白昼夢
「は、はあ?」
思わず声に出してしまっていた。
「だ~か~ら~高校生活を送りたいんですよ!それも楽しく!!」
彼女は目をキラキラさせながら言った。
「見たところ君は、上高場校生だろう?なら私はそこに転校生として入学する。そしたらともに高校生活を楽しもうではないか!さしづめ君は私の友達第1号だ!」
・・・待ってくれ。何を言ってるんだ。この人は。いや人じゃないな。
「そういえば名前を言ってなかったな。私は天月麗奈。君は?」
「・・・・・・佐和野景史」
「さわのかげふみ・・・なるほど。覚えた!これからよろしく!ん~と・・・カゲ君!」
「ちょ、ちょちょっと待ってくれ。頭の整理が追いつかん。お、お前は幽霊なんだろ?んでもって、高校に入る?なにを言ってるんだ?」
「あ、やっと幽霊だって認めてくれたね。」
「そ、そんなことはどうでもいい!!分かるように説明してくれ!」
「じゃあ私についてちょっと説明するね。私は見ての通り幽霊なんだけど・・・」
゛見ての通り゛ね・・・。誰が見ても幽霊だとは思わないぞ、その容姿は。
「私ね、高校に入ってすぐに事故で死んじゃったの。だからもう一回高校に入って楽しみたいんだ、青春ってやつをね!」
スイッチが入ったように天月麗奈はその口を動かし続ける。
「高校生活といえば青春!青春といえば高校生活!!友情・恋愛・部活!とほんの少しの勉強!!いっぱい!!何も出来なかったから!!」
高校入学前の俺みたいなこと言ってんな、こいつ。まあ、でもこいつならその青春を輝やかせることは出来たであろう。そう思うと可哀そうになってくる。
「・・・つまりあれか。現世の残した未練を晴らして成仏したいってやつか?」
「んー、成仏は違うかな」
じゃあ、なんなんだよ・・・。
「幽霊ってのはね、自由に現世と霊界を行き来出来るんだよ。原則として現世の人に姿を見せてはいけないんだけどね」
「でも見せてるじゃん。俺に」
「あれはしくったねぇ、えへへ。私、姿消せてると思ったんだけど消せてなかったみたい。でももういいの!決めたから私、高校に入るって!!それにいるからね、わざと姿見せて人をからかう悪い幽霊!私はからかってないから大丈夫!!」
゛あれ゛というのは、昨夜のチャリの荷台のことか。基本的にバカなのかなこいつ。んでもって霊界なんてあるんか・・・。もうなんか、むちゃくちゃだな・・・。
あ、、、そういえば、
「なんでチャリの荷台に乗ってきたんだ?」
そもそもなぜ彼女が俺のチャリの荷台に乗ってきたのかを聞いていなかった。
「んーと、まず霊界にはほとんど娯楽がないの。だから暇な時は現世に来てネカフェでアニメ見たり、マンガ見たりしてるわけ。んでもって歩くの面倒だから通りかかった誰かの荷台を借りてるってこと!」
あー確か俺んちの近くあったな、ネカフェ。行ったことねえや。
しかし、俺には彼女がしくったらしく姿が見えたからいいが、見えなかったらまさしく゛心霊現象゛だな。
「お前、ネカフェでも姿消してたのか?」
「消してたよ?」
それは彼女自身が口にした、悪い幽霊そのものではないだろうか。人をからかってはないにしろ、迷惑にはなっている。チャリが重くなったと思えば勝手に操縦され、ネカフェではパソコンが勝手にアニメを流し、マンガが宙に浮いている、これらもまたいわゆる心霊現象だ。
やはり、天月麗奈はバカであることが分かった。当の本人に悪気がなく、なんとも思っていないところがバカであることの証明だ。
「姿を消せるのが、幽霊の特権だからね!」
そう言って天月麗奈は自慢げに自身の姿を消して見せた。いよいよ幽霊っぽくなってきた。
ふと思いつく、現世に来れるんなら親とかはどうしているんだろうか?
うーむ。これは聞いていいものか・・・。つらい思いをさせてしまうかもしれない。けど・・・
「お、親とかは、どうしているんだ?」
「あーパパとママはね、いるよ。いっしょに暮してる」
彼女は人差し指を上に向けた。
「え?」
また思わず声を出してしまった。
「いっしょに死んじゃったからね。霊界にいるよ」
そ、そういうことか・・・。んー、でも気の毒だな。さすがに同情する。
・・・と俺が珍しく感傷に浸っていると、
「あっれ~もしかして同情してくれてる?でも私は大丈夫だよ!これから楽しいことをいっぱいやるんだもん!レッツ青春!!」
やっぱちょっとうざいな。
そして俺は、一番気になっていたことを聞いた。
「で、お前どうやって高校に入るつもりなんだ?」
天月麗奈によると、幽霊は姿を見せてはいけないきまりのはず。
「それはね、霊界の偉い人に許可貰って、手続きもパパッとやって貰うつもり!!」
「つまり許可もらえば姿をさらしても大丈夫なのか?」
「そういうことっ」
「そんな簡単に出来るものなのか?」
「大丈夫!!あの人たち、未練って言葉に弱いからねっ!」
思ったよりガバガバだな。霊界。道理で幽霊の噂や心霊スポットがいたるところにあるわけだ。そういうの苦手な人にとってはいい迷惑だろう。ってか迷惑しかかけてねえな、幽霊。
「じゃあ、話はおしまいっ!近いうちに学校でね!カゲ君っ!」
「ま、待ってくれもう一つ、聞いてもいいか?」
「うん?」
「な、なんで俺なんだ?」
「たまたま乗った自転車が高校生だった、てのもあるけど、、、なによりカゲ君は私の姿を見ても恐怖心の欠片も感じなかったからね。この人ならうまくいくって思ったんだ」
「そ、そうか。まあ俺はまだお前が幽霊だってこと半信半疑だからな。宇宙人説の方が有力なまである」
「だ~か~ら~」
天月麗奈は怒った様子でこちらを見つめる。
「ちゃんと話し聞いてた!?それとさっきからお前、お前って!名前で呼んでよ!」
正直、女子の名前を呼ぶのは少し抵抗があった。
「・・・分かった。え、えっとあ、天月。これでいいか?」
「よろしい」
ならばこちらにも、言いたいことがある。
天月はカーテンを開けて、窓から出ていこうとしていた。
「あ、天月っ!」
「なに、カゲ君?」
「そのカゲ君って呼ぶのはやめてくれないか?」
「え?なんで?」
「いや、ま、色々とね」
話がぶっ飛び過ぎていて聞き流していたがなんなんだ、カゲ君って。いかにもボッチのあだ名じゃねーか。間違ってないけど。
「んー、わかった。じゃあさわ君?」
こいつはあだ名でしか人の名を呼べないのかよ・・・。でもまあ、それならカゲ君呼ばわりよりは何倍もマシだ。
「・・・もういいよ、それで」
天月はニコっと笑うと、思い出したようにこう言った。
「あっそうだ!さわ君。クラスは何組?」
「・・・1年2組」
「じゃあ、そう仕向けるね。またあとで!」
そう言うと天月は窓から飛び降りた。俺が窓の下を見た時には、彼女の姿はもうなかった。それまでの薄暗い部屋に慣れていた目に西日が差し込んでまぶしい。
「つ、疲れた」
それはもうとんでもなく疲れた。久しぶりに身内以外でまともに会話したのが、自称幽霊だなんて未だ信じられない。そもそもまともな会話だったのかあれは。夢かもしれない。
はたして天月麗奈という人物?の言っていたことは本当なのだろうか。仮に本当だとして彼女は本気なのだろうか。
週明けを待つにはまだ考える時間がたっぷりとあった。