22・アテナの実力、ルナの力
翌日。アテナとジガンさんは朝早く狩りに出かけた。
俺はルナの子守りとさっそく畑に手を付ける。そのためにまずは倉庫から道具を引っ張りだし、仮の準備をする。
「さーて、ルナはこっちな。よーしよし」
「あぅ~」
家の前の屋根の下に、ジガンさんから貰ったベビーベッドを置く。
少し前までレナちゃんが使っていた物で、破損もガタもなくしっかりしてる。これなら問題ないだろう。
俺はクワなどの道具をチェックし、畑の状況を見る。
ジガンさん曰く、前に住んでた家族が耕した畑なので、地面に岩や石が埋まってることはないそうだ。このままクワを入れても問題はない。山育ちだし体力には自信があるし、これからのために身体を鍛える意味で畑仕事は必要だ。
斧もあるし薪割りも出来る。今は働きつつ身体を鍛えよう。
「ルナ、俺……頑張るからな」
「あぅ?」
「よしよし……」
ルナをなでつけ、さっそく畑仕事を始めるか。
上着を脱ぎ捨て、シャツ一枚で頭に手拭いを巻く。
「……そういえば、リューネに言われたっけ」
山仕事が似合いそうな貴族……あの時は笑ってたな。
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まぁとにかく畑だ。広さはかなりあるし、今日一日で終わるとは思えない。でもまずは耕して行かないとな。全ての始まりの一歩だ。
「よーし、行くぞっ!!…………あれ?」
振り下ろしたクワは土に刺さる………ことは無い。
何か硬い物にぶつかり、俺の手を痺れさせた。
「いてて……何だよこれ」
俺は痺れた手を押さえ、埋まってる物の正体を確かめるためスコップ持ち替える。クワの感触からして石のような硬さだった。
振り下ろした先に石があるとは。しかも最初の1振りからなんてついてない。
「これか………ったくイッテーなぁ……」
大きさが握り拳よりやや大きい塊だった。色は黒くキラキラしてる。どうも普通の石には見えないな。
「まぁいいや、とにかく仕事仕事」
石を放り投げ再度クワを持つ。
場所を変えて再度クワを振り下ろすと、またもや硬い感触が。
まさかと思いスコップに持ち替えると、今度は白っぽい石が出てきた。
「おいおい、元は畑だったんだろ……なんでこんなに石が埋まってるんだよ」
俺はイヤな予感がして何カ所もクワを振り下ろしたが、どこも似たような感じだった。
黒っぽいキラキラした石から始まり、青っぽい石や白っぽい石、挙げ句の果てには金属の塊も出てきた。
どうやらここは岩石地帯で、畑には適さない土地らしい。
「………マジかよ」
結局、半日費やして岩拾いになってしまった。
俺が掘り出した石や岩は、家の脇にある木箱の中に全部入れた。
「はぁ………最初からこれか。先が不安だぜ……」
「う、ぅぅ……うぁぁ~んっ!!」
「おっと、どうしたルナ。ちょっと待ってろよ」
「あぁぁぁぁ~んっ!!」
どうやらオシメらしい。俺は川で手を洗い、清潔な手拭いでルナのオシメを変える。
それと同時に、お昼が近いのでルナのご飯と俺の昼を作り、ルナをあやしつつ食べさせた。
「ほ~ら、もぐもぐ」
「あぅあ、あぅ~」
「よーしいい子だ。よ~しよ~し」
「ふぁぁ……」
ルナを抱っこして撫でると、お腹いっぱいなのかすぐにボンヤリとする。
ベビーベッドに寝かせてレナちゃんから貰った人形を添えると、すぐにぐっすり眠ってしまった。
この子が『愛と幸運の女神フォルトゥーナ』なんて、未だに信じられん。
「さーて、もう一踏ん張り」
俺は再度頭に手拭いを巻き、畑に向かった。
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お昼が終わり休憩も終わった頃、アテナたちが帰ってきた。
「たっだいま~~っ!!」
「おう、おか……なんだそりゃ!?」
「どーよ、スゴいっしょ!!」
アテナは、台車を引いて帰ってきた。しかも台車には肉がこんもりと乗っている。
どう見ても大物を仕留めたようにしか見えない。すると、アテナの後ろからジガンさんが現れた。
手には細い木に枝が何本もある……なるほどね。保存用の肉を作るために燻製にするための木の枝か。
「アロー………この子は何者だ?」
その声には、驚愕と困惑が表れていた。
まぁなんとなく想像は付く。
「まさか、1人で中型魔獣の群れに突っ込み全て切り伏せるとは……この子はまるで戦神のようだった」
「失礼ね!! 私は女神だっての!!」
「ま、まぁとにかくお疲れ様です。ジガンさん」
「ああ。見ての通り大漁だからな。肉の燻製の作り方はわかるか?」
「はい。ウッドチップで燻すんですよね」
俺の視線はジガンさんの手に。どうやら意図を理解してくれたのが嬉しいようだ。
「ああ、量もあるし手伝おう。ウチの分はローザに任せてるから心配するな」
「ありがとうございます」
「ちょっとアロー、畑はどうしたのよ、全然進んでないじゃない!!」
「仕方ないだろ、この畑、やけに石や岩が多くて、掘り出すだけで1日掛かったんだよ……」
仕方ないとはいえ罪悪感はある。張り切ってたのに全然進んでないもんな。
「ん?……おかしいな。そんなことはないハズだが……」
「え、でも……こんだけの石が埋まってましたよ?」
俺は石の詰まった木箱をジガンさんに見せると、ジガンさんの顔が驚愕に変わった。
「………アロー、これはこの畑からか?」
「え? はい……」
「…………待ってろ」
それだけ言うと、ジガンさんは行ってしまった。
俺とアテナは顔を見合わせ、取りあえず燻製を作る準備をする。
「ねぇ、ルナは?」
「寝てる。かわいいもんだな」
「でしょ~? 赤ん坊だから女神の記憶はないけど、ルナはとってもいい子なんだから。いっつも私の後をくっついて………まぁそれでこんなことになっちゃったんだけどね」
「完全にお前のとばっちりだよな」
「う、うっさいわね。反省してるわよ!! でも悪いのは私だけじゃなくてアラクシュミー……アミーも悪いんだから!!」
「はいはい、そのアミーとか言うヤツはどこかに居るんだよな?」
「まーね。どっかで生きてるでしょ」
あんまり興味なさそうだ。仲が悪いのかな。
薪に火を付けて小屋にあった古い鍋に木の枝を入れて火に掛ける。肉を吊して煙で燻せるように、小屋にあった廃材で肉を吊せる枠を適当に組み立て、周囲を古い床敷で囲む。簡易的だがこれで完成だ。
「じゃあ作ろっか」
「ああ。今日は奮発して肉を焼こうぜ。アテナの狩り成功を祝ってな」
「お、いいわね~」
なんだかんだでコイツとは気が合いそうだ。
すると、ジガンさんが帰ってきた………ドンガンさんを連れて。
「ドンガン、コイツだ」
「ったく、なんだよジガン。ワシは忙し………」
ジガンさんたちは、俺が集めた岩の前に。
すると、面白いように顔色が変わる。なんだよ一体。
「………おいアロー、コイツをどこで?」
「え? いや、畑を耕そうとしたら、いっぱい出てきたんで……」
「マジか……おい、ラゴス一家はこの事……」
「知ってたのか知らないのか、死んでしまった今となってはわからん。だが、これはとんでもない発見だな」
「ああ。驚けよアロー、こいつはとんでもないぞ」
「は、はぁ……?」
「どーしたのよ、一体?」
俺とアテナは再度顔を見合わせる。するとドンガンさんが少し興奮したように言う。
「コイツは鉱石だ。黒いのがダマスカス、青いのがミスリル、おいおい……この金属はレアメタルじゃねーか!? がっはっはっ!! こりゃスゲぇぞ!!」
「ええと、まだまだ出てきますよ? それこそこの辺り一帯がそうなんじゃ……」
「うーむ、どうやら畑は偽装だったようだな。この地面の下は鉱石土みたいだ」
「ああ、ゴン爺に報告しようぜ。こりゃ面白くなってきたぜ」
「すまんなアロー、燻製は任せるぞ」
そう言ってジガンさんとドンガンさんは行ってしまった。
どうやら、この石や岩は鉱石らしい。
「………ふん」
鉱石と聞くと、サリヴァンを思い出す。
でも、集落のためになるならそれも仕方ないな。
「ふふ、どうやらさっそく来たみたいね」
「は? なにがだよ?」
「決まってるじゃない、ルナの幸運を呼ぶ力よ!!」
この時はまだ知らなかったが、これは始まりに過ぎなかった。





