14 アメリカの思惑
14 アメリカの思惑
「べスたちの歴史とアメリカとどう関わるんだ?」
「もう少し話をするもん」ということで、引き続きべスの話は続いた。
19世紀中ごろにアメリカ大陸はゴールドラッシュに沸いたが、その一地域で宇宙船の残骸と思しき物体が発見された。このことは公式に公表されず闇に葬られたが、その権利を有したのがべスたちの同族であるパープル・レインマンであった。パープル・レインマンはその宇宙船の存在の隠蔽と復旧に己の発掘した金脈をおしみもなく使い、また後にマフィアの中核となる傭兵を雇った。同時に欧州大陸の志を等しくする同族を呼び寄せ、堅牢な組織を築いていった。その志とは『この地球を支配し、我らの次代の故郷とする』というものであった。表の顔は民主主義と資本主義を叫び人々の平等を唱え、裏の顔は同族>白色人種>有色人種というピラミッド型の身分制度を築き上げていったレインマンたちは宇宙船のメインコンピュータに残る技術力を背景にアメリカ合衆国の裏の全てと表の中軸を支配していった。
確かに欧州大陸でも支配思想は芽生えていたが、北米大陸より過激ではなかった。しかし北米大陸のレインマンらの勢力拡大を見せつけられた欧州でも負けてはならじと支配思想が急ピッチで浸透していった。このことを憂いたのは欧州のバチカンと植民地政策により侵略を余儀なくされているアジア大陸やアフリカ大陸、南米大陸のかつて中立派だった同族たちであった。
バチカンはバチカン神殿の地下に存在するとされるDOFの膨大な遺産を背景にかつての実験推進派の中心的役割を担い、現在では欧州のDOFの中心的存在となっていた。バチカンのトップは影の法王と呼ばれ、DOF欧州連合に参加している同族の選挙により選ばれた。メンバーとなる同族たちはブレスレット型やペンダント型などの思い思いの端末を有し、選挙はこの端末で行われるから費用も時間もほとんど必要としなかった。そのため法王の罷免もメンバーの1/4の申し立てにより再選挙が行われることになっていた。そして1/3の罷免有効票によって法王は罷免された。これは選挙で過半数の票を得られれば法王となることはできるが、安定した法王の座は2/3の票が必要であることを意味する。過去に安定的な座の法王は幾人もいたが、DOF欧州連合に重大な問題が持ち上がり票が割れるようなときには法王の座はお飾り的となり、実質的な権力は有力者の合議制へと移行させられた。
パープル・レインマンの件も重大事項としてDOF欧州連合は有力者による合議を行った。しかしパープル・レインマンの強引かつ狡猾な根回しによりDOF欧州連合のトップ会議は骨抜きとなってしまった。パープル・レインマンの根回しの材料はゴールドラッシュで得られた金塊と第3の母艦から得られた新技術の割譲であった。どの勢力も植民地支配に遅れてはならじとパープル・レインマンの術中にまんまと嵌っていった。こうして骨抜きとなったDOF欧州連合は、北米のアメリカの独立を認めることしかできなくなっていた。そしてアメリカ合衆国の独立は1776年とされているが、実質的な支配力を強めた独立はこのときに形作られた。そこに唯一楔を打ち込んだのは北米大陸の北部のカナダ地域を植民地化したイギリスだけであった。しかしこのカナダもやがて独立しイギリスの傀儡政権を脱していくことになる。
という経緯のようである。
「大体のところは分かったが、問題はアメリカの支配欲でいいのか?」
「そうだもん」
「べスたちやバチカン、中立派は対抗できるのか?」
「難しいもん。1枚岩にならないもん」
「じゃあどうすればいい?」
「結論から言うと現有の3つの母艦の技術を凌ぐ技術を確保することだもん」
「もしかしてIWWBのことを言っているのか?」
「希望の技術だもん」