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12・ジガン


 肉を食べ終え、俺は元気を取り戻した。

 気になることはいくらでもあるが、まずは頭を下げる。


 「助けていただき、ありがとうございました。貴方がいなければ、俺は死んでました」

  

 男性は俺をジロジロ見て言う。


 「気にするな………お前は身なりからして貴族か? ずいぶんボロボロだが」

 「······はい。アローと申します」

 「そうか。オレはジガン、たまたま狩りに来てお前を見つけた。あそこでオレが来なかったらお前はグレーウルフのエサになっていたぞ」

 「······あの、聞きたいことが」

 「ふ、外から来た人間には未知の領域だ。知りたいことや聞きたいことは山ほどあるだろうな」


 ジガンと名乗った男性は、30代半ばほどだろうか。

 厳つい顔に短く切り揃えられた髪、全身が鍛え上げられ、その上から鉄の胸当てを装備してる。

 ジガンの後ろの壁には、大きな大剣が立てかけてあった。

 

 俺から見たジガンは、傭兵のイメージだ。

 だけど恐怖はない。むしろ温かく優しい近所のおじさんみたいな雰囲気を感じる。

  

 

 「えっと、ここ······どこですか?」



 ********************

 


 「ここはお前の倒れていた草原近くの岩場だ。岩場の隙間と言った方が正しいな」

 

 確かに、洞窟と言うよりは岩場の隙間だ。

 これなら魔獣が襲ってきても死角はない。だが逃げ場がないということでもあるが、この人の自信からすると、逃げる必要がないくらい強い人なのかも。


 「ここは、マリウス領……ですよね」

 「そうだ。72の地域で未開発の地域。そして最も恐るべき地域だ」


 ジガンは荷物の中から瓶を取り出し、中の琥珀色の液体をカップに注ぐ。

 

 「お前も飲むか?」

 「い、いえ……」

 「そうか。では酒の肴にお前の話を聞かせてくれ。助けた礼と思って気軽に話せばいい」

 「………」


 気軽に話せって……けっこう重い話だ。

 アスモデウス領の未来の為にセーレ領の没収されたこと、婚約者を寝取られ、可愛がっていた婚約者の妹とメイドも奪われたこと、父親を毒殺され無実の罪でこのマリウス領に放り出されたこと。

 俺は全てを話し……拳を握り締めていた。


 「………そうか」

 「………は、いっ!!」

 「で、これからどうする?」

 「…………」


 これからの予定。

 そんな物はない………いや、ある。実現不可能なだけだ。

 俺は、この怒りを忘れることが出来ない。



 「俺は……サリヴァンを、ぶっ殺したい……ッ!!」



 煮えたぎる怒りが、言葉となって出た。



 **********************

 


 「サリヴァンだけじゃない。アスモデウス領をぶち壊したい。あの町を、サリヴァンの全てを破壊したい。サリヴァンの頭を踏みつけて、脳ミソが出るまで踏みつけてやりたい。サリヴァンだけじゃない、リューネとレイアもモエも、顔面が変形するぐらいぶん殴ってやりたい」


 ドロドロと俺の中から何かが溢れてくる。

 醜い液体が、身体中の穴から出てくるような不快感。

 だけど止まらない。言葉がトマラナイ。


 「落ち着け」

 「っ!!」

 「お前の怒りは分かった。だが、どうすることも出来ない。お前1人では、立ち向かうことも出来ない」

 「………」


 俺は、命の恩人のジガンを睨む。

 この人が間違っていないのはわかる、だけど俺の感情は暴走していた。


 「だったら……どうしろってんだ」

 「知らん。オレは事実を言っただけだ。それに、お前1人じゃこの領土から出ることも出来ない。断崖絶壁で立ち往生して、そのまま魔獣のエサになるのがオチだ。今回はこの平原で最弱のグレーウルフが相手だったからよかっただけだ」

 

 琥珀色の液体を飲みながらジガンは言う。

 きっと強い酒なんだろう。香りが俺の傍まで漂ってきた。


 「俺は……どうすれば」

 「………」


 自分の無力が恨めしかった。

 こんなにも弱い自分に絶望した。

 ジガンはカップを空にすると、一息ついて言った。

 

 「明日、オレの住む集落に連れて行ってやる。そこでゆっくり考えろ」

 「……え?」

 「力を付けてアスモデウス領に復讐するのもいい。全てを忘れて集落で生活するのもいい。どうするかはお前の自由だ」

 「しゅう、らく?」

 「ああ。マリウス領には大きな国はないが、小さな集落は無数にある。その内の1つに、オレの住む集落がある。そこでよければ案内しよう」

 「………なんで」

 「ん?」

 「なんで、そこまで……」


 ジガンに取って、俺はただの行き倒れだ。

 そこまでする理由はないし、こんな17歳の子供なんて放っておけばいい。

 だが、ジガンは微笑んだ。


 「人を助けるのに理由はいらん。お前の境遇には同情するが……元気を出せ。どんなに辛くても、明日は来る。いつだって今日を生きるしかないんだ」


 その言葉は、俺の中にストンと落ちた。

 久しく向けられなかった、優しさに溢れていた。

 

 「………う、うぅぅ」

 「泣くな。水分がもったいない」


 ジガンは、優しかった。

 全てを失った俺の心を、慰めてくれた。

 ジガンの存在が、父上と重なって見えた。


 どんなに辛くても、明日は来る。

 いつだって、今日を生きるしかない。



 これから先のこと、じっくりと考えてみよう。

 

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