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41・パーンの集落

 翌朝。

 ブラックシープの背中で目が覚めた俺は、近くの川で顔を洗って朝食の準備に取りかかる。

 昨日の肉の残りに山菜を混ぜてスープを作り、残しておいたパンを出す。

 パンはこれでおしまい、あとはパーンの集落で分けて貰うしかない。

 すると、ニオイのせいかアテナが起きた。


「ふあ……おふぁよ」

「おはよう、すぐ朝食の準備が出来るから、顔でも洗ってこい」

「うん……」

「ついでにルナのオシメを代えてくれ」

「はーい」


 チラリとルナの籠を見るとミネルバがいない。

 たぶん、自分の朝ご飯を獲りに行ったんだろう。

 更に今度はピンクの羊ファウヌースがモゾモゾ起きる。


『ふぁ~……アローはん、おはようさん』

「おはようファウヌース、パンでいいか?』

『もちろんでっせ』

「そうだ、ブラックシープは……」


 そう思って黒い羊を見ると、地面に生えていた雑草をモリモリ食べていた。

 どうやら草食らしいな、手間も掛からないしエサを探す必要も無い。

 俺は大きな鍋に水を入れて三匹の前に出してやると、美味しそうにゴクゴク水を飲んでいた。


「今日は頼むぞ」


 実はこの三匹に仕事を任せることにした。

 まず二匹は俺とアテナの乗り物で、もう一匹は荷物の運搬役に使えないかと考えていた。

 手綱はないので頭に生えてるツノに木のツタを巻いて手綱代わりにし、荷物はツタでブラックシープの身体に固定できると踏んでいる。

 ブラックシープは体力と持久力に優れ、急な勾配の山肌や地面を難なく進む脚力を持っている。

 体毛は柔らかく丈夫で温かい高級品で、防寒具や下着などの素材には持って来いだ。

 それに肉は硬くて不味いから食えないので、働き手には打って付けだ。ブラックシープがたくさん居れば困らないぞ。


「パーンの集落にブラックシープを土産に持って行けば、家畜を分けてくれるかもな」

『そういえば、家畜が欲しいんでしたな? ほんならベリーピッグやワイルドベアの群れでも探して連れてきましょか?』

「い、いやいいよ。それだとここまで来た意味ないし、せっかくだしパーンの集落へ行って協力してもらうよ」

『面倒でんなぁ……』


 それは仕方ない。

 そもそもファウヌースがこんな便利なヤツだとは思わなかったからな。

 まさか鳴き声だけで魔獣を使役出来るなんて普通は思わない。それに俺は領主だし、ここまで来たらちゃんと領民に挨拶はしておきたい。

 ちゃんと事情を話して協力してもらう。あくまで人間らしく出来る範囲でやるのがいい。

 必要な時になったらファウヌースに頼んで力を貸して貰おう。


「アロー、オシメを代えたわよー」

「おお、ありがとな」


 アテナはルナを抱っこしてる。

 ルナが落ち着いてるところを見ると、どうやらミネルバが帰ってきたらしい。よく見るとアテナの肩にちゃんと停まっている。


 さて、こっちも朝食にしますかね。



 **********************



 朝食が終わり、さっそく準備を始めた。

 森の中からツタを取り、ブラックシープのツノに巻き付けて手綱代わりにする。

 リュックや雑貨などをツタでブラックシープの身体に固定すると、特に嫌がりもせずに大人しかった。まぁファウヌースの魅了のおかげだろうが。

 

「なーるほど、考えたわね。こいつらを馬代わりにするのね」

「ああ、歩きじゃキツいしな。これなら体力を消耗せずに進める」

「いいわね。じゃあ私はこっちー」

「どっちも同じだろ……」


 アテナは子供っぽい。

 どっちも黒い羊だろうが。


「ファウヌース、あんたは歩きで我慢しなさいね」

『わかっとります。アテナはん』

「悪いなファウヌース」

『いえいえ』


 ルナは相変わらず俺が抱っこ。

 背中の荷物がなくなっただけでもかなり楽だ。


「よし、出発だ」

「さぁ歩きなさいブラックシープ!!」

『『『メェェェッ』』』


 のんきな鳴き声を出し、ブラックシープは歩き出した。

 のっしのっしとゆっくり歩くが座り心地もけっこういいし、揺れもそんなにない。

 歩くよりも断然早いし気持ちいい。


「こりゃいいな、馬代わりにピッタリだ」

「この子達は大当たりね。よくやったわファウヌース」

『へへへ、おおきに』


 さぁて、パーンの集落までもう少しだ。



**********************



 ニュンペの森を歩くこと数日。

 ブラックシープのおかげで体力を消耗することなく森を抜ける事が出来た。

 魔獣などにも遭遇せず、出てきても小型魔獣ばかりだったので、俺達の食事用に確保する以外はファウヌースに追っ払ってもらう。アテナはデカい魔獣が出て来ないと文句を言っていたが、俺としてはありがたい。


「ねぇアロー、まだ着かないの?」

「もうすぐだ。ええと、多分今日中には到着する」


 俺は地図を確認してみたが、距離的にそう遠くない。

 位置的にパーンの集落の生活圏内に入ってるのは間違いない。

 その証拠を俺は見つけていた。


「見ろよアテナ、あそこの木」

「え?······あ」


 俺の指さした木を見ると、その木には矢が刺さっていた。

 恐らく、この周囲で狩猟が行われて入るんだろう。


「それに、道も規則的に踏み慣らされてるし、日常的にここを馬が走ってるんだろう」

「じゃあもうすぐ到着ね‼ はぁ、集落に着いたら湯浴みをしたいわ」

「交渉してみるから安心しろよ。ルナも風呂に入れてやりたいからな」

「んふふ、はーい」


 そして、ついに見えてきた。

 魔獣避けの木の囲いの先に数件の建物が見える。

 建物と言っても木造ではなく、薄い茶色で半円状のテントみたいな物だ。


「やっと到着したか······」

「すんすん······なんか獣臭がするわね」

「多分、家畜の匂いだろ」

『確かに、集落から何匹もの魔獣のニオイがしますな』

「そうなのか。ああファウヌース、家畜の魔獣を魅了するなよ」

『わかっとりますよ』


 ピンクの子羊はコクコク頷く。

 こうしてみると可愛いな。アテナが枕にして寝たがるのもやくわかる。

 集落入口近くまで行くと、中にいた何人かの狩人が俺達に気が付いた。

 人数は三人、それぞれ弓と矢を持っている。


「何者だ‼」


 俺は両手を上げ、敵意のない事をアピールする。

 アテナはブラックシープから降りると俺の乗るブラックシープの隣に立つ。

 俺は精一杯の大声で叫んだ。


「俺はニケの集落から来たアロー・マリウス‼ 集落の長に会いたい‼ こちらに敵意はない‼」


 一言二言を大声で叫んだ。

 すると騒ぎを聞きつけたのか、何人もの狩人が出てきた。

 当然ながら全員が弓と矢で武装している。

 俺は懐からニケの集落長ゲンバーから預かった書状を取り出す。


「ここにニケの集落長ゲンバーから預かった書状がある‼ どうかこれを読んで協力して欲しい‼」


 アテナが口笛を吹くとミネルバが俺の肩に停まる。

 俺は書状をミネルバに差し出すと、それを咥えてミネルバは一人の狩人の元へ向かう。

 ミネルバに向けて何人かが矢を番えたが、代表と思しき狩人が手で制し、書状を受け取る。

 狩人は書状を広げて中を読むと、表情を変えずに言った。


「暫し、そこで待て」


 狩人は何人かの狩人を連れて集落の中へ戻る。

 それ以外は俺達をジッと監視していた。


「なーんか感じ悪いわね」

「仕方ないな、今まで交流なんて殆どなかったらしいし」

「あぅぅあ、あうあ」

「ん? ああ、腹減ったのか。もうちょっと待ってくれよ」

「あぅ」


 こんな監視されてる状況でルナに食事をやる事は出来ない。、

 俺は揺り籠のように身体を揺らし、ルナをあやす。


『アローはん、わては喋らん方がええんやろ?』

「ああ。頼む」

『ほな、黙っとるわ』


 ファウヌースはとりあえずピンクの子羊って事にした。

 力を貸すのはいいけど見世物にはなりたくないらしいし、下手に騒がれて攫われでもしたら厄介だしな。

 まぁアテナがいるからそんな心配はしてない。

 すると、書状を渡した狩人が戻ってきた。


「ニケの使者よ。長が会ってもいいそうだ」

「あ、ありがとうございます」

「だが、監視はさせてもらう。いいな」

「はい」

「むー、やっぱ感じ悪いー」

「おいアテナ、黙ってろ」

「はいはーい」


 アテナは再びブラックシープに跨がる。

 狩人の案内で集落の中へ歩き出す。

 両側を数人の狩人に監視されながらの移動だ。アテナじゃないけどかなり警戒されている。



 とにかく、まずは長に会って話をしよう。

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