2-2 オートマトン
2-2 オートマトン
「ほう、これは変わった生き物だな」
「おじいちゃん、これ生き物じゃないよ」
「ん?本当に妖精なのか?」と想はいささか驚いた。
「わたしはオートマトン。月夜様の守護者です」
「ふむ、ふむ。では楓の使いか?」
「想、これが誰なのか知っているのか?」とべスはさらに驚いていた。
「いや、そうとしか考えられないからな」と想はうそぶいた。
「当たりとも外れとも言えますので少し長くなりますが、説明をさせてもらいます」と妖精オートマトンは話し始めた。それによると、
妖精オートマトンの名前はシエルと言い、主はある派生次元に存在するエバーと言う名の存在である。
100万年前天の川銀河の中央部に君臨していた銀河連邦は突然別銀河の宇宙艦隊から襲撃を受けた。情勢は劣勢となり銀河連邦が壊滅の危機に瀕した時、銀河連邦の文明を残すためにいくつかの天の川銀河の星系に艦隊を散らして飛ばした。いくつの艦隊が目的とする星系に無事に到達できたのかは明らかではないが、その一つの艦隊の継承頭脳がエバーである。継承頭脳とは艦隊の人類を人工冬眠させている間、その守護と環境の記憶を司るものである。しかし無限の記憶を蓄えておくことはできず、徐々に古い記憶を失う人工頭脳の新陳代謝を行う。これを継承頭脳と呼ぶ。人類が人工冬眠している間稼働しているメカはこの継承頭脳だけであり、その他のメカはロックがかけられ主が目覚めることを待っている。そして人工冬眠とメカの保存場所が派生次元となる。
派生次元とは、文字通り現実次元から派生した袋小路のような次元であり、詳しい説明は他の話に譲るが結界と呼ばれるものによく似ている。争いの中から脱出してきた艦隊は安全のためこの派生次元を3つ造った。出入り口の1つは中東、1つは日本、1つはチベットである。エバーは中東に設置され他の派生次元にはいくつかのメカと人工冬眠する人類が眠っている。
エバーの安全弁として1人の女性がエバーの主となった。女性は地球の人類の男性から染色体情報の最も適合する精子を授精し代々の守り人を務めることになる。その守り人こそが楓であり、月夜であった。ここで謎なのが月夜の父となった精子の提供者であるが、それはこの話の中で明らかになるであろう。
シエルは月夜が生まれたときからずっと付き従っていたが、姿を見せることはなかった。月夜が次代の守り人を生すとき、あるいは究極の窮地に立った時のみ姿を現すように主から命令されていた。つまり、現状を究極の窮地と認識したことになる。
ということだった。
「主から日本の派生次元の鍵を預かってきております。」
「話は大体飲み込めたが、その鍵はどこでどうやって使うのかな?」と想が尋ねた。
「そこに鳥型オートマトンのハスクが待機しております。鍵はハスクが所持しており、開錠もハスクが行いますので、どうぞハスクに乗船ください」
いわれるままにシエルの指さす方向を見ると確かに鷲によく似た鳥はいたが、体長は60㎝ほどしかなかった。
「どこに乗れと?」
「ハスクの体内は派生次元となっておりますので窮屈な思いはしないと存じております」
ハスクの周囲に想と月夜、そしてアラベスクが近寄ると、ハスクが3回鳴いた。
すると、3人ともがハスクの体内へと吸い込まれるように消えて行った。
想はこの未知の技術に東北を救う術を託そうと考えていた。現状ではじり貧なので藁にすがったのである。