くだらない記憶は、思い出になった
記憶転移で見れたのはここまで。
このあとオレらは別々の中学校に進学したから、接点もなにもない。
まさか、小学生のときのクラスメイトから臓器を提供してもらうなんて夢にも思わなかったな。
しかも、その子と両想いだったなんて。
それを自分だけが知るっていうのは、神さまはどれだけ意地悪なんだろうな。
さっきは死にたいって言ったし、それは本当の気持ちなんだけどさ。
でも、この記憶だけでオレは生きていけそうな気もしてるんだ。
全然うだつの上がらない人生で、人に迷惑かけてばかりだけど。
彼女のくれた温かい記憶が、オレのくだらない記憶を大切な思い出に変えてくれたんだ。
長々と話しちまったな。
これで記憶転移の話はおしまいだ。
気づけば陽も落ちかかってる。
結局1日中話を聞いてもらっちまったな。
ありがとうな。
人と話すのは苦手なんだが、人と話さなかったら淋しくなっちまうんだ。
バカだよな。
他人のことを受け入れる余裕のない、ちっぽけな人間なんだよオレは。
……あぁ、そうだ。
なんかオレに渡したいものがあってきてくれたんだろ?
今日はそれをもらって終わりにしよう。
見舞いにきてもらえて嬉しかったよ。
そのでかい紙袋に何が入ってるんだ?
随分重たそうだが。
え?
オレが通ってた小学校の卒業アルバムを持ってきた?
あんたよくオレのこと知ってたな。
すまんがオレはあのときの記憶があまり残ってないんだ。
好きだった子の記憶も、記憶転移がきっかけで偶然思い出せたものなんだよ。
事故で殆どの記憶がとんじまってな。
だからオレはあんたの名前も顔も覚えてないんだ。
せっかく見舞いにきてくれたのに、悪かったよ。
あの例のページを見ろって?
なんであんたの卒業アルバムのページなんて見ないといけないんだ。
……どういうことだ?
オレあてのメッセージが書いてある……。
誰がこんな……。
まさか、あんた。
嘘だろ……。
そんなこと。
嫌なわけあるか。
すごく嬉しいよ。
あ、そうだ。
ずっとあんたに言いたかったことがあったんだ。
あのとき悪かったよ。ごめんな。
……消しゴム、拾ってくれてありがとう。