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オカルト研究部の幽霊部員  作者: 椎名焔妃
オカルト研究部への道
4/19

俺しか見えない監視役


二時間目始まる前、俺が教室の引き戸に手をかけた時、後ろを見たがそこに天月の姿はなかった。てっきりもう帰ったのかと思っていた。

しかし二時間目の授業中、天月は突如俺の前に姿を現した。


(うおぉ!)


あ、あぶねえ。声に出してたらさすがにヤバかった。この静かな授業中に、ボッチがいきなり奇声をあげたら、それはもうヤバい。俺は完全にヤベー奴認定されてしまう。

天月とはいうと、俺が声をあげて驚かなかったのが不服なのか不満そうな顔をしている。

・・・まさかこいつ、俺にバカって言われた仕返しでもしたのか?さすがに授業中はやめてくれ・・・。精神がすり減る。


「なんで驚かないの!?」


・・・別にいいだろ。単にやりそうだとは思っていたので、警戒はしていた。

んでなんでちょっと怒ってんだよ・・・。俺が声をあげてたら、青春どころじゃないぞ。マジで。

言いたいことは色々あるが、とりあえず今は無視しかできない。今は授業中だ。コソコソ話しても誰かには聞こえてしまう。授業中にコソコソと会話している人たちはいるが、それは別に不自然ではないし、せいぜい先生に注意されるくらいだ。しかし俺の場合、誰かとではなく一人でボソボソと喋っているように見えてしまう。それもまたヤベー奴認定されてしまうことになる。


「なんか言ってよ!」


いや、無理だから・・・。

その後も話しかけ続けてきた天月だったが俺にとことん無視されると、やっと察したのか「ふんっ」とそっぽを向いて、教室をうろうろしていた。


『キンコーンカンコーン』



二時間目が終わった。俺はそそくさと教室を出て、人気のない廊下の隅に向かった。

天月はついて来ている。


「お前なあ・・・」


「さわ君が悪いんだよ。バカとか言うから」


「そうは言っても、ありゃやりすぎだ。授業中だぞ。声に出してたらどうなっていたか考えるだけでも恐ろしい」


「だって!」


天月は怒っている、というよりかは拗ねていた。

はぁ・・・。とりあえず、謝っておこう。


「すまん、すまんかった!俺が悪かったよ」


俺が謝ると、天月はみるみるうちに晴れやかな顔になっていった。


「うん。私もごめん」


ちょろい。あまりにちょろい。・・・やっぱりバカだなこいつは。


「それはそうと、なんでまだいるんだ?」


「うーん、もうちょっと見ていたくてね」


「そ、そうか」


出来れば早く帰って欲しいが、それを言うことはさすがに出来なかった。


「あ、そうだ。授業中は話しかけんなよ。喋れないからな」


「うん、わかった」


そんな会話を済ませて、俺は教室へ戻った。



それからは天月はおとなしくなったと思ったのだが、「ふーん、なるほど」だとか「これは分かんない」だとか独り言を言いながら授業を楽しんでいる。挙句、俺のノートを見て「字、汚いよ」とか指摘し出したり、俺が窓の外を見ていると「ちゃんと先生の話聞こーよ」とかいらない説教までしてくる。すごくうざい。

どうやら天月はじっとしていられない性格なようだ。退屈なら帰ればいいのに。

そんな感じで三時間目、四時間目が終わった。



そして昼休み。

購買に行き菓子パンを買って、教室の自分の席で食べる。これが俺の昼休みの過ごし方だ。周りは休み時間よりもさらに増してギャーギャーうるさいが、気にせずに過ごす。


「ねえ、さわ君?」


「ん、なんだ?」


この騒ぎの中なら、独り言の一つや二つ誰かに聞かれることはそうそうないだろうし、俺の周りの席には誰もいなかったので普通よりちょっと小さめの声で話した。


「なんでわざわざボッチが目立つような場所で食べてるの?ほらさあ、屋上とかいいんじゃない?青春っぽいじゃん!」


「アニメの見過ぎだ。普通の学校は屋上なんて開いていない」


俺も最初は屋上で昼休みを過ごそうと考えていた。ボッチ×屋上は様になるし、なんか主人公みたいで憧れていた。そして同じことを思った女子とばったり出会って、、、みたいな淡い期待、というか妄想を抱いていた。しかし、いざ行って見るとその期待は無残にも消え失せた。こそこそと登った階段の先にあった屋上への扉は、固く閉ざされていた。まあ当たり前だよな。そうして俺は教室でのボッチメシを余儀なくされた。


「そうなんだ。行きたかったな~屋上」


こいつ幽霊だよな。幽霊なら行けそうなもんだが。


「こう、壁をすり抜けたりとか出来ないのか?」


「んー出来ないね。それは」


出来ないのか。幽霊は壁をすり抜けるものだと勝手に思っていた。まだ知らないことばっかりだ。

幽霊についても。天月についても。


「でも鍵くらいだったら、力づくでいけるかも」


力づく・・・!?幽霊って怪力なのか?もう世の中の幽霊のイメージってのは当てにならないな。

俺がちょっと引き気味に驚いていると、


「あ、力づくってのはね、なんというかその、、、筋力があるって意味じゃなくて、物を動かす力っていうか、、、こうなんか、、サイコパワーってかんじ!!」


なんか必死に弁明された。サイコパワー、、、超能力的なやつか?でもなんとなく幽霊っぽいな。いやむしろ宇宙人っぽさの方があるか。うん。

そう言えば、チャリを勝手に操縦されてたな。つまりはその力を応用して、鍵穴の中の仕組みをガチャガチャってやって開けるんだな。なるほど。よく分からん。


「それが出来たところで先生にバレたら、大目玉だ。屋上には行かない」


「バレなきゃいいじゃん」


「絶対バレる。お前はそういうのに向いてない」


「そんなこと分かんないじゃん!!」


いや、分かる。そもそも天月がまともな幽霊だったなら、俺と出会うことはなかった。天月は必ずどこかでヘマをする、そんな人、、、いや幽霊だと思っている。つまりは゛バカ゛だ。


「でもさ、屋上はダメにしても昼休みを過ごせる場所はあるよね?なんで教室?」


確かにうちの高校には、昇降口からすぐのところに多目的ホールというテーブルと椅子が設置されている大きなスペースがある。

だがあそこはダメだ、完全にリア充共の巣窟になっている。一度見に行ったが、無造作に設置されたテーブルと椅子にはそれぞれに仲睦まじい゛つがい゛たちが、昼休みのひと時を過ごしていた。非常に腹立たしかった。

あとは外にベンチがあるが、あそこに人が座っているのを見たことがない。教室の窓から丸見えなので、ベンチに座っていたら、目立つことは間違いないだろう。

結局、消去法で教室で過ごすことにした。

しかし本当の悲劇はこれからである。教室に戻ってみると、俺の席の椅子が見当たらない。辺りを見回すと、それらしき椅子には女子の尻が密着していた。つまりは盗られたのである。根暗な俺は「椅子を返して」の一言も言えないので、その日の昼休みは学校中をぶらぶらして暇を潰すハメになった。これ以降、一番安全に昼休みを過ごすには、うかつに席を外さないことだと肝に銘じた。無駄なことはすべきではない。

ちなみに、購買に行っている間は椅子の上にカバンを置いて行くようにしている。それでもなお心配だ。


「自分の席が好きなんだよ」


本当のことを言うと笑われそうなので、テキトーに返した。


「ふーん、そっか。ちょっと変わってるよね、さわ君って」


お前にだけは言われたくない。

今まで普通に会話していたが、気になっていたことがあった。


「お前の声ってどうなっているんだ?」


「声?」


「お前は俺以外に姿を見せていないが、声も俺以外に聞こえてないのかってこと」


「聞こえてないんじゃない?誰にも反応されてなかったし」


・・・・曖昧だな。んーでもそうだな。反応されてはいなかった。


「お前はもう少し自分の身体とか能力について、理解しておけよ?今後へたしたら、大騒ぎじゃ済まないからな」


「確かにそうだね。いろいろ調べとくよ」


「ああ、そうしてくれ」


あまりに知らないことが多すぎる。


そんな会話をしているうちに、教室ではほかの場所に行っていた人たちが段々と戻ってきた。

もう昼休みが終わろうとしている。


「で、お前はまだ続けるんか、下見ってやつ」


「んーでもあと二時間でしょ?どうせなら最後までいよっかな」


いや、もう帰ってくれよ・・・。もう見るとこなんてないだろ。

授業中、俺にしか見えていない天月の存在はすごく目障りだ。しかもこいつは、俺に無視されると分かっておきながら話しかけてきやがる。すごく迷惑だ。

これを本人に言ったら、また拗ねるだろうから言わないでおくが。



五時間目が始まる。この時間はすごく眠くなる。それはクラスの人も同じで完全に机に突っ伏している人もいれば、盛大にあくびをかまして、こっくりこっくりしている人もいた。

しかし俺には天月麗奈という眠気覚ましがいた。それは強力で、俺が眠ろうとするたびに頭にチョップをいれてくる。本当に迷惑だ。

そのチョップは痛くない絶妙の加減だが、うとうとしている時にチョップされると、びっくりして声が出そうになる。本当にやめてほしい。

「授業中だよ?」と天月は言うが、俺には面白がってやってるようにしか見えなかった。



六時間目は眠気がなくなっていたので、普通に授業を聞いていた。

相変わらず、天月は目障りだったが。



そして、放課後。

やっと終わった。はぁ・・・長い一日だった。

先生の短い話を聞き、やっとのこと学校から解放される。このクラスはほとんどの人が部活に入っているため、まだ教室はガヤガヤしていた。部活行きたくないんなら辞めちまえ!!と俺は問いたい。

俺はそそくさと教室を出て、昇降口に向かった。昇降口を出て駐輪場へ向かう途中、ついて来ていた天月が口を開いた。


「部活入ってないの?」


「ああ」


「なんで!?」


「なんでって、やりたい部活とかないし・・・。早く帰ってアニメ見たいし」


「ダメだよさわ君!そんなんじゃ青春は楽しくならないよ!!」


「いや、でもな・・・」


「青春とはまず部活から!!」


まーた始まったよ、この青春バカ。


「とりあえず、待ってろ。チャリとって来る」


俺はそう言って茶を濁した。

チャリをとって戻ってくると校門前に天月はいた。


「部活入ろうよー部活ー」


まだ言うか。


「・・・」


んー、ここは人が多すぎる。俺は天月にチャリの荷台に乗るようにジェスチャーした。

そうして天月を乗せ、チャリを漕ぎだした。力使えよ、力。あの時みたいに。普通に重いんだが・・・。でも重いとか言うと怒りそうなのでとりあえず我慢した。



そして人気のない道に入ると、会話が再開した。


「それで、部活は!?」


「だからやりたい部活なんてないから入らん」


「そんなこと言って、家でゆっくりアニメ見たいだけでしょ?」


「それが、やりたいことだからな」


「もう、だから友達出来ないんだよ・・・」


うるせぇ、ほっとけ。


「でも私がさわ君の青春を楽しませるって決めたからね!じっくり考えよう!これからのこと!!」


「ああもう分かった、分かった。でも今日は早く帰らせてくれ。疲れた」


「え?あ、そう?しょうがないなあ」


ったく、こんなに疲れてるんのはお前のせいだ。


「で、お前どこで降りる?」


「あーあそこ!初めて会った墓地!」


まあそうか。幽霊だもんなこいつ。じゃあ墓地に向かうか・・・。

チャリを走らせること五分、墓地に着いた。


「着いたぞ」


「ん、ありがとう!」


「ああ、じゃあな」


「ちょっと待って、一ついい?」


「ん?」


「さわ君さぁ、なんか結局私のことお前って呼んでない?」


げ、バレたか。


「ま、まだ慣れてないんだ。勘弁してくれ。いつか自然に呼んでやる」


「そう?じゃなるべく早くね。これで話はおしまい!じゃあまた明日!!」


「ああ」


俺はチャリを漕ぎだした。

・・・・・・ん?天月は最後になんと言った?・・・また明日・・??

振り向いた時にはもう天月の姿はなかった。



家に着いて、少し考える。また明日というのは、今日みたいな下見という名の嫌がらせがまだ続くのか、それともついに転校生として誰もにその姿を晒すのか。

いずれにしても明日になったら分かる。今日は疲れて身体を休めたいので、気にしないでおくことにした。

それから俺はいつも通りに過ごした。




◆◆◆◆◆◆




次の日------



不安に押し潰されそうになりながら、学校へ向かう。

そして俺が教室に着くと、廊下側一番後ろの席が不自然に一席増えていた。

この瞬間、俺はすべてを察した。


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