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テンプレいじめっ子って大変だな

作者: 野放図

放課後の教室に残り、私はテンプレいじめっ子として、主人公の女の子の鞄の中に嫌がらせを、嫌がらせを………


「嫌ーッ!!」


無理無理無理無理!!絶対出来ない!!絶対無理!!


そう。

私は今困っている。

何故なら、


「どうしてよりによってGを使うの!?確かに主人公に盛大なダメージを与えるけど、こっちにも精神的にダメージが来るじゃない!!」


今テンプレいじめっ子にありがちな『主人公の持ち物に虫を入れる』ということをやろうとしているけど、Gを前に心が折れているところ。


「嫌よ!絶対イヤ!もっとこう、他にあるでしょう!他に!虫が!」


だが、高校で確実に手に入る虫としては、アリか、クモか、


「そう!ダンゴムシ!ダンゴムシにしたらいいじゃない!鞄の中にダンゴムシ!なかなか散らばり具合が良いカンジじゃない!Gより見た目がマシだし!ダンゴムシにしよう!」


そうと決まれば早速ビニール袋と割り箸を持って校庭へ向かう。


植え込みの根元に結構いるので割り箸で摘んでポトポトと入れていく。やっぱりGにしないでよかった。ダンゴムシなら箸で摘んでもそこまで気持ち悪くない。


他のテンプレいじめっ子達はどうしているんだろう。この前テンプレいじめっ子の会があった時に聞いとけばよかった。八方美人のみかぽんも、ぶりっ子のマリっぺもみんなGどうやって使ってるんだろ。


ふと、地面に影が出来た。見上げると理科のイケメン眼鏡先生が私の前にいた。


「そこでダンゴムシ集めて何をするつもりだ。」


ひゃ、ひゃー。怖い。ダンゴムシを集めて、主人公の鞄の中にふりかける予定でしたとは、言えない!怖い!


「うちのペットのエサにする予定です……」


「ペット?トカゲでも買ってるのか?」


「あ、兄が……」


騙されてくれた!やったー!


「そうか、じゃあちょっと待ってろ、そのビニール袋だと薄いから逃げるぞ」


そう言って理科のイケメン眼鏡先生は職員室の方へ走っていった。先生ー!他の入れ物要らないよ!ダンゴムシすぐ主人公の鞄に入れちゃうからこのビニール袋で充分だよ!


先生は息を切らせながら戻ってきて、私にコーヒーの瓶をくれた。


「これならすぐ逃げないし、落ち葉と腐葉土を入れておいて、しばらく飼うことも出来るぞ。何ヶ月も飼うならフタに穴を開けておけよ。餌は枯葉だからそんなに飼うのも難しくないが、霧吹きで常に湿らせておけよ。カビさせないようにな。」


そう言って、理科のイケメン眼鏡先生は颯爽と帰っていった。

さすが生物が専門の先生。アドバイスが細かくて分かりやすい。ふようどは初めて聞いた。ネットで調べてみた。なるほどね。


なるべく湿ってふかふかした土と落ち葉を入れて、ダンゴムシをビニール袋から瓶へ放り込んだ。全部で11匹か。頑張ったな私。


こうして、コーヒーの瓶を持って私は家に帰った。ママにダンゴムシを見せたら玄関でなら飼っていいと言ってくれたので靴箱の上に置いた。


「『主人公の持ち物に虫を入れる』の忘れてた。」



次の日、私は『トイレに入った主人公の上から水をかける』を実行することにした。


まずは下見しなければ。不測の事態が起きても困るし。


手順を確認する。まず、主人公以外に人が入っていないことを確認。次に水の入ったバケツを用意。そして個室の上からダバー。


うん?水の入ったバケツ?


主人公がトイレに入って、水の入ったバケツを用意するまでに何分かかるんだろ。主人公がトイレに入ってる時に横でバケツに水溜めるの?ダバババーって?バレない?時間的に間に合う?


じゃあ、あらかじめ水を溜めておいたバケツなら良いかな。

私トイレ掃除だから昼休みが終わって試してみた。


「重っ!!」


重い!すごい重い!!頭より上に持ち上げるのって大変!グラグラするからうっかり自分に水かけそう!結構零したし!


「無理じゃない?」


テンプレいじめっ子のみんなどうやってるんだろ。背の低いちえりんとか大変そう。肩車してせーのってかけてるのかな。そのまま『笑いながらトイレから走って逃げる』もしてたりして。


待てよ、ホースなら重くないし、いけそうな気がする。


掃除用の蛇口にホースを取り付けて、水を出して


ビシャーッ!!!!!


「わっ!ちゃんと付けれてなかった!」


蛇口とホースの隙間から水が勢いよく漏れてる。

制服をびしょびしょにしながら慌てて水を止める。焦った。


ホースの方が蛇口より割と大きいみたいなので、手で押さえておくことにした。改めて、いざ、個室に水を……





「長くない?」


ホースから水が流れ込んで出口まで来るのが長い。そもそもこのホース、5メートル以上あるじゃん。


これでは最初のバケツに水を溜める時間と一緒だ。

1回やめて、良い方法が思いついたらまたやってみよう。


教室に戻ると、取り巻きの子たちが駆け寄ってきた。


「大丈夫!?誰にやられたの!?」


あー、やばいぞ。そういえばびしょびしょのまま。


「えっと、トイレで掃除してたら、水が…」


「え〜っ!酷くない?ヤバいよ!それ!先生に言った方がいいって!」


いじめられたと思われてる!


「いいの、私の自業自得ってやつだから!」


ごめん!心配してくれてありがとう!恥ずかしいからもう言わないで!


突然、バサッと私に向かってタオルが投げられた。


「それで拭いとけよ。」


声の方を見ると、タオルを貸してくれたのは、主人公の幼馴染のツンデレヤンキーもどき君だった。タオル、端っこにちっちゃくひらがなで名前が書いてある。お母さんに書かれたのかな。


かなりクラスで目立ってしまった。しかもみんなに心配かけてしまった。しばらく『トイレに入った主人公の上から水をかける』はやめておこう。




ここのところ2連敗。 今日こそ何か成功させたい。


『靴箱の中に汚いものを入れる』にしようと思ったけど、私のお弁当は残さず食べちゃうから残飯は無いし、泥とかみんなどうやって靴箱まで持ってきてるの?死んだ生き物とかはもうどうやってるの?見つけた時点でお墓作って埋めとこ?


ママの時代はお嬢様学校のテンプレいじめっ子がいっぱいいたらしいけど、お嬢様達もみんなこうやって困ってたのかなー。


はっ、『靴の中に画鋲を入れる』なら簡単なのでは?


そうと決まれば早速画鋲を、画鋲、画鋲、画鋲かぁ……


画鋲なんてどこにあるんだろう。


画鋲を使った掲示物はあるけど、画鋲を入れてるヤツが無いんだよね。みんなきっちり元の場所に返してるのかな。偉いけどテンプレいじめっ子たちが困るじゃない。


ふと、靴箱の横の掲示物に、一か月前に期限が切れてる催し物のチラシやポスターがいくつも貼ってあった。


これをはがして画鋲を手に入れたら良いのでは。私冴えてるんじゃない?


いそいそと画鋲を外し、丁寧にポスターを折り畳み、また外し……



全部取り終わった!合計で4×6の24個!片方のシューズに12個ずつ!いい数じゃない?


ふと、横に人がいることに気付いた。


「ご苦労さま。一人でやってくれたの?偉いね。」


わ、わー。ニコニコ優しい系腹黒先輩だ。主人公の部活の先輩の。生徒会役員の。怖い。何考えてるか分かんないけど、ボソッと独り言を言ってるのをよく聞いてしまう。


ふと、ニコニコ優しい系腹黒先輩が手にプラスチックの画鋲入れを持っているのに気が付いた。これ!私が今一番欲しかったもの!


手に持っていた画鋲をそのまま画鋲入れにザラーっと流し込む。


「わざわざ持ってきてくださってありがとうございます。」


「いいんだよ、本当は僕ら生徒会がしなきゃいけない仕事だったんだから。ありがとうね。」


そう言ってにこやかに先輩は去っていった。



はっ。違う。私は画鋲を12個ずつ靴の中に入れる予定だったのに……。


仕方なく、新たに靴の中に入れれそうなものを探す。


ポケットから朝ダンゴムシ用に落ち葉を拾っていた時に見つけたドングリが出てきた。しかも沢山。


帽子付きのドングリだけもう一度ポケットにしまって、残りを主人公の靴の中に入れた。靴の中が茶色で敷き詰められている。健康サンダルみたいで痛いだろうな、と愉快に思いながら靴箱から立ち去った。



「ねえ、親友ちゃん!わたしの靴の中に沢山ドングリが入ってた!」


「なんで?」


「もしかして昨日バス停で傘持ってなかったおじさんに会ったからかな!」


「傘貸したの?」


「貸してない!わたしのしか持ってなかったから!」


「じゃあ違うんじゃない?」




この前は無事ドングリで主人公を困らせることが出来たので、

今日は放課後を使って『主人公の持ち物に酷い言葉を書く』を実行しようと思う。


まずボキャブラリーの確認をすることにした。ルーズリーフに1個ずつ悪口を書いてみる。


「ばか、あ〜ほ、どじ、まぬけ、えー、ちび……あ、私の方が低いんだった。無し。」

「えー、でぶ……あー私この前3キロ太ったから私もデブになっちゃう。無し。」

「そうだ!ぶす、ブスにしよう!知性を見せつけるために漢字で書こう!茄子、違うな、なんか違う。『子』は合ってるはず。」

「ぶ、ぶ、ぶ、部?部子?違う、ぶ、ぶ……ぶ」


「こうだよ」


私のシャーペンを取ってサラサラとルーズリーフに綺麗な『附子』が書かれていく。


ヤバい。ヤバい。非常にヤバい。見られた。見られた。

主人公に見られたー!!


「他のも漢字で書くの?」


ひえっ。


「別に……」


「これ書いて何に使うの?」


ひゃー。もうだめ。嘘の付きようがない。


「悪口の!ボキャブラリーを増やすのっ!」


自分で改めて言ってみるとすごいバカみたいだな。さっきの悪口全部私にはね返ってくる。さよならテンプレいじめっ子のみんな……私、袋叩きに遭います……友達は黒幕系いじめっ子のやっちごめん……ベルばら今度のテンプレいじめっ子の会で貸すって言ったのに……。


「わ、分かるー!めっちゃ分かるー!!」


分かる?


「ウチもねー!姉ちゃんいるんだけど口喧嘩したらいっつもわたしが負けるー!!」


「そう!私も兄さんに負けるの!一体どこからあんな酷い言葉仕入れてくるんだろってなるの!」


「分かるー!もう酷いよね!」


「最初はバカとか言ってるんだけど段々お前の脳みそ5歳とか言ってくるの!」


「わたしは姉ちゃんがアンタは面食いぶりっ子とか腹黒八方美人とか言うのめっちゃムカつく!」


「ねー!」


「ちょっと普段から悪口言われたら言い返す練習とかした方がいいよね!」


「やろう!コテンパンにしてやりたい!」


それからひとしきり私達は悪口を相手に言いあった。持ち物に書くよりすごく効率が良いし、『面と向かって悪口を言う』が出来たのでかなり上出来だと思う。


「と言うわけで、私はこの1ヶ月で、テンプレいじめっ子として、色々なことをしました。あと、みんながGをどうやって手に入れているのかと、トイレから水をかける簡単なやり方を、教えてくださいっ。」


テンプレいじめっ子の会のみんなが顔を見合わせている。


テンプレいじめっ子の会の会長が私に話しかけた。ちなみに同じ学校の子。


「それでこの前2人で『このダンゴムシ!まるまり女!脱皮しちゃえ!』だの『私の幼馴染に色目使ってんじゃねーよ!クソ女!』だの言い合ってたの?」


「そうです!」


「あなた明日から主人公と立場交代しなさい。」


「何でですか!私テンプレいじめっ子として頑張ってたじゃないですか!」


「あのね?私達テンプレいじめっ子は漫画の枠内でいじめの準備をしているところを見せないでしょ?」


「はいっ。」


「そもそもテンプレいじめっ子はわざわざGを探して持ってきたり、泥を持ってきたりしないの。あれはテンプレいじめっ子の使える不思議な力なの。演出なの。」


「まじですか。」


「どう考えてもやってる最中がマヌケでしょ?頑張ってプルプルしながらバケツを持ち上げるテンプレいじめっ子。ビニール袋やバケツに泥入れて運んでるテンプレいじめっ子。Gと格闘するテンプレいじめっ子。」


「そんな、みんなあの苦労をせず不思議な力を使ってたなんて……。私、ただのマヌケになるところだったんですね……」


「そもそもあなたどうして何も知らないのにテンプレいじめっ子としてやってるの?」


「ここにいるとお茶会が出来るし、普段漫画の中で頑張ってテンプレいじめっ子役をしてるみんなが仲良くしてくれるので!」


テンプレいじめっ子の会の会長が、深いため息をついた。


「みんな、お茶にしましょう。」


わーい。脱退の危機回避。ありがとうテンプレいじめっ子の会の会長さま。友達は黒幕系いじめっ子のやっちと一緒にベルばら読もう。いいセリフがあったら書き出してみよう。


頑張って不思議な力が使えるテンプレいじめっ子を目指すぞー!



次のテンプレいじめっ子の会で、新しいテンプレいじめっ子が入ってきた。


「主人公だったけど、いじめられるためにわざと鞄を置いて帰ったり、こっそりトイレのホースを幅が合わないやつに変えたり、先輩に画鋲使って悪いことしようとしてるってチクッたり、テンプレいじめっ子役に向かってめっちゃ悪口言ったりしました!よろしくお願いします!」


なんと。

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