7 意気投合
7 意気投合
「少し言い訳をするんだもん」
「言い訳はアラモンから聞いたけど」
「張本人が直接言い訳するんだもん」
「ではどうぞ」
「わしが部下に脅威と言ったのは確かだもんが、大きく意味が違ったもん」
「俺を敵だと言ったんじゃ?」
「違うもん。驚異的に凄いという意味だったもん」
「そんなに俺は凄かったのか?」
「凄かった。地球人離れしていたもん」
「まるで、あなたが地球人じゃないような言い方だな」
「半分は当たっているもん。わしらは地球外生命体と地球の人類との混血だもん」
「え?そうなんですか?」
「信じていないもん?」
「疑う理由もないから信じるけど...俺に証明しろと言われても困るがね」
「証明も何も本人が言ってるから間違いないもん。そうだ、少しわしらのことを説明するもん」
「おお、それは楽しみですな」
「先ずは、わしらの心臓部は宇宙船になるもん。といっても事情があってほとんど機能していないから搭載してある頭脳がメインだもん」
「頭脳というと人工知能みたいなものか?」
「似たようなものだもん。でも仕組みがよくわかっていないもん」
「え?じゃあどうやって使っているのだ?」
「勝手に動いているもん。わしらの現在の技術のほとんどがこの頭脳が与えてくれたものだもん」
「自分たちで新規に開発はしないのか?」
「残念ながらできないのだもん。わしらは衰退した種族だもん。それでも現在の地球技術より先をいっているもん」
「でも新規に開発できなきゃいずれ追い越されるのでは?」
「問題はそこだもん。というかそこはあまり問題じゃないもん。というか問題にしている派閥もあるもん」
「え?どっち?」
「わしの国の連中は問題にしていないもん。問題にしているのは他の国だもん」
「ややこしいからそこは後回しにして話を先に進めよう」
「賛成だもん。寄り道は後にするもん。で、わしの国にも新規の開発ができる人間が一人いるもん」
「一人?少なくない?でもそれ誰?誰って聞いてもわからんけど」
「目の前にいるもん。わしは数千年来の先祖返りと言われているもん」
「うん。話が戻ってきたようだな。で、その先祖返り様が何故俺のことを驚異的に凄いと思ったのだ」
「思考の方向性がわしらの失われた技術を指しているもん。つまりあの時に想が保有していた技術より方向性を買ったのだもん」
「方向性?組み合わせのアルゴリズムとか不定量の連続体のアルゴリズムとか?」
「おお、それそれ。半分はそれだもん。」
「半分というと、他には...思い出せない...」
「精神の枷のせいかもしれないもん」
「精神の枷か...それを外すためには?」
「わしの国に来て治療を受けるのが一番確実だもん」
「う~ん、アラモンの提案と同じか。考えてみよう。それより残りの半分を教えてくれ」
「それは、脱関数だもん」
「脱関数?」
「そうだもん。実体より実体同士の関係に主眼をおく論理体系だもん」
「それだ。ず~っと、ず~っと探していた答えだ」
「もんもんもん?」
「精神の枷も問題だが、そっちがわかった方が大きい」
「もんもんもん?」
「一つの問題は解けた。はずだと思う」
「何の問題だもん?」
「ハミルトン閉路問題は解けたはずだ」
「1歩も万歩も進んだもん」
「君のおかげだ」
「怪我の功名もん?」
脱関数の論理体系とは、入力と出力を点(複数個でも可)とし、その関係式を線としたとき、線同士の関係を記述する論理である。例えばN個のノードの完全グラフが与えられたときN(N-1)/2本の線分に主眼をおいたアルゴリズムを構築しようという試みである。
ハミルトン閉路問題は、米国のクレイ数学研究所がミレニアム懸賞問題として100万ドルの懸賞をかけた7つ(1つは解決済み)の未解決問題の中の1つであるN≠NP予想問題に属するNP完全問題である。
このような二人のやりとりは延々と続き二人は気心の知れた間柄となり、互いにべス、想と呼び合うようになっていた。