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影の踊り場

作者: いろはにほへと



 深夜3時丁度。

 静まり返ったリビングで、ヘッドホンをした青年。

 つまり俺。が、カタカタとキーボードを弾く音が響き渡る。

 そして、急いでいるような足音。

 リズムよく踊っているような足音が鳴り響いている。

 部屋には彼一人だけが居るのではない。

 そこでは彼以外の複数の人影が動いていた。

 いや、人影というより、複数の「形」を持ったモノが動いているのだ。


 その形を持っているものの正体は、「シャドウ」と言われている存在。

 こいつは特に意志を持っているわけではない。

 

 かといって規則を持った動きをしているわけでもない。

 前へ進むときもあれば、後ろへ下がる事もある。


 それは、部屋を越える関門。

 つまり、扉さえもすり抜ける、透明とも言えよう体を持っているのだ。


 さらに、心霊現象を取り上げるテレビ番組でよく使われる単語。

 ラップ音を引き起こす一つの原因が、それである。


 人間のような足、手、胴体、顔のような姿は勿論。

 その容姿はどこか私たちと似ているようで似ていない。


 そいつは生物というより、自然現象と言った方が分かりやすい。

 UMA等と言われる超常現象でも、特殊能力でもない事は確かだ。

 風のように存在は感じ取れるが、視覚で捉えることはできない。

 そういったナニかを、私は眼を通して見ることができるのだ。


 義眼とかそういうもので視認していない。

 視力が悪いから。といった理由で、そういったモノが映るのではない。

 先天性というより、後天性。

 つい最近、寝不足になった事を契機に知った事だ。


 さて話は変わるが、自分の近くにいるこのシャドウ。

 今まで見たことがない、獣とも言えよう恰好をしている特異体なのだ。

 四足歩行で可愛らしい足音。特徴的な耳。そして鳴き声。


 ……そう、これは紛れもなく、猫型である。

 ……何か名前を付けよう。

 

 「猫型……か。 ならばこれ以降、キャットマンと言おう。」

 

 この特異体、そう分別させる由縁はその姿だけではない。

 通常シャドウと違う点があるのだが、それは致命的とも言えよう性質。


 扉を抜けることができないのだこのキャットマンは……!

 そこで、問いを投げる事にした。


 「おいそこの猫型。お前は他の奴らと違って壁抜けができない。それは何故だね?」

 「……にゃ~?」

 「何故だと聞いているんだ。そこの猫よ。日本語が分かるのであれば鳴け」

 「ふにゃぁ……」

 「あのなぁ、猫よ。ちょっかいをかける為に鳴くのであれば止めてくれ」

 「にゃーぅ……」

 「見れば分かると思うが此方は非常に忙しい。他をあたってくれ」

 「にゃーぅ……」

 「……分かった。傷ついたのであればこの場で即座に謝ろう。」

 

 だが、


 「俺は本当に心の余裕がない。これから行うのは他でもないお前への頼みだ。」


 キャットマンを傷つけたくはない。

 だが、この行動で悲しい思いをしてほしくない。

 そしてこれ以上、時間を割くわけにもいかない。


 

 (どうしたものかどうしたものかどうしたものかどうしたものか……)


 ――その時、ふと、顔を洗おう。という決断を下した。

 動機は至ってシンプル。


 洗えばスッキリする。顔だけではなく、心までも洗われたような清涼感を覚える。 

 それをすることによって、恐らくは。……だが、


 (これを行う事で何か救われるかもしれない。)


 「どうしたものか連鎖現象」を解消できるのであれば、此方としては好都合。

 ならば、洗顔でも裸で外をうろつくも知ったこっちゃない。

 

 「やればええ。やれば、多分なんとかなるんや。なら、やろうや。」

 という結論に至った。


 ――そして30分後。

 洗面台に着く。


 (あ、なんかソワソワしてきた。顔洗ったら見えなくなるとか無いよね?)


 そして、鏡の前の不潔な男を目にする。

 そいつが自分であると認識するまで5秒もかからなかった。

 

 「ここ1カ月自分のフェイスを見てないが、こんなに老けているとは思わなかったな」

 と。


 さあ舞台は整った。

 ここからは水のカーテンコールを顔全体で受け止めることになる。

 俺はやるぞ。かかってこい!


 ……気が付いた時には、サッパリしたという達成感に浸っている自分の顔。

 そして、足元には愛猫の「きゃっとまん」が見えた。


 それ以来、シャドウは見ることができなくなったが、

 今でも尚、ラップ音は鳴り続けている。




















 ……俺ではない俺が鳴らしている音だと気づかずに。

※最後まで読んでくれた貴方へ。 


 この作品の世界の中で、唯一、青年が触れる事ができる現象を書いてみました。

 「触れれる様で触れる事ができない現象」って怖くありませんか? 

 

 何時も近くに有るのに、触れる事ができない。

 当たり前であるものは、本当に当たり前であるのか。等、

 「メタ」に当てはまる物語を書いてみました。

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