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83・手を借りたい

 四大貴族……アスモデウス家を除いた三家への手紙を書き、エリスとシャロンに届けるよう頼む。

 二人は快く引き受け、カナンを後にした……これから二人は交易の準備などで大忙しになるが、どこか楽しそうだった。

 どうも、マリウス領地への視察は休暇も兼ねていたようだ。まあ、調査や視察がメインだったが、アテナたちと釣りしたり、飲み会とかもやっていたしな。

 俺も俺で忙しくなった。


「集落長、森に資材取りに行きたいんだが、護衛貸してくれねぇか」

「わかりました。アテナに伝えておきます」

「集落長、交易用の品々をまとめたので、確認をお願いします」

「わかりました。あとで行きます」

「集落長、新しい水路について、少し見直ししたいんですが……」

「ああ、わかりました。午後に伺います」


 と……休む暇がないくらい忙しくなった。

 交易が始まり、最初は交易に渋っていた人たちも協力をするようになった。今では、カナンの最優先作業として、準備が始まっている。

 アイニー、マルパス、パイモンから来る移住者や作業員たちの住居、それにともなう集落の拡張、施設の建築など大忙し……激務なのだが、集落の人たちはこれでもかと張り切っていた。

 

 理由はまず、お酒だ。

 カナンでも酒は造られているが、やはり他領地で長年寝かせたワインや醸造酒には敵わない。交易をすれば美味い酒が飲める!……と、まあ下心ありで働く人たちはけっこういた。

 そして、純粋に『働く』という行為が楽しい人たちだ。

 これまでは『生きる』ために働くしかなかった。でも、余裕が出た今、興味のあることが『仕事』となり、集落が潤うことを生きがいとする人たちが増えたのだ。

 鍛冶、農業、酒造り……『やってみたい』と思っていたことができるうようになり、それが集落のためになる。これほどうれしいことはない。

 そう思いつつ、俺は集会場で書類を整理していた。


「えーっと……収穫物、交易品のチェックしないと」


 書類を手に、交易品が置いてある倉庫へ。

 倉庫には大勢いた。そして、ドクトル先生もいた。


「ドクトル先生」

「む……アローか。お前も、交易品の確認か?」

「ええ。ドクトル先生は薬品関係の担当ですよね」

「ああ。確認は終わった……む、アロー、少し顔色が悪いぞ。ちゃんと休んでいるのか?」

「あー……最近、仕事が忙しくて」

「……今が大変な時期というのはわかる。だが、お前が倒れたら元も子もない……少しは休め」

「は、はい……」


 最近、遅くまで起きて仕事してるし、朝も早いからな……アテナやルナとの時間も少ない。

 でも、忙しいしな……休んでいられない。


「ふむ、アロー……お前の仕事を補佐する人はいないのか?」

「俺の補佐? あー……そういやいないですね」

「お前ひとりじゃ限界がある。誰かいないのか?」

「そうですね……区画長たちも忙しいし、文字を書けたり、計算が早い人は……」


 ───…………ああ、いた。

 でも、これは無理だな。

 すると、ドクトル先生が言う。


「そういえば……集落の外れに住む三人はどうしている?」

「…………」

「……ああ、すまん」


 ドクトル先生は謝り、診療所へと戻った。

 

「……そういや、いたな」


 リューネ、そしてモエ。

 あいつらなら、俺の仕事を補佐できる。

 特にモエ……あいつは、俺よりも計算が早く、頭が回る。

 だが……今更頼むなんてしない。あいつらはもう、ただここに住むだけの人間だ。


「……よし、確認確認」


 俺は書類を片手に、交易品の確認を始めた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 数日後。

 俺はベッドから起き上がれず、ドクトル先生の診察を受けていた。


「過労だな。全く……言っただろう、休めと」

「……ぅ」


 薬を処方してもらい、ドクトル先生は去った。

 ベッド際に、アテナとルナがいる。


「驚いたわよ。あんた、起こしても起きないし、すっごい熱なんだもん」

「……すまん」

「ぱぱ……大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」


 ルナが俺の手を握るので、そっと握り返す。

 アテナは、俺の頬をツンツンしながら言った。


「仕事忙しいとは思ってたけど、ぶっ倒れるまで頑張らなくてもいいでしょ……あまり心配させないでよ、馬鹿」

「……ごめん」


 アテナは額の濡れタオルを交換してくれた。

 身体が重い……頭は痛いし、熱でぼんやりする。

 睡眠不足が祟った過労。しばらく休まなくちゃいけないらしい……仕事が山積みなのに。


「そういや、ドクトルから聞いたわよ。あんたの仕事を補佐する人が必要だって」

「……そうだけど」


 いきなりは無理だ。

 少なくとも、計算や物書きができる人間じゃないと。カナンにで文字を書ける人は意外に少ないし、書ける人や計算できる人はみんな、すでに他の仕事をしている。

 

「まさか、お前……やってくれるのか?」

「私、書くのも計算もできるけど、剣振る方が好きだし、警備や狩りもあるから無理」

「…………」


 というかこいつ……俺と同じくらい激務のくせに、めちゃくちゃピンピンしてるんだよな。

 警備隊として集落の周りを警備し、終わったらそのまま狩りに出て朝方戻ってくる。そしてそのままメシをドカ食いして爆睡……めちゃくちゃな生活が多いのに、なんで身体壊さないんだ。


「ぱぱ、わたしがお手伝いしたい……」

「無理よ。あんた、物覚えいいけど、まだ子供でしょ。子供は勉強して遊ぶのが仕事。あんたが仕事してたら、集落の子供たちも安心して勉強したり、遊んだりできないでしょうが」

「……むー」


 アテナの言う通りだ。

 さすがに、この仕事をルナに手伝ってもらうのは……気が引ける。

 すると、アテナは言う。


「じゃあ、アミーは? リューネとモエは嫌なんでしょ? あいつヒマしてるだろうし、コキ使ってあげたらどう?」

「アミー……って、ルナと正反対の女神だろ。俺、呪われたくないぞ」

「あいつの力、アスモデウス領地を侵してるから、こっちじゃ無害。それに今はルナの力のが強いから、あいつはただの人間と変わんないわ。それに、ムカつくけど……あいつ、頭もいいし優秀よ」

「…………」


 アミー……女神アラクシュミーか。

 姿は見たけど、喋ったことはないんだよな……うむむ。


「あいつが妙な事しないように、私も見張ってるから。今は、あんたの負担を減らす方が大事。よし、行くわよルナ」

「うう……あのおねえちゃん、あんまり好きじゃない」

「私も。でも、背に腹は代えられないわ。じゃあアロー、休んでてよね」

「お、おい」


 アテナは、俺の返事を聞くことなく出て行った。

 アミー……俺の仕事、手伝ってくれるかな。

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[一言] アミーならアテナが了承しているならまぁ良いかと思われるが、リューネとモエは仕事と割り切ってもダメだな、変に期待させるし懺悔にならない、リューネとレイアはアローを踏みつけにして、両親の自殺のき…
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