント、無理なダイエットとかあ、しない方、いいよお〜」 よくあるオフィスのラウンジ。


女は向かいのきつそうなスーツ姿の同僚にちらと目をやる。彼女は口を歪めて、ワンパターンな笑みの貼りついた顔に貼りついた口を、無理に動かす。


「私、何もしてないよ?」


ーーやたらベタベタ触ってくる……この女


「ホントに?でもやけに痩せてるからあ〜……なんか見るたびに痩せてる気がするしい〜」


そう言いながら目の前の女はソーセージのような指を痩せた腕に絡ませ、唇を突き出した。


私のこと、教えてたまるか、お前なんかに。


ただ普通に弁当を広げて、食べる。それだけだ。 ランチタイムが終わったらすぐに私はトイレに行って、吐く。それだけだ。 口に指を数本突っ込めば、吐ける。いつものことだ。 そしたら、何食わぬ顔で化粧を直してまたパソコンに向かう。それだけのことだ。



女は家に帰ると、また食べる。床に色々広げて、食べる。コンビニ弁当、ゼリー、蜜柑、コロッケ。前菜もデザートもない。ただ口に入れるだけだ。


ーー儀式……



風呂から上がり、またいつものように体重を量ると、一週間でまた1キロ落ちていた。それを喜べていた頃が遠すぎて、今ではもう見えない。



ネットの世界が一番落ち着くと思ってしまう。


女は濡れた指を画面の上に滑らせる。


この孤独感に、一方では無性に泣きたくなり、また一方では無性に包丁かなにかを振り回してしまいたくなり、……小さな錯乱を感じる。


ーーすべて吐いてしまえば平和だとよくわかっているはずなのに、これは一体何なのか


わからないと言ってしまえば一気に泣いてしまいそうで、やめた。



帰りの電車を降りた後、たまにコンビニに寄ることがある。そこでは決まってシュークリームを買う。歩きながら食べ、決まって結局駅の南口のトイレで吐く。飲み込むのも怖い。怖い。それでも食べなければ。私は食べなければいけない。食べて吐かなければいけない。



あの同僚が、ニンジンのピクルスをいくつか作ってきた。健康に良いと言って半分以上女に押し付ける。


あなたは吐かなければいけないのだからまずは食べなければなりません。


会う人会う人に、そう言われているような気がした。


ピクルスを口に放り込むとひどくきつい酢の味がしたが、女はとにかく耳障りの良い感想を言った。



帰ったら今日食べたものを書かないと、と思いながら女はまた、口の奥まで指を突っ込んだ。



この日常を、昨日と同じくやり遂げなければ、私が私でなくなる。


日常茶飯事

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