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43・集落への帰還

遅くなり申し訳ありません。


 パーンの集落の人達を受け入れることが決まった翌日。

 俺とアテナとルナは、ウェナさんの家に厄介になった。というか出発の日まで厄介になる予定だ。

 パーンの狩人達は出発の準備を進め、手伝おうとしたら怒られてしまった。どうやら人に慣れた魔獣といえど、素人に操れるような物ではないらしい。

 なので、俺は三匹のブラックシープの世話をしていた。


「よーしよし、美味いか? いっぱい食え」

『メェェェェッッ』

『メヘヘヘヘヘッ』

『メェ~』


 乾燥させた干し草にたっぷりの水桶を出してやると、三匹はさっそく食べ始める。

 成り行きで手に入れた三匹だが、こうやって世話をすると愛着がわくな。

 集落に帰ったら、家の脇に小屋でも建てるか。


「シュバルツ!! 狩りに行くわよ!!」

『メェェェェッ!!』


 背後からアテナの声。するとブラックシープの1匹が水桶から顔を上げる。

 振り返ると、そこには仁王立ちのアテナがいた。


「狩りって……お前な、あと4日で出発なのに、荷物を増やすような事をするなよ」

「ふふん、バカね、これはウェナの依頼よ。出発の前に集落で宴をするから、肉を狩ってきてくれってお願いされたのよ」

「そうなのか?」

「うん。この集落では住居を移動する前に宴をするのが習わしなんだってさ。というわけで行くわよシュバルツ!!」

『メヘヘェェェッ!!』

「うわっ!?」

 

 シュバルツはグイグイと前に出る。

 どうやら繋いである紐を外せと言ってるらしい。いつの間にこんなにアテナに懐いたんだ?

 とにかく、紐を外してやると、アテナに擦り寄った。


「よーしよーし、可愛いわね」

『メェェェェ』

「じゃ、行ってくるわねアロー」


 アテナはシュバルツに跨がりツノに紐を巻き手綱代わりにすると、そのまま行ってしまった。

 たいした羊使いだと思い、残された二匹を見る。


「確か……ネロとノワールだっけ?」

『メェ』

『メェェ』


 俺の言葉を理解したのか、二匹は頷いた。

 少し考え、俺は荷物から二枚の色違いの布を取りだす。

 

「ネロ」

『メェェ』

「よし、お前はこの赤い布だ。これをツノに結んで……」


 ぶっちゃけ見分けが付かないので、色違いの布で判断することにした。

 赤がネロ、青がノワール、黄色をシュバルツにしよう。

 二匹のツノに布を結び、俺はモコモコの黒い頭を撫でる。


「こんな布がなくても、見分けられるようになるからな」


 二匹は、嬉しそうにメェメェ鳴いた。


 **********************


 

 ウェナさんの家に帰ると、ちょうどウェナさんがルナに乳をあげていた。

 

「すす、すみませんっ!!」

「……ん? ああ、別に気にしなくていいさ」


 ウェナさんはルナにゲップさせて優しくあやす。

 するとお腹いっぱいになったのか、ルナはスヤスヤ眠ってしまった。


「いい子だ……」

「…………」


 慈愛に満ちた母親の笑顔に、俺は思う。

 ルナに必要なのは、俺やアテナみたいな子供じゃなくて、ウェナさんみたいな母親じゃないのか、と。

 このまま俺やアテナと一緒に居るより………。


「勘違いするんじゃないよ」

「………え?」

「全く、わかりやすい奴だね。言っておくがアタシは母親をやる気はないよ。この子に乳をあげてるのも成り行きだしね」

「あ………」

「あんた、この子の父親ならシャンとしな。ちょいと母親の顔を見ただけで揺らぐんじゃないよ」

「は、はい……すみません」


 グゥの音も出ない。

 でも、ルナは別に俺の子供じゃない。

 ルナの幸せを願うなら、ちゃんとした環境で育ててやるべきじゃないだろうか。


「アタシは集落を見て回るから、この子を頼むよ」


 ウェナさんは特に何も言わずに家を出て行った。

 俺はルナの寝てるベビーベッドに近づく。


「………お前、何してんの?」

『いやぁ、アテナはんがルナはんの枕になれと……たはは』


 ベビーベッドにはファウヌースがいた。

 ピンクのモコモコした羊毛に包まれるルナは気持ちよさそうに寝てるが、今の今まで気が付かなかった。

 すると、会話を聞いていたファウヌースが言う。


『アローはん、ルナはんはアローはんと一緒で幸せに見えまっせ』

「そうかな……」

『ええ。大きくなればきっと、そう言うと思いまっせ』

「…………」


 俺はルナを撫で、ついでにファウヌースも撫でた。


 **********************


 狩りから帰ったアテナは上機嫌だった。

 シュバルツの背には自身の三倍はあろうかという巨大な巨牛。

 旅で慣れたのか、すでに血抜きがしてあった。


「さ、今日は宴よ!!」

 

 その一言が集落全体に伝わり、今日は豪勢な宴となった。

 集落の狩人達が巨牛を解体し、女性陣が料理を振る舞う。

 酒が振る舞われ、狩人達の踊りで盛り上がり、俺たちは大いに楽しんだ。

 何より、アテナはすっかり集落に馴染んでいた。


「そこで私は巨牛の突進を躱して右に回り込み……剣を抜いてスパッ!! 巨牛の鮮血が吹き出しその場に崩れ落ちた……」

「「「おぉぉぉぉーーーッ!」」」


 アテナは狩人の子供達に武勇伝を語ってる。

 しかも実際に剣を抜いてジェスチャー付きの解説だし、子供達はすごく喜んでる。

 ルナは最初だけ宴に参加し、眠くなったのでウェナさんの家で寝てる。何かあれば付き添いのファウヌースが知らせてくれるから問題ない。

 ミネルバは何故か俺の肩に停まってる。こいつは以外にグルメで、焼いたサイコロステーキにタレをかけた物をせっついてきた。どうやら食事に関してはアテナより俺を信頼してるようだ。

 とはいえ触らせてはくれないが。

 

 こうしてパーンの集落での生活が4日過ぎ、出発の日がやって来た。


 **********************


 集落の入口は大混雑だった。

 狩人に家畜、女子供と、集落の住人全てが揃っていた。

 家畜には荷物を背負わせ、狩人は道中の安全確保のためにしっかり武装している。

 ウェナさんが前に出ると、住人全体に告げる。


「これから《カナンの集落》に向け出発する!! 男衆は道中の安全確保、女衆は子供と家畜の安全を第一に考え行動しろ。いいか、決してムリはするな。何かあったらあたしに報告しろ!!」


 ここで俺は眉をひそめる。

 聞き慣れない単語に、思わずウェナさんに確認した。


「カナンの、集落?」

「……何を言ってる? お前の来た集落だろう」

「え、ああ……そっか」


 そう言えば、ジガンさんの集落の名前を知らなかった。

 ニケやパーンみたいに名前があるのは当然だ。今まで知らなかったのが恥ずかしいな。

 カナン、カナンかぁ……。


「アロー、ゴン爺の集落ってカナンって言うのね。知らなかったわ」

「………俺は知ってた」

「え、マジで!?」

「………」


 ごめん、ウソです。

 見栄を張ってしまいました。

 だって領主なのに、自分が救われた集落も知らないとか……ははは。

 

「では……出発!!」


 少し落ち込んでいる俺をよそに、ウェナさんが号令を掛けた。

 ゾロゾロと50人以上の住人が歩き出し、俺とアテナもブラックシープを歩かせる。

 

「さぁて、久し振りに我が家に帰れるな」

「そうね。ぶっちゃけ家に居るときより旅をしてる期間が長いけどね」

「それを言うなよ……」

「あぅ?」

 

 俺の胸元のルナも嬉しいのか、俺に向かって手を伸ばす。

 いや、俺じゃなくて肩に停まるミネルバか。

 

「帰ったらやることがいっぱいだな。畑の整備にブラックシープ達の小屋作り……」

「あ、私は狩りに……」

「当然、お前にも手伝ってもらうからな」

「えぇー」


 カナンの集落に帰ったら、暫くはのんびり仕事をしよう。

 新しい住人も増えるし、楽しくなるのは間違いない。

 カナン、ニケ、パーンの人達と頑張っていこう。


 俺はアロー・マリウス。このマリウス領の領主だからな。


次はサリヴァンのお話。


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