81・同期の領主
なんか違和感あると思ったら、57話が抜けていきなり58話になあってました。投稿してるの81話なのに、実際には80話しかない……すみませんでした。そのうち修正します。
かつて、サリヴァンの屋敷で会った二人の次期領主だった二人。
シャロン。吊り眼のポニーテールヘアの女性だ。勝気そうなところは変わっていなそうだ。
エリス。こちらは糸目のロングウェーブヘア。女性らしさに磨きがかかっており、ニコニコしながら俺の元へ近付いて来る。
俺は二人に挨拶した。
「ようこそ。マリウス領地首都カナンへ。歓迎します、アイニー家当主シャロン様、パイモン家領主エリス様」
「……堅苦しい。やめてよ」
「ふふ、そうですよ。同期の領主じゃないですか」
「……そういうことなら。改めて、久しぶりだな」
手を差し出すと、エリスは両手で包み込むように握手。
「……アローくん。いろいろ大変だったわね」
「あー……まあな。失ったものも多いけど、手に入れたものも多いよ」
「ふふ、前向きね」
エリスはにっこり笑う。アテナとは別の意味で、太陽みたいな暖かさだ。
そして、シャロン。
「……悪かったわね」
「え?」
「あんたの追放の経緯、聞いたわ。でも……四大貴族に睨まれてね。ヘタに動けなかったのよ。リアンも、エリスも、あたしも……でも、今はもう違う。四大貴族も落ち目だし、今最も勢いのあるセーレと手を組んで、四大貴族なんて高括ってる連中を見返してやろうじゃない」
「あ、ああ……」
過激だな……というか、そこまで考えていないが。
シャロンに手を差し出すと、ハイタッチとばかりにぺしっと叩いた。
「さ、やること多いわよ。まずは荷物置かせてよ。それと、お腹空いたわ。話はあとにして、まずは食事ね……ほら、早く早く」
「はいはい。ったく、子供かお前は」
「ふふ、可愛いですよねえ」
「子供扱いすんな!! ───って、わわっ!!」
すると、ミネルバが俺の肩に乗り、シャロンを驚かせた。
「ああ、悪い。おいミネルバ、客を驚かせるなよ」
『ぴゅるるる』
「わぁ、かわいい~……触っていい?」
『ぴゅいい』
こ、こいつ……エリスに頭差し出したぞ。しかも、うりうり指で撫でられて気持ちよさそうだし。
俺なんて、結婚式の日以来、触らせてもらってないのに。
シャロンも驚いていたが、すぐにミネルバをジッと見る。
「白くて、可愛いわね……」
「うち、けっこう動物……というか魔獣いるけど、大丈夫か?」
「そういや、魔獣を使役してるのよね……家畜じゃあるまいし、どうやってんの?」
「狩人たちに直接聞けよ。せっかくの機会なんだ」
「そうね。うちの領地でも利用できそうなら、使わせてもらうから」
領主の顔をしながらシャロンは言う。ついでにミネルバを指でうりうりした。
◇◇◇◇◇◇
二人を、新しく建設したばかりの宿屋に案内した。
宿屋。リアンたちが来たときに、客を泊まらせる施設が少ないことに気づいた。空き家はいくつかあったけど家具とかベッドもないし。
なので、来客用の宿をいくつか建設。ベッドや布団などの家具も入れ、蒸し風呂なども作った。
ここでは、お湯に浸かる風呂と、蒸し風呂の二つがあり、宿では蒸し風呂を採用している。
蒸し風呂……男女一緒に入れるし、お湯を沸かす手間も必要ないから楽なんだって。
「この宿、好きに使ってくれ。護衛の人たちはいくつかの空き家に分けてもらったから」
「おお、新しい匂いするわね」
「作ったばかり。というか、お前たちが初めての客だな」
シャロンはキョロキョロとロビーを見渡す。
この宿は、一階は受付と食堂、二階に六部屋ほどある。マリウス領地の人たちは宿屋という存在を知ってはいるけど、実際に見たことない人たちが多かった。
なので、俺が大まかな見取り図を作り、建築組にお任せした……俺も宿屋とか詳しくないけど、たぶん正しいと思う。
「食事は、集会場で食うことになってる。ささやかだけど酒宴の席を用意したから」
「いいわね。あたし、けっこう飲むわよ」
「はは。俺の妻も飲むから、気にしないよ」
「ああ、そういやあんた結婚してるんだっけ。おめでと」
「どーも。あー……」
お前らは? って聞こうと思ったが……こういうの、女性には聞きづらい。
するとエリスがクスっと笑った。
「私たちはまだ未婚ですよ。お仕事忙しくて、まだお相手もいなくてねぇ」
「そうなんだ……」
「別に、いらないけどね。今は仕事で忙しいし、結婚したら跡継ぎとか作らなきゃいけないし。ま、あたしは適当に優秀な子を後釜に据えて、ルーペ先生みたいに独身のまま、医薬学の研究するわ」
「そういや、医者なんだっけ……」
「なによ。医者に見えないとか言いたいわけ?」
「そ、そんなことないぞ」
あぶねーあぶねー、言うところだった。
誤魔化そうとエリスを見る。
「え、エリスは?」
「う~ん。私も同じですねえ……今はお仕事が楽しくて、結婚なんて考えていませんわ。まあ、お父様やお母様は、縁談を勧めてきますけどね~」
「あんた、外見も持ってるモノもデカいんだし、男なんていくらでも寄ってくるでしょ」
「お前、言い方……」
シャロンはエリスの胸をジーっと見る……まあ、アテナよりデカいね。うん。
「ふふ。ぴんとくる殿方でないとねえ……結婚は生涯一度きりの、大切なことですし」
「ピンとくる、ね……」
「アローくんは……ふふ、ぴーんとくるかな?」
「えっ!? あ、いや、俺はもう結婚してるし……あはは」
「ふふ。冗談よ~」
「え」
「むっふっふ。あんたの嫁に言いつけちゃおうかなー」
「おいマジでやめろ!!」
久しぶりに、子供みたいな気分で笑うことができた。
夕食の宴会時。アテナやルナを紹介、アテナは二人と仲良くなり、一緒に酒の飲み比べなんてのも始めた……なぜかエリスが二人よりも飲めることがわかり、荒れに荒れたけどな。
同世代の友人ができて、アテナも嬉しそうだった。
さて、明日はシャロンたちと会議だ。
マリウス、パイモン、アイニーの三家で、協力関係を結べたらいいと思う。





