消しゴム
そういえば自分のこういう話を誰かに話すのは初めてだな。
意外と恥ずかしいものだな。
もう20年近く前の話になるのに。
そもそも10年も生きていないガキだった頃でも、誰かに恋をすることに驚きだよ。
特にませてたわけでもない。
普通にみんな好きな人はいたんじゃないか?
よくそんな話で盛り上がっているのを遠巻きに聞いてたよ。
なんで遠巻きかって?
誰もオレの恋話になんか興味なかったんだよ。
話を元に戻そう。
あの子を好きになったきっかけだったな。
……消しゴムを拾ってもらったんだ。
机から落としてしまった消しゴムを拾ってくれた。
それだけだ。
オイオイ、笑うなよ。
いや、笑ってくれたほうが助かるんだけどな。
もう少し詳しくいうとだな。
その消しゴムのケースに描かれたキャラが、その子も好きだったんだ。
それを見たその子が、すごく可愛い顔で笑って、消しゴムを渡してくれたんだ。
その子の笑顔を、そのとき初めて見た。
オレは礼を言う余裕もなく、……いや違うな。
自分の気持ちを隠すために、わざと無愛想な態度で受け取った。
そしてこのことは記憶転移が起きてから知ったんだが。
どうやらその時のオレの態度でこの子を傷つけてしまったみたいなんだ。
すごく後悔してる。
そのあとはオレもその子と同じだった。
視界に入ると無意識に姿を追ってしまう。
珍しく声が聞こえると、気になってしまう。
もう一度、笑ってくれないかなって。
そんなことばかり考えてたよ。
あのあと消しゴムも何度かわざと落とした。
その子はもう拾ってはくれなかったけど、自業自得だから仕方ないよな。
消しゴム事件がきっかけで、どうやらオレはその子を怖がらせてしまったらしい。
当然だよな。
もともとそんな気が強そうな子でもなさそうだ。
あんな態度をとられたら誰だって怖くなるさ。
え?
きっともうその子はそのことを気にしてないだって?
まぁ、20年も前の話だし。
そもそもその子だってもうオレのことなんて覚えてないだろうさ。
……記憶の隅っこにでも覚えてくれてたら嬉しいけど。
で、結局その子はどうしてオレのことを好きになったかって?
は? 当ててやるってか?
おもしろい。
じゃあ、当ててみろよ。
当たっても正解かどうかは言わないけどな。