13 べスたちの歴史
13 べスたちの歴史
13 べスたちの歴史
「詳しく話せばとても長くなるから簡単に説明するもん。詳しいことは暇なときにだもん」
「それで頼む」
こうして地球外生命体と地球の人類との混血種族であるべスたちの歴史は語られた。それによると、
彼らは自分たちの種族をDetained Orphan Family(DOF:縛られた孤児の種族)と呼んでいる。正式な種族名は失われてしまったらしい。
DOFが地球に達したのは100万年ほど前であるようだ。地球は氷河期のまっただ中で、彼らは行動の自由を制限されるかわりに、温度が低いから地球環境に汚染されることも緩和されると思ったらしい。ところが、何万年か何十万年してから地球環境に汚染されていると気付いたらしい。恒星間航法を所有する種族であったとしても、複雑な生物の分子レベルより微細な部分を完全に把握することは困難だといわれていた。もっとも打撃を受けたのは生殖についてだった。同族同士でのたとえ高度な人工授精であっても機能しなくなっていった。そこで思いついたのが、この地球の人類と交わってみてはどうかということだった。調査が勧められたところ染色体の合致率は99%を越えていた。しかし、1%の違いであっても授精が上手くいかない可能性の方が高い。仮に授精が上手くいっても次代の子供が生殖能力を持っていないケースも数多く報告されていた。そのため実験授精としてのパイロットプロジェクトが始められることになった。
ところがこのプロジェクトに異を唱えるものが数多く存在した。その拠り所は宇宙公法であった。今となっては公法が適用される範囲を特定できないが、当時は自分たちとこの地球に適用されると考えたようである。一方実験推進派は適用されないと主張したらしい。その宇宙公法とは『甲(自分)と乙(相手)の間に著しい文明および技術の差がある場合、甲は乙に干渉してはならない』というものであった。やがて、3つの派閥ができるようになる。1つは実験推進派、1つは実験否定派、1つは中立派である。そして、それらの派閥はいがみ合い、妥協しながら数万年を過ごした。
DOFが地球に着陸したそもそもの理由はエネルギーの枯渇にあった。自分たちの目指す故郷はおろか、後一度の跳躍で全ての艦艇が行動不能になることが予測された。何故そのような事態になったのかは明らかではない。この時代の艦隊規模は母艦単位で数えられた。母艦は通常次元を跳び越す跳躍能力を持つ艦艇とされ、その内部に通常空間用の搭載艇を抱えていた。その母艦を3艦持つ種族は、それぞれの派閥が1つずつ保有することになった。
そして、その時がやってきた。業を煮やした暴発分子が先制攻撃を仕掛けたらしい。的となったのは中立派の母艦であった。不意打ちだったこともあり、その母艦は暴走して跳躍を行った。跳躍の前にほとんどの人々は搭載艇により脱出できたが、母艦の行方は杳として知れなかった。そして、推進派と否定派の過激分子たちがそれぞれの母艦を制圧して空中に立ち止まったまま砲の打ち合いをしたらしい。結果として双方ともに不時着を余儀なくされた。メインコンピュータも破損が酷く、かつての技術の大半が失われてしまった。
やがて、推進派と否定派は穏健な人々たちによって和解し、過激分子は追放処分となった。追放処分とは1か月の食料だけを持たされ、未開の地へと降下させられることを言った。所以彼らの末路は誰も知らない。また和解したとはいえ争点が解決したわけではない。推進派は今でいうヨーロッパ大陸に、否定派は中東に、中立派は各地に拠点を築いて営みを行うことになった。この時、変わり果てた母艦を有するのは推進派と否定派だけであった。推進派と否定派は母艦から飛び散った部品など貴重な資材や資料などを探し求めた。その地はある程度特定されていたが、ここでもその地の領有権を巡って争いが起こるようになった。その地は今日まで引き継がれ各宗教の聖地として名残をとどめている。
ということらしい。