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34・親睦会の友人たち

すみません、予告詐欺です。


 時は巻き戻り、マルパス家の当主リアンがサリヴァンと対談をする少し前。彼が新たな当主となり暫く経っての事だった。

 リアンの治めるマルパス領土は建築業が盛んであり、広大な自然に囲まれた緑多き領土である。

 リアンの治めるマルパス領の首都である『クエルボの町』は、セーレ領土のハオの町と変わらない規模の町であり、リアンがアローに親近感を抱いたのも、自身と似たような境遇だったからであり、彼の身に起きた事件に納得していなかった。

 リアンはその事を思い出しながら、執務室で仕事に明け暮れていた。


 「とはいえ、ボクには何も出来ない······か」


 リアンにとってアローは友人だ。僅かな時間とはいえ彼の態度は好感が持てたし、お互いが領主になった暁には、マルパスとセーレの親交を深めたいと考えていた。 

 だからこそアローのした事に納得していない。彼がアスモデウスの重要書類を盗んだなんて信じられないし、アスモデウス家がアローを裁きマリウス領土へ追放したというのもきな臭く感じていた。

 セーレ領土がアスモデウス領の、サリヴァンの支配に落ちたという事は、72の貴族達の間では有名になっていた。

 サリヴァンの手腕を称賛する一方、セーレ領土を侵略したと非難する声もある。だが、四大貴族のアスモデウス家に逆らう貴族は居なかった。そしてセーレ領土をアスモデウス家が管理するという事に対しても同じだった。


 リアンは、正義に燃えているワケではない。

 アローの事は残念に思うし、だからといってアスモデウスに楯突こうと考えてるワケでもない。

 正直、サリヴァンを初めて見た瞬間から、気持ちの悪いドス黒い空気を纏う嫌な男だと感じていた。だが四大貴族と交流を持つのは悪くないと割り切り、あの親睦会に参加したのである。

 リアンはマルパス領土の領主として、貴族として、この地を守る立場にある。今日も変わらずに仕事をして、明日も変わらず生きて行く。

 リアンの執務室のドアが、静かにノックされた。


 「入っていいよ」

 「失礼します。おぼっちゃま」


 入って来たのは二十代後半の男性。

 パリッとした執事服を着たリアンの執事であり護衛。そして小さい頃からの親友でもある。


 「いい加減、おぼっちゃまは止めてくれよ、オズワルド」

 「ははは、だったらその子供みたいな話し方を卒業するんだな、リアン」

 「ちえっ、オズワルドだってそえ変わらないじゃないか」

 「そうか?」

 

 主人と使用人とは思えない会話だが、この二人は気にしない。リアンにとって執事のオズワルドは兄であり親友でもあるからだ。


 「それでオズワルド、何か用かい?」

 「おっとスマン、来客だ」

 「来客?·········予定には無かったけど」

 「ああ。突然の来訪だから驚いたぞ」

 「ふぅん、それで誰が来たんだい?」


 オズワルドは咳払いをして、執事として言う。


 「はい。アイニー家当主、シャロン・アイニー様がいらっしゃいました」

 「はぁ?」



 そう、アスモデウス家の親睦会で出会った、アイニー家の次期当主の少女だった。



 ********************



 「ちょっと、紅茶がぬるいわよ。それと紅茶には砂糖と蜂蜜をたっぷり入れてレモンの輪切りを浮かべるのが当たり前でしょ、そんな事も分からないのかしら?」


 来客の間でそんな話をする声が聞こえ、リアンは吹き出しそうになった。隣に立ってるオズワルドは真顔だ、どうやら執事としてのオズワルドに戻っている。

 リアンはドアをノックして中へ入るなり、我慢出来ずに言った。


 「くくく······久し振りだねシャロン。相変わらず恐ろしい甘党だ」

 「······へぇ、マルパス家の領主は盗み聞きが趣味なのかしら」

 「いやいや、あんな大声だと屋敷の外まで聞こえるよ。くくく······」

 「ふ、ふん。紅茶くらいアタシの好きに飲むわ」


 シャロンは顔を赤くしながら紅茶を啜る。

 久し振りに見るが変わっていない。アロー曰く『機嫌の悪いネコ』だが、その通りだと改めて実感した。

 リアンにも紅茶が出されたが、彼はストレートで一口啜る。

 

 「ところで、アポもなしにどうしたんだい。確か君もアイニー家の当主になったんだろ。こんな辺境まで来るとは、よっぽど大事な用があるのかい」

 「まぁね。アスモデウス家の親睦会で言った事を実現するために来たのよ」

 「親睦会?」

 「ええ。アローが言ってたでしょ? お互い協力していきたいって」

 「そう、だけど······」

 「つまり、マルパス領主の建築業の力を貸してほしいのよ。この領土で培われた最新の建築技術を使って、アイニー領土に巨大な軍事施設を作るのよ」

 「えぇっ⁉」


 アイニー領土は軍事関係に特化している。

 数こそ少ないが、個々の兵士の強さでは四大貴族の武力に勝るとも劣らない。

 それはアイニー領土に出現する魔獣が人間型に極めて近いからであり、対人戦闘の相手に事欠かないからである。

 シャロンの話は、軍事力を貴族最強にするために、人間を鍛える施設と魔獣を飼育する施設を造り、互いを戦わせ戦闘練度を上げるという兵士育成計画だった。だからこそ強大で頑丈な施設を作るため、建築業に特化したマルパス領の職人を借りに来たという事である。


 「なるほどね······」

 「もちろん、対価は支払うしマルパス領が危機に陥った際には手を貸すわ」

 「うーん······すぐに答えは出せないな」

 「わかってるわよ。このご時世、どこにどんな危険があるか分からないからね。兵を鍛えておいて損はないわ」

 「まぁ、ね」

 「ふん。アローがサリヴァンにハメられて領土を奪われて、次にアタシの領土が狙われないとも限らないわ。アンタの所も用心くらいはしてるんでしょ?」

 「·········」

 

 シャロンも、アローはサリヴァンに陥れられたと感じてるようだ。リアンは意外に思いつつも、何だか嬉しく感じていた。


 「結局、アタシの家のメイド達はアスモデウス家のメイドに転職してたからね。アタシはサリヴァンが大ッキライよ」

 「ははは······キミは随分とはっきり言うね」

 「当然でしょ。あぁそうだ、パイモン家のエリスはアタシに協力してくれるわ。パイモン家は医療国だから、随分の助かるわね」

 「エリスもなのかい? ははは、あの親睦会は無駄じゃなかったんだ」

 「そういう事よ。エリスもアローの事で随分と悩んでたわ」

  

 話した時間は僅かだが、短時間でアローの人となりを見極めてる。やはり当主となる器の人間だとリアンは思った。

 シャロンなら信じられると思い、答えをこの場で出そうとリアンは思ったが、応接室のドアがノックされる。

 リアンは軽く手を上げると、オズワルドがドアに向かい対応する。


 「······なんだ、来客中だぞ」  

 「そ、その、セーレ領土から使者が参りました。領主様にお取り次ぎ願いたいと」

 「何だと·······セーレ領土だと⁉」


 

 リアンとシャロンは、同時にオズワルドの方へ向いた。



 ********************



 セーレ領からの使者と名乗る男は、書状を持っていた。

 本来ならシャロンが読むべきではないし、この場に同席するのもおかしな話だが、シャロンに押されてリアンはやむなく同席を許可し、セーレ領の使者が持っていた書状を二人で読み、その内容に驚いていた。


 「ま、まさか……」

 「セーレ領で、クーデターがあったとはね……しかもアスモデウス領の領主代行を殺害し、前領主ハイロウ殿の執事であるアーロンが領主に、か。いやはや驚いたよ」

 「なかなかやるじゃない。田舎のセーレが四大貴族のアスモデウスに楯突くなんて、自滅するようなもんね……」

 「だけど、そうじゃない……だろ?」


 リアンはアーロンからの書状を最後まで読み、思わずニヤリと笑う。

 シャロンはアスモデウスへの反乱あたりで読むのを止めたため、その笑みの意味が理解出来なかった。


 「鉱山開発、そしてアローの捜索……くくく、面白いね。まさかマリウス領に捜索隊を派遣するなんてね」

 「はぁ!? ま、マリウス領ですって!? まさかアイツを探しに行くっての!? あのね、あんな魔境に送られたアローが生きてるとでも思ってるわけ? そもそもあの日からどんだけ時間が経ってると思ってんのよ!!」

 「ま、そうだろうね。だけど……行く価値はあると思うよ」

 「なんでよ」

 「んー……勘、かな」

 「はぁぁ?」

 「それで、書状によると協力要請みたいだね。どうやらアローが親睦会のことをアーロン殿に話してたみたいだ、それでボクの元に捜索の協力を……」

 「ふーん。じゃあもしかしたら……」

 「うん。キミの所にも書状が行ってるかもね」

 「なるほどね。それで、アンタはどうするの?」

 「そうだね……」


 リアンの元には、書状の他にいくつかの鉱石が送られていた。どうやら協力の報酬として支払いをする用意はあるようだ。四大貴族を相手にケンカを売ったセーレ領にも驚いたが、アローを助けるためにマリウス領へ捜索隊を派遣すると言う事にも驚いた。


 「いいね。面白そうだ……それに、セーレ領とはこれからいい取引が出来そうだし、ここで恩を売るのも悪くない」

 「確かにね。この鉱石……武器に加工すれば上等な物が出来そうね。よーし決めた、マリウス領の捜索にアタシも加わるわ」

 「は?」

 「魔境と言われるマリウス領……実は一回行ってみたかったのよね」

 「は、ちょ、領主のキミが!? いやそもそもこの書状はボクに当てられた物で……」

 「関係無いわよ。さーて忙しくなるわね、アタシは帰らせてもらうから。書状を返信するんなら、アタシの事も付け加えておいて。ついでにエリスにも声を掛けておくから」

 「ちょ!? まっ」

 「じゃーねリアン。また来るから」


 ヒラヒラと手を振り、シャロンは去って行った。

 リアンは深く息を吐き、書状をもう一度眺める。


 「捜索隊……か」


 考えなければならない事が山ほどある。

 アローの捜索、セーレ領の協力要請、そしてこれからのこと。

 領主になってすぐに、こんな大仕事が舞い込むとは、リアンは思っていなかった。


 「………くくく」



 だけど面白い。そう思い、リアンは行動を開始した。

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