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44・薄暗く、薄明るく日を照らせ

遅くなり申し訳ありません。

 何故だ、何故なんだ?

 全ては上手く行くはずだった。

 四大貴族の中でも特に強い力を得るはずだった。

 父では成し遂げる事が出来なかった、四大貴族の頂点に立ち、七ニの貴族の頂点として、アスモデウス家は全大陸で最高の権力を得るはずだった。そう、サリヴァン・アスモデウスの手によって。

 サリヴァンは、アスモデウス本家執務室で頭を抱えていた。比喩ではなく、本当に頭を抱えている。

 すると、部屋のドアが静かにノックされた。


「入るぞ、サリヴァン」

「······父上」


 入ってきたのは、サリヴァンの父であるヴァルガンだ。

 息子に家督を譲り、隠居生活を送っていたが、息子の憔悴ぶりを見ていられず、屋敷から出てきたのであった。

 

「大丈夫か?」

「·········」


 そんなわけがない。

 アスモデウス領土の鉱山は三十を下回り、鉱石取引をしていた他領土は離れて行ってる。聞けば離れた殆どの領土がセーレ領土と新たな契約を結んだという。

 サリヴァンの元には様々な情報が集まっている。

 なんでもセーレ領土までの街道がしっかりと整備されたとか、有名ブランドの飲食店や装飾品店、宝石店や服屋などが新たに入ったとか、ハオの町以外の村や集落も急激に拡張を始めたとか。

 その情報が耳に入るたびに、サリヴァンの心は押しつぶされる。

 もちろん、セーレ領土領主代行であるアーロンの手腕もさることながら、セーレ領土のためにと立ち上がる貴族達も増えている。

 このままではサリヴァンの心が壊れてしまうと感じたヴァルガンは、気分転換を提案した。


「サリヴァン、久しぶりに外出でもしないか? 父と息子、町で食事をするのも悪くあるまい」

「·········」


 サリヴァンは疲れ切った目で父を見ると、フッと笑う。

 確かに、このまま部屋で過ごすよりは、外の空気を吸うのも悪くないと考える。


「わかりました。お付き合いします」

「そうか、では出掛けよう」


 サリヴァンは立ち上がり、ヴァルガンと共に部屋を出た。


********************


 サリヴァンは父と共に町を馬車で走るが、楽しい気分にはなれなかった。

 何故なら、見慣れた町並みの人はまばらで、道行く人達も活気がない。

 閉店している店も目立つようになり、徐々に徐々にアスモデウス領は衰退しているのが目に見えてわかってしまった。

 俯き目を逸らそうとするサリヴァンに、ヴァルガンの容赦ない言葉が刺さる。


「………」

「サリヴァン、見ろ」

「え……」

「ここは、お前が守るべき町であり領土だ。領主として町から目を逸らすな、諦めるのはまだ早い。出せる手を出し尽くせ、お前ならやれる」

「父上……」

 

 ヴァルガンは、息子であるサリヴァンが野心に満ちているのを理解していた。

 領土を守ることだけを考え、現状維持に努めていた自分より、若く野心に満ちたサリヴァンならきっと新しい風になる……そう思い自分は家督を息子サリヴァンに託したのだ。

 だが、息子の政策は失敗が続き、アスモデウス領は傾き始めている。

 落ち込むサリヴァンを慰め、再び火を付けるのは父親である自分だとヴァルガンは考え、サリヴァンを町に連れ出したのだ。

 

「父上……私は」

「諦めるなサリヴァン、お前は若い、一度や二度の失敗で諦めるな」

「………はい」


 サリヴァンは力強く頷いた。

 だが、ヴァルガンは知らない。サリヴァンがアスモデウス領のために他人を蹴落とし卑劣な手段で陥れている事を。

 その報いが、サリヴァンに来てる事も。


 ヴァルガンは、その事実を最後まで知ることはなかった。


 **********************


 屋敷に戻ったサリヴァンは、手を尽くす事を決意した。

 新たな鉱山の調査、そして他領土への交渉。

 一度、自らの足でセーレ領土へ向かう事も考えるべきだろう。

 やるべき事はいくらでもある。


「………そうだ、まだこれからだ」


 誰も居ない執務室で、サリヴァンは決意する。

 立ち上がり、振り返り、窓から外を眺めてみると、そこに広がるのはアスモデウス領の首都。

 

「ふぅ……そう言えば、最近ろくな食事をしていない。それに寝不足だ」


 最近、考えることが多かったのか、食事もあまり取らず睡眠時間も短かかった。

 やる気を出すためには、どちらも必要不可欠な要素なのは間違いない。

 それに、愛人達にも構ってやれず、淋しい思いをさせているはずだ。

 まずは美味しい食事を取ろう、そう思った。


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう」


 メイドが煎れたお茶を飲み、優雅な時間を過ごす。

 いつものサリヴァン、アスモデウスが帰ってきた。

 

「………」

「ん? 何かな?」

「い、いえ……」


 お茶を煎れたメイドが、驚いたようにサリヴァンを見ていた。

 彼女は確か、入ったばかりのメイド見習いだったはず。そう思いサリヴァンは優しく微笑みかけた。

 だが、メイド見習いの少女は顔を逸らしてしまった。


「し、失礼します……っ」


 ワゴンを押し、さっさと部屋を出る。

 普通なら雇い主であるサリヴァンに対する礼儀ではない。だが今のサリヴァンは心に余裕があったのか、恥ずかしがり屋の新人メイドだな、と笑ってしまった。


「さて、これから忙しくなるぞ」


 サリヴァンは背伸びをすると、執務机に向かった。


**********************


 サリヴァンにお茶を運んだ新人メイドは、必死に堪えながらキッチンに戻ってきた。

 ワゴンを片付け、誰も居ないことを確認し、ようやく堪えていた物を吐き出す。


「ぷ、くくく……くふふふっ、あははははっ!!」


 彼女は、必死に笑いを堪えていた。

 サリヴァン・アスモデウスは高身長のイケメン貴族、四大貴族アスモデウス家の現当主にして、愛人を何人も囲っているプレイボーイと聞き、彼女は憧れを持ってアスモデウス本家のメイドになった。

 だが、実際初めて見たサリヴァンを見て、メイド見習いの少女は笑いを堪えることが出来なかった。


 何故なら、サリヴァンの頭頂部はすっかりと寂しくなっていた。

 太陽の光で眩しく輝いているのを見てしまったから。

 まだ二十代なのに、気苦労が絶えない頭になっているのを見てしまった。

 

「あ、あれが……あの頭、あれでプレイボーイ……くくくっ」


 メイド見習いの少女は、暫く笑いには困らないと思った。

やる気が出ても、それが結果に繋がるとは限りません。

次回はリューネとレイアのお話です。

毎回毎回遅くなって申し訳ありません。

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