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パラドックス  作者: 追いかけ人
第1話 希望の技術
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16 惨劇

16 惨劇


 尚道が最後の願いを託した想も力になれないらしい。そんな尚道の脳裏を過るのは惨劇以外の何物でもなかった。確信的に把握できていないミサイルは存在し、把握したミサイルであっても確実にトラップを回避できたとは思っていない。必ず何発かのミサイルは目的地に飛来するに違いないのだ。願わくば迎撃システムが自分たちが逃したミサイルを打ち落としてくれよと思うのであった。

 やがてアメリカは北朝鮮に宣戦布告をして、その僅か3時間後に北朝鮮の大地から炎の尾を引くミサイルが上空へと12発上昇していった。おそらく発射ボタンを押した張本人たちはあの文書のように自決しているであろう。このミサイルの行方の責任を誰が負うのであろうか。尚道は自分の不甲斐なさを呪い、そして何かをも呪わずにはいられなかった。ただ尚道はその何かが何なのかはっきりとは認識していない。


 4発の大陸間弾道弾が北米大陸の西海岸を襲っていた。ペンタゴンの警戒システムは北朝鮮からミサイルが発射された直後その到達地点を予測していた。しかしペンタゴンが予測したのは米本土への直撃弾だけであり、その他の8発のミサイルはその行先の防衛システムに委ねられていた。4発の中3発は迎撃ミサイルあるいは迎撃レーザが捉え迎撃に成功したが、そのほとんどが大気圏に突入した数秒後であり、核を搭載したミサイルの爆発は不運にも北米大陸全域に影響をおよぼしたと考えられた。残りの1発はロスアンゼルスに着弾と同時に爆発を起こした。ロスアンゼルスは筆におろすのも憚られるほどの惨劇にみまわれたが、幸か不幸かこのミサイルの影響範囲はロスアンゼルスの近郊にとどまっていた。だからといってどちらの被害、いや惨劇が酷いか比べることはできない。後に被害の分析からミサイル1発の爆破出力は広島型原爆『リトルボーイ』の約80倍のTNT換算で1,200キロトンと算出された。ペンタゴンの関係者が『早期の作戦が功を奏した。ツァーリ・ボンバ並みの核弾頭であれば、我が本土はぼろ雑巾のようになっていた』と発言したようであるが、これは失言として闇に葬られたようである。ツァーリ・ボンバとはソ連が1961年に実験を決行した人類史上最大の水爆であり、『リトルボーイ』の約38,000倍の威力を持っていた。


 2発は韓国に飛来し、直撃を受けた。このミサイルは高速短距離ミサイルであり発射から着弾までの時間が短すぎて迎撃システムが働かなかったようである。爆破出力は『リトルボーイ』の約4倍であったが、着弾は2発ともにソールであったため政治的、経済的、そして人的な被害は壊滅的な混乱を巻き起こした。


 2発はグアムの米軍基地に照準があてられていたようだが、この2発は幸いにもグアムを直撃せず、被害は放射線だけであった。とはいえ放射線の被害は今後に尾を引きグアムの住人たちは長い間苦しみを味わうことになるだろう。


 残りの4発は日本に飛来した。1発は自衛隊の迎撃システムが新潟上空で打ち落とし、1発は米軍の迎撃システムが着弾寸前の沖縄上空で打ち落とした。これにより北陸地方と沖縄は放射線に侵されることになった。1発は伊豆半島の付け根に着弾し、伊豆半島は本州の離島となってしまった。この1発が照準通りであったか明らかではないが、富士山を活性化させ活断層に少なくない影響を与えたことに疑いはなかった。


 最後の1発は福島県浜通りに着弾した。ここには2011年の東日本大震災で被災し未だ復旧どころか撤去の目途さえ立たない原発の廃墟が存在した。この着弾は照準通りと予想され最も効率の良いミサイルの着弾地点と考えられた。なにしろその地点には核弾頭の数百倍を超す爆発物が眠っているのだから最少の威力で最大の効果を上げられると考えられる。当然の結果として、福島以北の東北地方は本州の離島となり後々まで放射線の脅威にさらされることになる。


 尚道は技術の恐ろしさをまざまざと思い知らされた。技術の運用のありかた、さらには指導者の思惑のありかたを考えさせられる。日本の指導者と北朝鮮の指導者、そして米国の指導者の連携により東北地方は未曾有の惨事に見舞われたと言っていい。技術の乱用は恐ろしく、指導者の思惑も恐ろしいものだと身を持って知ったのだと深く胸に刻む尚道であった。


第1話 完

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