表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/100

95・アローVSサリヴァン②

 アローの面会数日前。

 サリヴァンは、頭を抱えていた。

 

「三家からの使者だと……おのれ」


 様々な事業に手を出しては失敗続き、アスモデウス領地内の鉱山は全て閉鎖、取引していた貴族たちは軒並み離れていき、アスモデウス首都トビトは日に日に荒れていく。

 このタイミングでの使者。間違いなかった。


「……四大貴族からの除名」


 サリヴァンは、すっかり抜け落ちて寂しくなった頭を両手で押さえる。

 鍛え抜かれた身体はすっかり痩せ細り、顔の輪郭も変わって別人のようだ。

 二十代後半と脂の乗った年齢なのに、四十代前半と言っても信じてしまいそうな容姿となった。

 だが、サリヴァンは容姿になど気を遣っていられない。


「どうすればいいのだ……」


 もう、手遅れなほど、アスモデウス領地は荒廃している。

 飢える住人たち、増える犯罪……取り締まる者たちも飢えているのか、今の治安は過去最悪なレベルで悪い。

 すると、執務室のドアがノックされ、一人の女性と少年が入って来た。


「あなた、少しお話が……」

「ミレーヌ……すまんが、今は忙しい。後にしてくれ」

「……そうはいきません。大事なお話なのです」

「…………」


 サリヴァンは察した。

 正妻ミレーヌ。そして、その長男であるロイド。

 サリヴァンはソファに移動し、ミレーヌとロイドが並んで座る。そして、ミレーヌはサリヴァンの前に、一枚の羊皮紙を置いた。

 そこに書かれていたのは、離縁書。


「こ、これは……」

「本日を持ち、離縁させていただきます。理由は、おわかりですね?」

「…………ま、待ってくれ。アスモデウスはまだ」

「もう、終わりです。四大貴族アスモデウスは、もう終わりなのです……」


 ミレーヌは、サリヴァンの愛人の一人だった。

 アスモデウス領地が傾き始め、多くの愛人が出て行ったり、サリヴァンが追いだしたが……息子を産んだこともあり、正妻として残されたのだ。

 ミレーヌは悲し気に言う。


「数年前のあなたは、輝いていました。アスモデウスを率いるに相応しい人だと思っておりました……しかし、今のアナタはもう」

「お、終わっていない……私は、まだ」

「……もう、現実を受け入れましょう。アスモデウスの名を返上し、この地を三家に譲り渡すのです。もう、あなたは貴族に相応しくない」

「ふざけるな!! 貴様、誰にモノを言っている!! このサリヴァン・アスモデウスが……アスモデウスを捨てる!? あり得ない!!」

「…………」


 ミレーヌは首を振り、立ち上がる。

 サリヴァンは顔を歪め、ミレーヌを睨む。

 だが、ミレーヌを守るように、ロイドが前に出た。


「父上。さようなら……」

「ロイド、お前はこのアスモデウスの領主となる男。私を……アスモデウスを、捨てるのか!?」

「はい。ぼくと母上は、アスモデウスを出ます」

「ど、どこへ行くというのだ。お前たちのような平民上がりの貴族なぞ、受け入れる場所があるとは思えん!!」

「ぼくたちは、セーレに向かいます。そこで、やり直します」

「せ……セーレ」


 そう言い、ミレーヌとロイドは部屋を出た。

 残されたのは、一枚の離縁書。


「セーレ……」


 サリヴァンは強く拳を握り、テーブルに叩き付けた。


「セーレ!! そうだ、セーレに関わってから全てがおかしくなった!! あんな土地を欲しがらなければ……ああそうだ、全てセーレが悪い!!」


 そして、サリヴァンは思い出す。


「セーレ……そうだ、セーレには領主の息子が……アローがいた。あいつの追放から全てが狂い始めた……クソ、クソクソ、クソぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 この日以降、サリヴァンはセーレに対し、深い恨みを持つようになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 数日後。

 怒りを募らせたまま、サリヴァンは三家からの使者を出迎えることになった。

 どうせろくな話じゃないと思っていた。なので、何の疑問も持たず、使者を出迎えた。

 サリヴァンは、アスモデウス邸で最も大きな応接間で使者を待っていると、ドアがノックされる。


「旦那様、使者の方々がいらっしゃいました」

「通せ」


 ドアが開き、サリヴァンは立ち上がり、笑顔を浮かべ使者を出迎える。

 使者が部屋に入るなり、サリヴァンは頭を下げた。


「遠路はるばるようこそ、アスモデウスへ」

「…………ああ、ようやく来たよ」


 若い男の声だった。

 同時に──サリヴァンの記憶が刺激される。

 ガバッと顔を上げると、そこにいたのは。


「久しぶりだな、サリヴァン……俺を覚えているか?」

「………………………………」


 若い男だった。

 隣には若い女性、何故か子供もいる。

 その後ろには老人……見覚えがある。

 さらに後ろには三人の女性。こちらも、見覚えがあった。

 

『殺す、殺してやるサリヴァン!!』

『お前は絶対、俺が殺してやる!!』


 サリヴァンの背筋が冷たくなる。

 目の前に立つ男。立派な礼服を着た青年は、殺意を込めた瞳をサリヴァンに向けた。

 そして、サリヴァンは青くなり、呟く。


「あ、アロー……、セーレ」

「思い出したか。ああ、ようやくだ……約束通り、戻って来た。サリヴァン・アスモデウス……お前を殺すためにな!!」


 アローが叫び、サリヴァンに今にも飛び掛かりそうだった。

 だが、アローの隣にいた女性が腕を掴み、首を振るう。

 それだけでアローは落ち着いたのか、大きく深呼吸した。


「な、何故貴様がここに!? 馬鹿な、衛兵は何を」

「ふぅ……説明してやる。そもそも、俺がここに来たのは、仕事だからだ」

「し、仕事……?」


 アローは、一枚の木箱を取り出す。

 その木箱には、四大貴族三家の焼印が押された、特別な箱だった。


「そ、それはバアル、アモン、アスタルテ家の紋!? 馬鹿な、何故貴様が」

「まだわからないのか? 俺は、三家からの使者……マリウス領地から来た、アロー・マリウスだ!!」

「なっ……」

「お前が追放したマリウス領地。俺はお前の計らいで正式な領主になったからな……俺はマリウス領地をまとめ、改革し、新たな産業を生み出し、他家と交易をするまでに発展させた。おかげで、四大貴族のうち三家と協力関係を持つまでに至った。感謝するぜサリヴァン、お前が!! 俺を!! マリウス領地に追放したから!! 俺はここにいる!!」

「ば、馬鹿な……っ!?」


 サリヴァンがよろめく。

 アローは一歩一歩前に進み、木箱を空け、羊皮紙を開いた。


「サリヴァン・アスモデウス!! バアル家、アモン家、アスタルテ家の三家が決定した!! アスモデウス家は四大貴族より除名、そして新たな四大貴族にセーレ家が加わる!! お前はもう、四大貴族じゃない!! ざまあみろ!!」

「っ、く、ぅ……!!」


 羊皮紙をテーブルに叩き付けるように置く。

 この瞬間、アスモデウス家は四大貴族から除名。ただのアスモデウスとなった。

 サリヴァンは歯を食いしばるが、呼吸を整えて言う。


「ふう……久しぶりだというのに、やってくれるね」

「…………」

「確かに、きみは三家からの使者で、アスモデウス家は四大貴族から除名されたというのは事実。だが……それで終わりだ。きみが真っ当な貴族である以上、私に対しあとは何もできまい。所詮は、使者に過ぎないのだからな」

「……何?」

「父の復讐、領地の復讐をするか? 私を殺すか? 私に手を掛けた瞬間、きみはただの犯罪者だ。きみにできるのは、私を四大貴族から除名し、優越感に浸るだけ……さあ、報告が終わったら帰りたまえ。アスモデウス家は四大貴族から除名……それに従おう」


 サリヴァンは、やり過ごす。

 アローの復讐に、何のダメージもないとばかりの余裕を見せて。

 そんな時だった。アローの背後から女性が現れた。


「……サリヴァン」

「ん? 誰だキミは? 申し訳ないが忙しいのでね。使者と共に退室したまえ」

「……あたしのこと、覚えてないんだね」

「何? 申し訳ないが、キミのような……」


 と、ここでサリヴァンは気付いた。

 リューネ。かつての愛人であり、アローの元婚約者。


「…………リューネか?」

「そうよ。あたし、姿が変わってもあなたのことすぐわかったけど……あなたは、あたしのこと全然見てないんだね」

「それで、何か用か?」

「これを」


 リューネは、離縁書を出し、テーブルに置いた。


「けじめを付けに来たの。サリヴァン……どんな思惑があったにせよ、あたしはあなたに惹かれ、恋をした。あたしに宝石のような思い出をくれたこと、感謝します」

「離縁書……そういえば、キミは出していなかったな」

「ええ。でも、もう吹っ切れた。やっぱりあたし、アローが好き。もう届かない想いだけど、アスモデウスの思い出はキラキラしてたけど……もう思い出せない。でも、セーレで過ごした思い出は、ずっと心に残ってる」

「そうか。では受理しておく。さようなら」

「……さようなら」


 リューネは拳を握り、頭を下げた。

 リューネなりに、けじめをつけたのだろう。アローと目が合うと、晴れやかな顔で頷いた。

 これで、復讐は終わり。

 だが……アローは、モヤモヤした気持ちが残っていた。四大貴族から除名するという役目で来たことに違いないし、サリヴァンの言う通りアローは『使者』で来たのだ。サリヴァンに手を掛けることはできない。

 そんな時だった。


「アロー、これでおしまい?」

「え?」


 アテナが言う。

 サリヴァンが怪訝そうな顔で言う。


「おしまい、とは? そもそもキミは何だ? いい加減、さっさと出て行きたまえ」

「生意気なクソハゲね。そもそも、私がここに来たのは、アローに対する『罪』を断罪するために来たのよ」

「何? 断罪? はっ……ただの女が、私を裁くとでもいうのか?」

「違うわ。大切な旦那のために、ちょっとは女神らしいことしようと思ってね……『汝の罪を』」

「ッ!?」


 と、アテナが言葉を発した途端、サリヴァンが跪いた。

 サリヴァンだけじゃない。アローたちも跪く。アミー、ルナだけが立っていた。


「我が名は戦いと断罪の女神アテナ。神の名をもってここに、サリヴァン・アスモデウスの罪を語る」

「め、女神……だと!?」


 すると、アミーが言う。


「私は不幸と貧困を、ルナは愛と幸運を、アテナは戦いと断罪を司る。アテナの力の一つに『断罪の儀』があるの。強制的に罪を告白させて、裁く力……でもいいの? あなた、人間の身でそんな強い力を使ったら、身体にどんな影響が出るか」

「別にいいわよ。そんなことより、アローが前に進む方が大事だしね」

「アテナ……無茶しないでね」


 ルナが袖を引く。

 アテナはにっこり微笑み、サリヴァンに聞く。


「汝、サリヴァン・アスモデウス。お前の罪を述べよ」

「わ、私は……かつて、セーレを手に入れるため、陰謀を巡らせ……ハイロウ・セーレを殺害し、アロー・セーレを追放しました」

「罪を確認した。では、その罪……女神アテナ、いえ……我が夫アローが、断罪する」


 すると、アローとサリヴァンの身体が解放され、動けるようになった。


「サリヴァン、これからあなたを断罪する。断罪するのはアロー……抵抗してもいいわよ」

「なん、だと……」

「アロー、あなたは私の代わりに、サリヴァンを断罪しなさい。方法は任せる」

「……アテナ」

「さ、始めなさい」


 すると、サリヴァンが狼狽えた。


「ば、馬鹿な!! 断罪の女神だと!? こんな処刑のような真似をして、タダで住むと思うな!! アロー、貴様……そのわけのわからない女の言うことを聞いて、私を手にかけるつもりか!?」

「言っておくけど、私の『断罪の儀』は正当なもの。私が『断罪した』って事実は、どんな人間にも正統な断罪だと判断される。こうなった時点で、たとえあんたが死んでも、この世の人間には「女神アテナに断罪されたのか」で納得するから」


 つまり、ここで殺しても問題ない。

 これは、サリヴァンの断罪なのだ。


「……感謝する、アテナ」


 アローは構える。

 ジガンからもらったナイフを抜き、サリヴァンに向けた。


「クソガァァァァァァ!!」


 サリヴァンは叫び、壁に掛けてあった剣を抜き、アローに向ける。

 アローとサリヴァン、最後の戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇超辺境の領主アローの生活~濡れ衣を着せられ追放されましたが、二人の女神と新生活を送ります~ (BKブックス)
レーベル:BKブックス
著者:さとう
イラスト:匈歌ハトリ
発売日:2023年 10月 5日
定価 1496円(本体1360円+税10%)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
6htf3uidx5t4ucbmfu0e6pj43r3_179o_147_1lg_g228.jpg

お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
お読みいただき有難うございます!
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

お読みいただき有難うございます!
最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
[良い点] おや?作法に基づいた貴族の決闘ではないのか 白い手袋をぶん投げるのかと思ってた [一言] 「セーレでやり直します」 セーレ領はゴミ捨て場ではないんだけど レイアも受け入れたし、懐が深いの…
[一言] 権能まで使って断罪されちゃったんじゃあ言い逃れができんなぁ。 やろうと思えば抵抗すら許さない処刑もできただろうに、決闘の形でおさめたのは慈悲か、あるいは旦那の正当な復讐の機会をつくりたかった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ