表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/100

92・アーロンの言葉

 アーロンを旅に加え、セーレを出発した。

 アスモデウス領地までは遠い。まだまだ、旅は続く……が、俺は少し嬉しかった。


「まさか、アーロンと旅ができるなんてな」

「ふふ、そうですね。私も嬉しいですよ」


 アーロンは馬に乗り、荷物は全てホワイトに任せた。

 けっこうな重量のはずだが、ホワイトはケロッとしている。まあ、三匹で身体の倍以上の竜種を引きずるくらいだしな……この程度、何てことないんだろう。

 ちなみに、ルナは今、アーロンの馬に乗っている。


「おじさん、今度はどんなお話聞かせてくれるの?」

「そうですね……少し古い話ですが……」


 アーロンは、物語をルナに聞かせてくれていた。

 童話をかなりの数暗記しているのは知っていたが……おかげでルナが退屈しないでいる。

 すると、アテナが近づいて来た。


「ね、アロー……前から思ってたけどさ、あのおじいちゃん、今まで会った誰よりも強いわよ。ウェナとか、リアンとかが連れてきた護衛とか、もう目じゃないくらい」

「そりゃそうだろ。アーロンは父上の剣術指南とかもしてたんだぞ」

「あんたは?」

「……どうせ俺に剣の才能はなかったよ」


 アーロンに剣は習ったけど、俺はちっとも上達しなかった。

 ちなみに、アーロンは腰に剣を差している。アテナはウズウズしているのか、アーロンの傍に行く。


「ね、アーロンだっけ。あんた、私と手合わせしない?」

「申し訳ございません。この剣は、理由なく抜くことはしないと誓っているので」

「むー……ちょっとくらい、別にいいじゃん」

「ははは……それに、私ではあなたに敵わないでしょう」

「わかってんじゃん。でもでも、自信もっていいわよ。あんた、間違いなく強いからっ」

「ありがとうございます」

「ねーねーお話、続き~」

「おっと、申し訳ございません」

「ね、私も聞いていい? なんか面白そうっ」


 アーロン、大人気だな……いや別にいいけどさ。


『はっはっは。アローはん、さみしいならワテを抱っこしてもいいでっせ』

「遠慮する。というか、手綱握ってんのに抱っこできるか」

『ぴゅるるるる』

『仕方ないから自分が相手してやる、って言ってまっせ』

「そりゃどうも……」


 アスモデウス領地への旅は続く。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 この日は、野営となった。

 基本的に、野営は全員で準備をする。テントはアテナ、アローッは食事、ルナはオオカミ家族にエサをあげる。

 リューネ、アミー、モエたちも、自分のテントを組み立てる。

 食事は各自。アローは一切、リューネたちに気遣うことも、声をかけることもない。だが食事の支度はしてくれるので、アミーが受け取りに行くのがこの旅の食事だった。

 当然……リューネたちは、文句など言わない。言えるわけがないし、文句なんてない。

 今日も、アローが食事を用意し、アミーが取りに行く。

 三人で食べ、あとは寝るだけ……だが、今日は違った。


「少し、よろしいですかな」


 アーロンが、リューネたちの傍に来た。

 リューネたちは焚火をしていない。アローは焚火をして、アテナやルナと楽しそうにお喋りしている。

 すると、アーロンが焚火の支度をしてくれた。


「モエ、あなたに焚火のやり方を教えたとは思いますが」

「……申し訳ございません。食事を終えると、すぐに寝てしまうので」

「そうですか。では、これからはちゃんと用意をするように」

「はい」


 モエは、アーロンからいろいろ作法などを習った。恩師であり、父親のような存在だ。

 四人で焚火を囲んでいると、アーロンが言う。


「リューネ。アロー様に、きちんと謝ることはできましたか?」

「…………ええ、まあ」

「謝ったはいいけど、相手にされなかったのよねぇ~」


 アミーがクスクス笑いながら言うと、リューネは顔を伏せた。

 アーロンが「そうですか」と言い、リューネに言う。


「きちんと謝ったのなら、仲直りできたということですね」

「……そんなことないです。アローはもう、あたしのことなんてどうでもいいみたいですし」

「そう、言ったのですか?」

「……え?」

「アロー様が、そう言ったのですか?」

「……言ってないです。でも『もういいか? 忙しいから』って……」


 無関心だった。

 怒るでもなく、恨むでもなく、殴るでもなく。

 どうでもよさそうに切り上げ、さっさと仕事に戻ってしまった。

 殴られた方が、まだマシだった。


「リューネ。あなたはもう一度、アロー様としっかり話すべきですね。そしてモエ……あなたも」

「……もう、一度?」

「はい。あなたは謝るため、命懸けでマリウス領地まで出向いた。そして、アロー様にしっかり謝り、相手にされなかった……そこで終わり、それでいいのですか?」

「……」

「あなたは、アロー様とどうなりたいのですか?」

「……そんなの、決まってる」


 やり直したい───……ゼロから。

 婚約者じゃなくていい。アテナ、ルナに向けている笑顔のほんの少しでいいから、自分にも向けてほしい……リューネはそう思っていた。

 アローの全てを奪うことに加担した罪は消えない。その償いとして、アローのために何かしたいと思っている。

 こんな汚れた自分でも、何かをしたいと、リューネは本気で思っていた。


「あたしは、自分の意志で全部捨てました。そして、失って初めて気づいた……あたしが捨てたモノが、どれほど大事だったか……だから、同じものが手に入らなくても……」


 アーロンは、グスグス泣き出すリューネの頭を、そっと撫でた。


「え……」

「本当の意味で、心から反省することができるようになりましたね」

「……アーロンさん」

「もう一度、アロー様とお話しをなさい。あなたの言葉を、しっかり伝えるのです」

「…………」


 その笑みは、リューネが知るアーロンの優しい笑顔だった。

 子供の時、見た笑顔と全く同じ。リューネはセーレでの日々を思い出し、再び泣いた。

 そんなリューネをモエは見ていた。


「どうして、自分はこんな風に泣けないのか……って、思ってる?」

「…………」

「あなた、本当にお人形さんみたい。命令を聞くだけ、裏切るのも仕事……自分の心を閉じ込めて……ふふ、本当にかわいい」


 モエはアミーを睨む。

 そしてアーロンはモエに言う。


「モエ、あなたもです。あなたは人形ではありません……自分の心を出し、アロー様とお話なさい」

「あら、聞こえてた? ふふ、嫌なオジサマね」

「あなたは……人の不幸、絶望を喜ぶ趣味があるようですね」

「ふふ……どうかしら」


 アミーは妖艶にほほ笑むが、アーロンは冷たい笑みで返した。

 リューネは立ち上がり、アローの方を見る。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 アテナとくだらない話をし、ルナがケラケラ笑い、俺も笑う。

 そんな時間を過ごしていると、アテナが「ふう」とため息を吐いた。


「なーんか眠くなってきたわ。ルナ、ファウヌース、寝るわよ」

「はぁ~い……ファウヌース、寝よ」

『はいな。アローはん、お先に』


 アテナがファウヌースを抱え、ルナとテントに戻った。

 ミネルバはどこかと周囲を見渡すと、近くの木の枝にいた。どうやら不審なものから警戒をしているようだ……まだセーレだが、盗賊なども出る可能性がある。まあ、出たところでアテナやアーロンの敵ではないが。

 でも、アテナが寝たのは……ただ眠いからじゃないだろう。


「あ、あの……アロー」

「……ん」


 リューネが、俺の傍に来た。

 視線を彷徨わせ、胸を押さえ、どこか居心地悪そうに。

 アーロンがリューネたちの傍に行った時から、こうなる気はしていた。


「……まあ、座れよ」

「う、うん」


 前は忙しいから適当に流したけど……さて、今回は何を話すのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇超辺境の領主アローの生活~濡れ衣を着せられ追放されましたが、二人の女神と新生活を送ります~ (BKブックス)
レーベル:BKブックス
著者:さとう
イラスト:匈歌ハトリ
発売日:2023年 10月 5日
定価 1496円(本体1360円+税10%)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
6htf3uidx5t4ucbmfu0e6pj43r3_179o_147_1lg_g228.jpg

お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
お読みいただき有難うございます!
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

お読みいただき有難うございます!
最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
[一言] 個人的には自分からしっかり裏切ったけど ちゃんと自分の罪に向き合っているリューネの方がまだましかな 元サヤはありえないけど モエはまず自分の罪から目を逸らすな レイアの事は誰も忘れている…
[一言] アイアン・シュガーさんの三つ目のニックネームが出来増したなと。(• ▽ •;)(①アイアン・シュガー ②ヒロイン原理主義者 ③和解夢想主義者。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ