12 同族
12 同族
北東北地方に向かって飛ぶ小さな飛行隊がいた。長さは7~8cmの葉巻型であり、これがもっと大きく人の目触れることがあれば、UFOと見間違えられたかもしれない。幸いこの飛行物体は人の目につかず優雅然として飛行を続けていた。この物体を飛ばしたのは尚道で、今回の件を想に相談するためだった。もちろん今回の件は部外秘であり、外部と連絡をしていると知られれば尚道といえどもただではすまないであろう。
「おお、チカプ帰ってきたか」と、独特の鳥の囀りを聞いた想は嬉しそうにつぶやいた。声の主はあの葉巻型飛行物体で、その作者は想自身であった。正確に言えば、図面書きとソフトは想が手掛けたもので、メカや電気回路部分は尚道の伝手で外部に発注したものである。時速400㎞を誇り、東京首都圏とこの北東北の想の住居を1時間半ほどで繋ぐことができる。メカは2体あって、尚道と想が1体ずつ持っているが、今はチカプが想の元にいるので想2体、尚道0体の所持となる。
想はさっそくチカプを専用のコンピュータに接続した。チカプは内部に10Tほどのメモリを内蔵しているため、専用のコンピュータはそのデータを抜くことができる。専用のコンピュータでなければチカプとのインターフェイスが確立されないので他の者にチカプの情報が漏洩することはない。
「何々。ほう、そんなことが起こっているのか」と、想は尚道の話す映像をみてつぶやいた。
さらに、チカプには尚道らが使用しているシステムへの侵入経路が記されていた。その経路は尚道がトラップ用に作ったもので、特殊な操作をしなければ侵入がばれてしまうように作られていた。その特殊な操作方法が記されているのである。
そして、想への頼みとして2つのことも記されていた。1つは『今回のアメリカの作戦は強引過ぎると思うが想はどう思うか』であり、1つは『北朝鮮のミサイルの全てを凍結するアイディアを持っていないか』であった。これは、尚道が想のことを友として信頼している証であり、それ以上に想の力に期待している証でもあった。
想はしばし考え与えられた時間はさほどないだろうと思いながら、チカプに返信を持たせた。内容は『1つ目については思うところがあまりない。あってもどうにもならいだろう。2つ目は明日の朝には何らかの答えを出そう』であった。そして想はデータの解析を始めたのだが、独自理論のフレームワーク化したシステムもまだ完成していない。それより大事なのは独自理論へのネーミングであったが、これといった気の利いた名前も思い浮かばない。仮にInfinate White Wall Breaker(IWWB)と名付けていたが、これは無限ように切り立つ白い壁のような大量データを分解するものという意味である。この問題に直面した時の心境と完成したと思った時の心境をそのまんま表したものでセンスがないと笑われそうである。ネーミングは落ち着いた時に考えようということにして、IWWBのコンピュータに実装することを急ぐことにした。しかし、データの解析も急がねばならない。そこでべスに実装を依頼することにした。
尚道からの情報をどこまでべスに伝えるか悩んだが、信用することにして全てを伝えることにした。そしてべスに伝えると実装に関しては鋭意努力するが、自信度は50%であると言いきった。自信を持ってできるかできないかわからないと言われても困るが、全くできないといわれるよりはましであると思い委託することにした。
もう1つのアメリカの行為に関しては予想外に渋い顔をしていた。
「アメリカの裏の顔とわしらは同族なんだもん」