6 モーラ王国
6 モーラ王国
「わしは行くんだもん。誰が何と言っても行くんだもん」
「お、お待ちください。前代未聞でございます。仮にもあなた様は我らを導く指導部の序列第3位にございますぞ」
「それでも行くんだもん。わしらの先行きはあのものが握っておるんだもん。何よりわしの好奇心が行けと言ってるんだもん」
ここは、中東のカタール国の南東部に位置するモーラ王国のある1室であった。モーラ王国は人口15万人の小さな国であるが、豊富な貴金属が産出され富める国であった。カタール国は言わずと知れた『ドーハの悲劇』のドーハを首都とするアラビア半島東部の国である。つまり、モーラ王国は、サウジアラビア王国とカタール国と接していることになる。公式ではないが、サウジアラビア王国の王族の出自はモーラ王国であると信じられているため、小国ながら政治的、宗教的な外圧はほとんどないようである。
「あら、どうしたの?」
「おお、姉上様だもん」
「これは、女王陛下」
その部屋に入ってきたのは、彼の者の姉でありこの国の序列第1位であるアラシルク女王であった。
「アラベスク、どこに行くの?」
「あの者が見つかっただもん。だから行くんだもん」
「そう、がんばって行ってらっしゃい」
「陛下、それはあまりにも...」
「大丈夫でしょ。アラベスクが居ても留守でも働くのはアルコンなのですから」
「それはそうですが...」
「これで決まりだもん」
アルコンは地球でいうところのコンピュータである。そもそも、モーラ王国の指導的立場の人々の祖先は地球の人類ではなく、彼らは地球外生命体と地球の人類との混血となる。アルコンはその祖先の遺物であり、発達した人工頭脳に似ているかもしれない。詳しいことをこの話の中で説明できるかまだ未定であるが、必要に応じて紹介することになるであろう。
さて、想への訪問者はアラモンという名であった。そのアラモンの提案は治療を受ける受けないに関わらず、想宅の傍に訪問者用の宿舎を建てたいということであった。それは訪問者がひっきりなしにあることを意味しているようなので断りたいと思ったが、なにやら直ぐに断るのは気が引けるというか言い出せないというか1種の予感めいたものがあったので取り合えず保留にすることにした。
それから数日後、新たな訪問者が増えた。アラモンは、宿舎のできていなことを深く詫びているようだったが、その様子からして上司であることは間違いあるまい。
「こちらは、アラベスク様です。我が国の序列第3位のお方です」
「我が国?あなたは何処かの国の役人だったのか」
「ん?アラモン、何を説明していたんだもん」
「申し訳ございません。我らの素性の説明が抜けていたようです。これから説明いたしましょうか?」
「もういいんだもん。あっちに行ってるんだもん」そう言うと、想に向かって抱きついてきた。
「想さん、心配したんだもん。わしのせいで辛い目に合わせたもん。それより、どうして突然消えてしまったもん?それに今までどこにいたもん?」
「ん?消えた理由は俺にもわからん。そもそも消えたのかすら覚えておらん。どこって日本の何処かだが」
「そうか。それで全ての謎は解けたもん!って解けていないもん。ほとんど答えになっていないもん」
「しかし、そうとしか答えられん」
「まぁ、それは些細なことだもん。アラモン、アラモン、ん?どこ行ったもん?」
「お待たせしました。あっちへ行ってろと仰いましたので」
「治療は進んでいるもん?」
「想様が治療を拒んでいるもので...それに本国に連れ立ってもらってアルコンの指示を仰がねばなりません」
「治療を拒んでるもん?何故だもん?」
これから延々と想とアラベスクの会話が続くのであるが、そのかいつまんだ内容を次話で紹介したいと思う。
その会話を通して、二人は1つの技術分野の開発へと向かうかけがえのない同士となることもつけくわえておきたい。