゛相談室゛
天月は「よしっ!」と立ち上がり、自分の机を俺の隣に移動させた。
「・・・で、城ケ崎さんもそっちに座って!」
「えっ?いいの?」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ。
「いいよ!」
と城ケ崎を俺の隣(須藤の席)に座らせた。
そして、城ケ崎が座っていた席を中央に寄せ、「さっ!どうぞ座って!」と女子生徒を座らせる。
・・・なにこれ?面接でもするの?
てか俺真ん中なんですけど、嫌なんですけど。
俺は天月に耳打ちをした。
(なあ、席変わってくれないか?)
(ん?なんで?)
(真ん中には部長が座ったほうがいいだろ)
(ああ、そうだね)
と席を変わってもらった。
城ケ崎の「え?」と言う声が聞こえたような気もしたが、それに突っ込む余裕はない。
・・・さて、ど、どうすればいいのかしら。
目の前に座っている女子生徒はモジモジしてて、なかなか口を開かない。
やっぱり面接感出ちゃった? 緊張するよね~面接。
俺も面接が嫌過ぎて、大学とか会社とかに行きたくないまである。大学はともかく、会社の入社試験なんて絶対に面接あるからな。
考えただけで、鬱になりそう・・・。社会に出たくねえなぁ・・・。
・・・あ、そうだ。一応彼女に確認しよう。
「ここはオカルト研究部ですよ?」
「・・・そうですよね?でも神野先生に相談しようと思ったら、ここに相談しろと言われたので、、、」
ですよね。
ああ、来てしまったか。絶対来ないと思ったのに・・・。しかもこんなにも早く。
もう完全に゛なんでも相談室゛じゃん。つかこれもうアレじゃん。゛奉仕部゛じゃん・・・。
やはり俺のオカルト研究部は間違っている。
あ、でも待てよ、神野先生は゛オカルトチックな相談もある゛とか言ってたっけ。
もしかしたらこの相談にオカルト要素があるかもしれない。
そ、それを聞いてみるか・・・。
「相談ってのは・・・?」
「実は私、好きな人がいるんです!」
・・・オカルト要素、なし!
普通の恋愛相談だ・・・。もう完全に奉仕、、、いや゛なんでも相談室゛じゃん。
俺がそんなことを考えてるなど、知る由もない天月が、
「じゃあまずは、お名前を、、、」
と女子生徒に聞いた。
「は、はい!一年三組の佐伯愛衣と申します!」
「佐伯さんね。分かりました。それで好きな人というのは?」
・・・やっぱ面接感あるな。
佐伯さんはまたモジモジとして、黙ってしまった。
そりゃ言いづらいよな。神野先生に相談しようと思ったら、オカルト研究部を紹介されるんだからな。
謎すぎるシステムだ。
だから誰も来ないと思ったんだけどなぁ・・・。
・・・と佐伯さんは覚悟を決めたように「よ、よし・・・」と呟いて、
「そ、その好きな人っていうのは、一年二組の一条くんなんだけど、、、」
なんだけど、、、のところで佐伯さんは黙ってしまった。
言いづらいのは分かる。だから彼女が言えるまで待ってあげよう。
・・・としたら、
「だけどなに?」
と城ケ崎が興味のなさそうな顔で佐伯さんに言った。
そして佐伯さんの小さい「ひっ」と言う声を聞こえた。
城ケ崎はなんでいつもちょっと喧嘩腰なの?怖がられてますよ?
・・・これが圧迫面接というやつか。
そんな城ケ崎とは対照的に天月はすごく嬉しげというか、楽しげだった。
「大丈夫だから!それで一条くんがどうしたの?」
一年二組の一条・・・つまりは俺たちのクラスメートだ。だから担任でもある神野先生に相談したのだろう。
その一条というやつは、うちのクラスの中でも群を抜いてイケメンである。
それでいて人柄もよく、頭もよくて、運動もできる。そうなれば、もちろんモテる。まだ高校生活も一か月とちょっとなのにも関わらず、告白してくる女子生徒は多いらしい。
名前は、、、たいが、だっけ? 一条大河。これだな、しっくりくる。
そして、クラスのカーストのトップに君臨する人物であって、俺の敵だ。
・・・敵ではないな。だって勝てっこないし。単純にイケメン過ぎて憎い。
ただの嫉妬だな、うん。
「・・・え、えーと、一条くんは付き合っている人いるのか知りたくて、、、あと、そのどんなタイプが好きなのかとか、、、」
「なるほど・・・。さわ君知ってる?」
知ってるわけねえだろ。
「知らん」
「・・・城ケ崎さんは?」
「知らない」
「・・・みんな知らないみたいだから、私たちが調べてあげるよ!」
ええ・・・。調べんのかよ。
知らないなら知らないでいいんじゃね。知らんけど。
「あ、ありがとうございます!」
佐伯さんは嬉しそうだった。
しかし、調べるだけでいいのか?佐伯さんは一条のこと好きなのであれば、その気持ちを伝えたいだとかは思わないのだろうか?
・・・聞いてみるか。
「・・・仮に一条が付き合っている人がいなかったとして、その後はどうする?告白とかするのか?」
「そ、それは、、、分からないです」
なんだそれは。じゃあ別にどうでもよくねえか?
一条を調べる意味はあるのか、それは。
「はあ?なにそれ」
城ケ崎が机を指でトントンしながらそう言った。
気持ちは分かるが、もうちょっと優しく出来ないのかなぁ・・・。
「アンタ、一条と付き合いたいんじゃないの?」
「い、いやそんなことは、、、」
「じゃあ勝手に告って、フラれれば?」
いや、なんでそうなる。ちゃんと話聞いてた?しかもフラれる前提だし。
城ケ崎は他人の恋など、どうでもいいのだろう。
それは俺も同意。そもそも自分の恋がどうにもならないのに、他人の恋など知ったことか!リア充爆発しろ!!
それはそうと、リア充爆発しろとか聞かなくなったなぁ・・・。 もう死語なの?早くない?
もう俺、流行の波で溺れそう・・・。
「ま、まあ先のことはおいといて、とりあえず一条くんを調べ上げればいいんだよね!」
天月がそう言った。
調べ上げるってなんか容疑者みたいだな。
「・・・そうなりますね」
「分かった!じゃあ後日、調べ終わったらまた呼ぶね!」
「はい!よろしくお願いします!」
そう言って佐伯さんは部室を去った。
引き戸を閉める際にちゃんと「失礼します」と言ったところに、彼女の真面目さがうかがえた。
オカルト研究部、もとい゛なんでも相談室゛最初の相談は恋愛相談ということになった。
まあ、元は神野先生に相談されている案件だ。よくよく考えれば、神野先生に相談するということは、勉強のことか、恋愛のことくらいであろう。
でも今回は、恋愛って言っても調べるだけだからな、どうやら告白まではいかなそうだし。
ならそう難しいことではないだろう。聞くだけだしな、天月が。
「じゃあ頼んだぞ」
俺はやれることがなさそうなので二人にそう言った。
天月がそれに答えた。
「なにを?」
「一条に聞くだけだろ?それを頼んだ」
「あ、そうだね。分かった!」
よし。じゃあこの件は天月に全部任せて大丈夫そうだな。
「なんなの、あの女。好きなら告っちゃえばいいのに」
城ケ崎は不機嫌になっていた。
しかし、それは告ってフラれればいいのにの間違いでは?実際、言ってたし。
「まあ、でも少し優しくというか、言葉に気を付けたほが、、、佐伯さん怖がってたよ?」
天月が城ケ崎に言った。
・・・実はというと俺も怖がってた。
「そう?」
自覚なかったのかよ。
ということは、あれが普通の城ケ崎なのだろう。やっぱ怖い。城ケ崎怖い!
「ちなみに、城ケ崎さんは好きな人に告白したことあるの?」
「そ、それはないな」
「じゃあ好きな人いたことないんだ」
「・・・そうだ」
そうだろうな。なにせ城ケ崎は泣く子も黙るアニメオタクだ。
好きな人がいたとて、それは画面の中だろう。悲しいなぁ・・・。
・・・さて、やることもなくなったし今日は帰るか!
「じゃ、じゃあ俺はそろそろ帰るから」
「え?なんで?まだ時間あるよ」
「でもすることねえだろ」
相談者がまだ来る可能性はあるが、そんなのは知らんッ!
相談は一日一人まで! ・・・あとで部室の入り口にそう書いた紙でも貼っておこう。
「それもそうだけど・・・」
「そうだろ?じゃあ俺は帰ると、、、」
と言いかけた時、城ケ崎の口が開いた。
「・・・・・・アニメ談義」
あ、そういえば忘れてた。俺はそんなエサで城ケ崎を釣ったんだった。
「あ、そうだよ!することあるじゃん。アニメ談義!」
「佐和野、お前は言ったよな。あたしが来れば、ここはオカルト研究部ではなく、アニメ研究部になるって」
いや、なるとは言っていない。
「でもだな、今日は相談が来てしまったから、、、」
「そんなの関係ない!あたしはアニメ談義をしに来たんだぞ!あたしは決めたんだ、佐和野をアニメオタクにしてやるって」
なにそれ怖い。
いつの間にそんな野望が芽生えちゃったの?
やっぱ怖い。城ケ崎怖い!
そうして俺は今日の部活が終わるまでの時間、天月と城ケ崎による、アニメ談義を散々聞かされるハメになった。
・・・今日もオカルト研究部は、オカルト要素なしで終わった。
でも天月がいる時点でオカルト要素あるんじゃね? ・・・あるよな!うん!
◆◆◆◆◆◆
次の日。
俺はとりあえず、一条を観察してみることにした。
相談の件は天月が聞いてくれることになっているが、一応俺もこの機会に一条がどのような生活を送っているのか知っておいたほうがよさそうだ。
今後、一条がらみの恋愛相談がたくさん来るかも知れないからな。出来れば、一切来ないでほしいが。
まあ、備えあれば患いなしというやつだ。
一条大河はいつも二人の男子と行動を共にしている。
一人は゛ヤベーさん゛こと矢内雅也。こいつは「ヤベー」って言ってる印象しかないが、なぜか一条と仲がいい。そして、天月に気がある・・・らしい。
もう一人は加藤紘大。こいつはよく分からん。まあでもウェーイ系なの間違いない。いや、ウェーイ系どころかDQNだな ・・・多分。
そんな愉快な仲間たち、、、否、イカれた仲間たちと一条は行動を共にしている。
それでもこのグループがクラスのカーストのトップにいるのは、それほど一条の影響力が強いのだろう。
一条は女子ともよく会話している。
彼はコミュニケーション能力も相当なもんで、普通の男子がついていけない女子の話題にも軽々と話している。
神様は彼に二物どころか、三物も四物も、全て与えたと言っても過言ではない。
・・・一つくらいその才能をわけてほしい。
神様、いい子するからお願いします。一条大河に不幸がおこりますように!!
そして俺にほどほどの幸あれ!!
休み時間。
俺は一条のほうに耳を澄まし、机に突っ伏していた。
「ちょ、大河!また告られたんだって!?まじヤベー!!」
これは・・・矢内だな。
「で、どう返事したんだよ!」
んでこれが、加藤か。
「断ったよ」
「「なんで?」」
「いや、僕は彼女のこと全然知らないからね」
とこんな具合の会話が聞こえてきた。
・・・なるほど。やはり一条が告白されるのは日常茶飯事のようだな。
それに、断る理由もしっかりしてんな。もっとこう「あんなクソ女、僕には合わないね」とかイケメンらしく断ればいいのに。 ・・・すごい偏見。
昼休み。
俺は昨日と同じ部室で、優雅な時を過ごしていた。
今日は神野先生も来ることはないだろうし、最高の昼休みだ。
さて、天月のほうはどうなったであろうか。聞き出せているだろうか。
まあ、それは今日の部活で分かるからさておき、今日の部活には須藤が来る。
まだ須藤にはなにも言っていない。城ケ崎のことも、相談のことも。
今度はあいつが幽霊部員にならなければいいが・・・。
『コツコツ』と誰かが廊下を歩く音がした。
・・・は?いや、これ先生じゃねえよな。これで先生だったらボッチを認めたことになるぞ。
とりあえず、ベランダに、、、
『ガララッ』
と部室の引き戸が開いた。
また、間に合わなかった・・・。
「佐和野。なにやってんだ?」
と言われた。
俺は急いでベランダに向かおうとして、変な体勢になっていた。
後ろを振り向くと、そこには城ケ崎がいた。