81・女神と同期
その日の夜。
集会場に区画長たちを呼び、シャロンたちを交えて飲み会が始まった。
始まるなり、アテナがシャロンの前へ。
「あんたたちがアローの同期? うんうん、うちの旦那がお世話になってるわね」
「お前な……まずは名乗れよ」
「あ、そっか。私はアテナ。アローの『妻』でーす!!」
妻、をやたら協調するアテナ。
シャロンはアテナを見て素直に驚いていた。
「すっごい美人じゃん……アロー、あんたどうやって仕留めたの?」
「ぶっぶー、正確には私がアローを仕留めたのよ」
「ほほー、その辺の話、聞きたいかも」
「いいわよ。いっぱい聞かせてあげる!!」
「あらあら~、楽しそうね。わたしも混ぜて~」
エリスはすでに酔っているのか、顔が赤い。
アテナにしなだれかかると、そのままズルズル引きずられテーブルへ。
シャロンとグラスを合わせ、飲みながら楽しそうに話していた……アテナは人懐っこいし、シャロンも似たような感じな気がする。放っておけばいい友達になれるだろう。
すると、ドクトル先生が俺の元へ。
「……シャロン嬢が持ってきた薬品についていろいろ聞きたかったが、酒宴の席でする話じゃないな」
「あはは。すみません、今日は勘弁してやってください」
ドクトル先生とグラスを合わせる。
シャロンはアイニー家で一番の腕前(本人が言っていた)の医者だ。ドクトル先生も興味があるのだろう。すると、俺の腕が引っ張られる。
「ちょっと、アローさん!!」
「うわっ、な、なんだよミシュア」
ミシュア。ドクトル先生の助手で奥さんの一人。
ミシュアはシャロンを見て言う。
「これ以上、ドクトル先生のお嫁さん増やさないでくださいー!! あたしとカミラだけでいいんですー!!」
「何勘違いしてんだ……ってか掴むなよ」
ミシュアは俺の袖を離すと、ドクトル先生の腕に抱き着く。
「いいですもん。悪い虫がくっつかないように見てますもん」
「ミシュア……全く。カミラはどうした?」
「あっちでお話してますよー」
と、医師にしてドクトル先生の妻であるカミラさんは、いつの間にかアテナたちに混ざって話を聞いていた。それを見てミシュアも混ざりに行ってしまう。
「やれやれ……騒がしいものだ」
ドクトル先生はそう言いつつも、どこか嬉しそうにしていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
シャロンはドクトル先生の元で、採取した薬草の検品や種類の確認。
エリスは農地に向かい、マリウス領地の土や収穫物の品質などを確認しに向かった。二人とも昨日の宴会の余韻は残っていないのか、領主としての顔で真剣な眼差しだった。
俺はというと。
「……なんで狩りに同行してるんだよ」
「そりゃ、あんたが暇そうにしてるからでしょ」
アテナ、ダイアウルフ三兄弟と共に、狩りに出ていた。
「というか、なんで俺たちだけ? 狩人たちは?」
「みんな別の場所で狩りしてるわ。私は単独行動が許されてるし、問題なし!!」
「俺は普通に怖いんだが……」
「情けないわねー、私の旦那でしょうが」
「お前の旦那は魔獣と戦うような男じゃないっての」
「でも、度胸は付けた方がいいわよ。近いんでしょ……サリヴァンとケリつけるの」
「…………」
アテナは、なんとなくだが察していたようだ。
サリヴァンとの決着。そう……その日は近い。
マリウス領地を発展させ、各領地との交易も始まりつつある。
輝かしい未来が待っている……その未来に進むために、俺は過去の因縁にケリをつける。
「ちゃんと言っておく。サリヴァンと戦うことになったら、私は手を出さないから」
「…………」
「あんたが死にそうになっても見届ける。その代わり……その戦いに手を出す奴らは何があっても邪魔させない。一対一、しっかりやりなさい」
「……アテナ」
「でもまあ、その日が来る前に、あんたを誰にも負けないくらい鍛えてあげる。まずは度胸!!」
「お、おお」
「さ、行くわよ!! 走れっ!!」
アテナが命じると、アテナが乗るホワイト、俺の乗るブランが走り出す。
荷物を運ぶスノウも合わせて走りだす……すごいな、速い。
「速いな、こいつら!!」
「成長してんのよ。ふふふ、いっぱしの狩人にね!!」
俺やアテナを背に乗せて、こんな速度を出せるとは。
いつの間にか上空にいたミネルバも並んで飛んでいるし。
「へえ、もっとビビるかと思ったけど!!」
「これくらいならな!!」
前傾姿勢になり、風の抵抗を減らす。
毛を掴むのではなく、身体を掴むようにする。
バランスを取る。体幹は鍛えてきたし、このくらい乗りこなすのはできる。
アテナも同じだ。互いに並び、顔を見合う。
「なんか、すっごく楽しい!!」
「ああ!!」
風になる。
狼の背に乗り、平原を駆け抜ける。
するとアテナは、背負っていた弓を手に取り、ホワイトの背に立った。
「でも、こういうことは───私にしかできないって!!」
矢を一瞬で番えて放つ───……嘘だろ、いつの間にか後ろに、とんでもない大きさの『蛇』がいた。
真っ青になる俺……だが、アテナの放った矢が口を貫通し、頭から飛び出した。
大蛇が崩れ落ち、オオカミたちも止まる。
「ふふん、あんた……気付いてなかったでしょ」
「あ、ああ……」
「気付いてから仕留めればよかったわー……むっふっふ。あんた、真っ青よ?」
「び、ビビッてんだよ……めちゃくちゃ気持ちよかったのに、一気に怖くなったわ」
「まあ確かに、草原を駆け抜けるの楽しいわね。でもこの草原、私の縄張りじゃないから、魔獣とか躊躇なく襲って来るわよ」
「…………」
「じゃ、度胸付けに行きましょうか!!」
「…………おう」
この日、俺は夕暮れまでアテナに付き合い、平原の魔獣たちと向き合うのだった。
帰るのが遅くなり、ルナに心配かけて怒られてしまったけど……今日はとても楽しかった。





