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88・ルナとの帰り道

 三家との交易をまとめ、その日の夜はまた宴会。

 そして翌日から視察が始まった。

 まず、バアル家のフリードリヒさん。


「ふむ……素晴らしいね。資源はもとより、活気に溢れたいい場所だ」


 集落を案内し、いろんな人に挨拶をした。

 鍛冶場の見学、住居建築を遠くから見て大工に質問、パンを焼いているおばさんや野菜炒めを作っているおじさんに話しかけたり、果樹園の視察をしてブドウを食べたり。

 視察というか、観光みたいだ。

 そして、一通り周り終え、集会所に戻って俺と話す。


「ここは、いいところだ。私はね、領主として利益を望まなければならないんだが……まずは場所を見て決めているんだ。希望に満ちあふれた場所なら文句はない」

「希望、ですか?」

「ああ。取引をする相手……領主のきみではない、取引する物を作り、生み出す人たちを見て決める。ここの人たちは本当に楽しそうに、誇りをもって作業をしている。そういう人たちと取引をすれば、利益は自ずと付いてくる」

「誇り……」

「ああ。アローくん、改めて……きみとの交易、取引をしたい」


 バアル家は【通貨】を管理する。

 カナンに通貨を流通させることが決まった。これで物々交換しなくていいけど……住人たちの中には通貨を知らない人たちもいる。説得や納得させるのは俺の仕事だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 次はアモン家、そしてアスタルテ家。

 ドンキーさんは、マリウス領地周辺の地図を見ていた。


「……よくできた地図だな」

「ええ。ちょっとした自信作です」


 地図は、優先的に作成した。

 狩人たちに同行したり、各集落の人たちが持っていた地図を合わせて新しい地図を作ったり、地図にない場所は狩人たちに調べてもらったりと、かなり広範囲の地図ができた。

 ファウヌースも地理に明るかったので、いろいろ補足してもらった。今ドンキーさんに見せているのは、ファウヌースが補足した最新の地図だ。

 ルルーシェさんが静かだった。チラッと見ると、地図を羊皮紙に書き写している。


「ね、新しい橋を作るって話だけど、作業員はこっちで派遣するわ。資材の調達と、設計者だけ貸してちょうだい。私は街道を引くルートを作るから」

「は、はい……仕事早いですね」

「当然。ふふふ……私の代で初めて引く街道が、未開の地マリウス領地なんて最高よ。この地図、もっと詳しいのない? ああ、私が視察に行けばいいわ。護衛貸して。あの魔獣ブッた斬った子、アテナだっけ? その子貸してちょうだい」

「おいおいおい、まずは歴史調査が先だろうが。見ろこの森、そしてこの岩石地帯……こんな不自然な地形に岩石地帯があるんだ。何かあるぞここは」


 ドンキーさんが指さしたのは、丸い森の中央に開けた場所があり、そこに大きな岩が書かれているところだ。俺も不思議に思ったけど、ファウヌースが『昔の人間がでっかい墓石作ってましたな。どうやら王様みたいなのいたようでっせ』なんて言ってた。

 もしかしたら、国の痕跡みたいなのあるかも……俺も実は興味がある。


「そんなもんより!! 道を通して商人が行き来できるようにするのが先でしょうが!! 歴史探索なんていつでもできるでしょう!!」

「何ぃ!? いつでもとはなんだいつでもとは!! こんな宝の山を前に、後でなんて待てるか!!」


 興味あるけど……二人が怖いわ。

 下手に口出しすると睨まれそう。うう、フリードリヒさん呼びに行くか。


「ちょっとどこ行くの!! このデブに『街道が先』って言いなさいよ!!」

「アホ抜かせ!! アロー、歴史探訪が先だよな!!」

「え、えっと……」


 ど、どうすりゃいいんだ……フリードリヒさん、助けてくれ!!


 ◇◇◇◇◇◇

 

 そんなこんなで数日……話はまとまり、フリードリヒさん、ドンキーさん、ルルーシェさんは帰っていった……あー、いろいろ疲れたわ。

 でも、交易が本格的に始まる。四大貴族の三家が協力すると伝われば、他の七十二の貴族たちもきっと興味を持つ。

 街道が完成し、橋も完成すれば、いろんな領地から人が出入りできるようになる。

 集落はさらに大きくなる……もう集落とはいえない。村、町といっても過言じゃない。

 俺も、領主として本格的に忙しいくなるぞ。

 

 俺は仕事を終え、ゴン爺の家にルナを迎えに行った。

 ゴン爺の家にドアはない。カーテンを潜って中に入ると、いたいた。


「あ、ぱぱ!!」

「迎えに来たぞ、ルナ」

「うん。あのね、おじいちゃんから果物いっぱいもらったの」

「おお……すごいな」


 ルナの手には果物のバスケットがあり、新鮮な果物がたくさん詰まっていた。

 俺はゴン爺に言う。


「ゴン爺、ありがとう」

「ほっほっほ。かわいい孫のためじゃ。気にするでない」

「……孫ね」

「なんじゃ、文句あるか」


 ゴン爺、未だにルナを自分の家に迎え入れようとしている……冗談なんだろうけど、たまに本気に見えるんだよな。

 ゴン爺は、俺に向かって言う。


「聞いたぞ……『近い』んじゃな」

「…………ええ」

「ふえ?」


 ルナが首を傾げたので、頭を撫でる。

 子供は知らなくていいことだ。いや……知らせたくない。


「……気持ちは、変わっていないな?」

「はい、ずっと変わらないです」

「うむ。ふふ、大きくなったのう……アロー」

「え、あの」

「さ、夕飯も近い。帰った帰った」

「ばいばい、おじいちゃん!!」


 ルナと手をつなぎ、ゴン爺の家を出た。

 家を出て、ルナと手をつないだまま歩いていると、上空からミネルバが飛んできて、俺の肩に止まる。もうこのくらいのことじゃ驚かなくなった。


「ね、ぱぱ」

「ん、どうした?」

「ぱぱ、お仕事いそがしいよね。あのね、またアテナと三人で、どこかお出かけできる?」

『ぴゅいい』

「あ、ミネルバもいっしょだよ!!」

「ははは。そうだな……うん、きっと行けるよ」


 ルナには知られたくない。

 でも……俺はなんとなく察していた。

 アスモデウス領地に向かう時、きっとアテナ……そしてルナが、傍にいる。

 アテナたちとの出会いで始まった復讐。きっと、終わるときも三人いなくちゃいけない。


「ルナ。実は、もう少ししたら、アテナとルナを連れてお出かけしなくちゃいけないんだ」

「ほんと!!」

「ああ。少し遠いけど、きっと楽しいぞ」

「やったー!! ね、ね、ブランたちもいっしょ?」

「そうだな。ユキとシロは留守番任せることになると思うけど」

「ファウヌースは?」

「あいつは……うん、最近運動不足だし連れて行くか」

「やったあ!! えへへ、たのしみ」


 ルナは俺の手をブンブン振り、楽しそうに笑うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連れていくのか…ルナ まあ殺戮や暗殺ではなく決闘ならありなんかな [一言] 電書なんでようやく1巻が配信されました。 序盤はきついんで、心構えが必要だから後でゆっくり読みます
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