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オカルト研究部の幽霊部員  作者: 椎名焔妃
オカルト研究部への道
12/19

゛どうしたら城ケ崎さんが部活に来てくれるかを考える部、兼なんでも相談室゛

次の日、俺はいつもより重たく感じる足を引きずるようにして教室に着いた。

まだホームルームが始まるには時間があり、教室内はガヤガヤしている。

城ケ崎さんは・・・まだ来てないな。

須藤は相変わらず本を読んでいる。こいつ俺を友達とか言っておきながら、教室で滅多に話そうとしないのな。きっと真性のボッチなのだろう。

天月は俺よりも早く来ていたみたいで、高坂さんたちと楽しそうに会話している。

いいですねえ、キャッキャウフフと楽しそうで。高坂さんがやけに天月に近いのは高坂さんなりのフレンドシップというやつなのだろうか。

あっ、やべ。天月と目が合ってしまった。ジロジロ見過ぎてたか。

俺はフッと目線を下げ、机に突っ伏した。

机に突っ伏すという行為は「話しかけんなよ、寝てるから」の意味を成し、教室に居ながら完全に一人になることが出来る非常に便利な技術だ。

ただその代償は大きく、乱用すると机に突っ伏さなくとも常に一人、もといボッチになってしまうことがある。

それがこの俺である。

ちなみに、「寝てるから」という意味であるが実際は寝たふりであり、差し支えなければ誰か声くらいかけてくれてもいいんだよ・・・?


・・・と誰かに肩をポンポンされた。

顔を上げると、天月だった。


「なんだよ」


「いやあ、ちょっとね」


正直、天月とは教室で話したくない。

天月はすでにこのクラスの人気者だ。それに対し俺は、このクラスの最底辺だ。

幼なじみという天月が作った設定も一時は話題になっていたが、クラスメートによる俺の評価は変わることなかった。

つまり、俺という存在はこのクラスにおいて至極どうでもいい存在なのである。

クラスメートが俺に無関心だということは俺にとって平和を意味しており、俺と天月が会話することで何かしらの関心を持たれはじめると面倒なことになり兼ねない。


「俺は教室でお前と話したくないんだが・・・」


「いいでしょ!別に」


こいつはもっと空気を読めというか、クラス内での俺の立ち位置というものをキチンと把握してもらいたい。

・・・とりあえず、声がデカい。


「分かったから、もうちょっと静かに話してくれ」


「はいはい、それで城ケ崎さんのことなんだけど、、、」


天月は、声のボリュームを下げてこう続けた。


「まず、私が友達になってみようと思うの。そうすれば部活にも来てくれるよね?」


「無理だろ」


普通に無理だと思った。

前に天月たちと城ケ崎さんが会話していたのを聞いていたが、きっぱり断れていたはずだ。


「そうかなあ。また声をかけてみようと思うんだけど」


「それはやめとけ」


「なんで?」


「しつこいと余計に嫌われるぞ」


「じゃあどうするの?」


「だからそれを部活でゆっくり考えるんだろうが」


「んー、それもそうか」


なんの為の部活だよ。まったく。

オカルトの為だよな・・・?

元はそうであったが、今の部活はオカルト研究部であるがオカルト研究部ではない。

ちょっと何言ってるか分かんねえな。


「そういうことだから、お前は城ケ崎さんに接触するなよ」


天月に変に動かれると、事態は余計に悪化する。

これは間違いない。


「しょうがないな~。じゃっ」


そう言って天月は高坂さんたちのところへ戻った。

高坂さんは「何話してたの?」と天月に聞いて、天月は「ううん、なんでもない」と答えた。

すると、高坂さんが俺をキッと鋭い視線で睨み付けてきた。

え?なに?高坂さんってもしかしてそっちなの?それはそれで・・・なんかいいっすね。

美少女二人が特別な友達になるためにキスとかしちゃうんでしょ?

・・・何trickだよそれ。

そんな妄想をしているうちにホームルームが始まろうとしていた。





◆◆◆◆◆◆





昼休み。

俺は部室へ向かった。

俺が鍵を持っといたのは、このためにあった。

昼休みを過ごすにあたって、こんなにいい場所はない。ちと遠いのだが、誰も来ることはないし、埃くさくもない。絶好の場所だ。

この静かな場所で誰にも邪魔されることなく、一人で優雅な昼休みのひと時を過ごそう。

ちなみに、須藤はおいてきた。

まあ、あいつは屋上の扉の前が好きだろうからな(適当)

仮に須藤を誘ったとして、もし二人でいるのを誰かに見られたら、ただ事ではすまない。

僻地の教室で男子二人っきりで昼休みを過ごしていたという情報は一気に学校中を駆け巡り、スド×サワだとかユウ×カゲだとか、吐き気を催すような扱いを受けてしまうことになるだろう。

・・・考えただけで気持ち悪くなってきた。

こうならないために一人で来たのに、こんなこと考えてたら優雅もクソもねえな。


昼メシを食べ終わりスマホを眺めていると、コツコツと廊下を歩く足音が聞こえた。

・・・ん!? やべえ・・・。マジか。誰か来る・・・。

とりあえずベランダに、、、


『ガララッ』


行こうとしたら、教室の引き戸が勢いよくあいた。

はあ・・・おしまいだあ・・・。


「やっぱり佐和野か」


え?と思って振り向くと神野先生だった。


「な、なんで先生が?」


「いや、昨日鍵を返してもらうの忘れててな。天月に聞いたらお前が持ってるって言うんで、まさかとは思ったが当たりだったな」


な、なんだそういうことか。

でも俺の優雅な昼休み計画もこれで終わりか。早かったな・・・。ニ十分くらいか。


「そうですか・・・」


「そうだ」


先生は「ん」と言って、手を出してきた。

鍵を出せということだろう。


「・・・あの先生この鍵、俺が待ってちゃダメですか?」


思わず口にしてしまっていた。何言ってんだ俺。そんなのダメに決まっている。


「バカかお前は」


で、ですよね。


「でも俺、ここで昼休みを過ごしたいんです」


それでも俺は諦めなかった。

先生に頭を下げる。


「・・・はあ。しょうがないな、特別にそうさせてやる」


よし。先生、案外ちょろいな。


「でもなんで一人なんだ?天月はともかく須藤はどうした?」


「一人が好きなんですよ」


須藤も多分、そうなんかじゃないかな(適当)


「そんなんだから友達出来ないんだぞ。少しは自覚を持ってみたらどうだ」


はい。おっしゃる通りです。

ただ自覚は持っております。友達は別に要らないんじゃないかという自覚を。

そもそもクラスに気が合いそうな奴がいないのが問題なんだよなぁ。


「は、はあ」


「そうだ!明日からは私もここで昼休みを過ごしてやろうか?」


いや、それは意味わかんないです。どう考えたらそうなるんだ・・・。

え?なに?もしかして俺、神野教子先生のルートに片足突っ込んじゃってるの?

そんなフラグを立てた憶えはないんだが。


「それは勘弁してください」


「そう遠慮するな。私はこの部の顧問だぞ」


遠慮とかではない。

素直に、嫌です。 ・・・とは言えない。


「でも先生は大変でしょう?昼休みだっていろいろと」


「ん?そんなことないぞ?職員室に居るのは暇だ」


ええ・・・。暇なのかよ。

でも放課後に職員室行った時は、先生同士で盛り上がっていたぞ。

だから昼休みもそうなんじゃないかと思ってたんだが・・・。

あれ?まさか、神野先生って・・・。


「もしかして先生って生徒からは人望もあって人気もありますが、先生同士からはそうでもないとかってあります?」


「・・・・・・」


神野先生は黙ってしまった。

これは、、、図星か?


「だから職員室に居ても話し相手がいないから暇とか、、、」


「そ、そんなことはない!」


先生は食い気味に突っ込んできた。

その顔はだいぶ焦っているようだった。


「あ、そうですか。すいません」


一応、謝っておく。

うんうん、どうやら図星だったようだ。


「そ、そうだ!決して職員室内に、話し相手が居ないとかじゃないぞ!」


おお、もう・・・。その誤魔化し方は゛黒゛ですね。

でも先生はそう言うんなら、そういうことにしとこう。


「分かりましたよ・・・。じゃあ昼休みは先生たちと会話でもしながら過ごしたらどうですか?わざわざこんな遠い場所まで来ることないですよ」


「・・・そ、そうだな」


先生はまた黙り込んでしまった。

早く職員室に戻ればいいのに。居づらいんだろうなあ・・・。

俺も教室で一人で過ごしていたから分かる。周りがガヤガヤしている中で、一人むなしく昼メシを食べるということはなかなかにキツい。

・・・と先生は何か思い出したように口を開いた。


「あっ!そうだ。一年三組担任の佐倉先生と、か、会話をする約束があるんだった!じゃ私はこれで」


そう言って先生は出ていってしまった。

会話する約束ってなんだよ。いくらなんでも苦し過ぎるだろ・・・。

先生は職員室ではボッチだったのか。人のこと言えないじゃないか。

そういえば、神野先生がほかの先生と話しているところを見たことがない。ほかの先生同士が廊下で会話しながら歩いているのはよく見るのに、神野先生の場合は一人か、もしくは生徒が隣にいることしか見ない。

う~ん、生徒から人気があり過ぎるあまりに、ほかの先生から嫉妬されているとか・・・?

だとしたら、ちょっと可哀そうだな神野先生。

でも俺は、この部室で一人昼休みを優雅に過ごしたいんでね。先生と二人きりとか地獄になってしまう。いくら先生が可哀そうでも、自ら地獄の釜に飛び込むつもりはない。

まあ、一部のファンにとってはその状況は天国なのかも知れないが、俺から見た神野先生はそれこそ鬼みたいな存在なのである。


・・・さてもう、こんな時間か。ここは教室からちょっと遠いため早めに出なくてはならない。

俺は、神野先生の悲しき事実が判明した昼休みを終え、教室に戻った。





◆◆◆◆◆◆





放課後。

天月はまだ教室で高坂さんたちと話しこんでいたので、俺と須藤で先に部室に行っていた。


「なあ、景史。昼休みどこ行ってたんだ?」


須藤が聞いてきた。

今後も一人で過ごしていきたいので、テキトーに濁す。


「ほかのクラスだ」


「なんだ、ほかのクラスには友達いたのか」


「まあな」


実際には居ない。中学時代の知り合いは居るが、俺がボッチになっていたこともあって、なんか気まずい。

中学時代は別にボッチじゃなかったからな。


「遅くなってごめんね~」


部室の引き戸が開き、天月が入ってきた。

天月は椅子に「よいしょ」と座ると、カバンをゴソゴソしだしす。


「これ、食べながらやろう!」


とカバンから出してきたのは、煎餅だった。

煎餅って・・・。おばちゃんかよ。


「で、どうしよっか?」


煎餅をバリボリと口にしながら、天月は聞いてきた。

お行儀悪いですよ。


「どうするって言ってもなあ・・・」


今のところ、俺に城ケ崎さんを部活に来させる策は思いついていない。


「なんの話しだ?」


須藤が不思議そうに聞いてきた。

ああ、言ってなかったっけ。あまりに須藤が不憫だったので、言うのを忘れていた。


「え~とね、須藤くん。オカルト研究部は当面の間、オカルト関係のことは禁止になった!だからその本も読んじゃダメ!」


そう言って天月は、須藤が机の上に出していた本を没収した。

ひ、ひでえ・・・。


「な、なんで」


須藤は声を震わせていた。

う~ん、やっぱ不憫だなあ・・・。


「まずは城ケ崎さんを部活に来させること!オカルトはそれから!」


「そ、そんな聞いてない・・・」


言ってないからな。


「ま、そういうことだ、須藤。城ケ崎さんが来るまでオカルト研究部は、゛どうしたら城ケ崎さんが部活に来てくれるかを考える部、兼なんでも相談室゛ということになった」


「・・・マジか」


マジだ。


「分かってもらったことだし、どうしたら城ケ崎さんが部活に来てくれるか考えよう!」


須藤は分かっているのか?絶句しているが。

天月はそんなこと気にもせず、椅子から立ち上がってそう言った。


「そ、その前に、一つ教えてくれ!」


と須藤が口を開いた。それも珍しくハキハキした声で天月に。


「なに?須藤くん?」


「なんで天月さんはオカ研を作ろうと思ったんだ?」


当然の疑問であろう。天月はまったくオカルトのことを考えていない。


「んー、オカルトが好きだから?」


ザックリしてんなあ・・・。てか天月に存在自体がオカルトそのものだからな。

まあ、そんなことを須藤が知る由もない。


「例えば、どんな?」


攻めるねえ、須藤も。

いつの間にか女子と普通に会話出来てんじゃん。やったね!須藤!


「ゆ、幽霊とか?」


いや、お前はその幽霊だろう。


「・・・幽霊か。 ・・・ちなみにそれはいると思うか?」


「うん」


うん。そうだな、いるな。幽霊は確実に。

須藤は小さく「そうか・・・」と呟くとこう続けた。


「俺はいないと思ってる」


目の前にいるのが幽霊だぞ。


「え~なんで?」


「俺は人が死んだ先には転生があると思っている。しかがって幽霊という概念は存在しない」


これに対して、幽霊である天月が反論する。


「それは違うよ。幽霊になったら転生するかどうかは選べるんだよ!だから幽霊になる人も居れば、転生する人もいるの」


へえ~。そうなんだ、知らなかった。幽霊が言うんだから本当のことだろう。


「・・・なるほど。なかなか面白いことを考えてるね」


「本当なんだけどな~」


・・・てかさっきから普通にオカルト談義してるんですけど。

オカルト禁止ってどこにいっちゃたの?城ケ崎さんのこと忘れてない?


「盛り上がってるとこ悪いが、城ケ崎さんのことはどうした?」


「あ、そうだった」


バカか、こいつ。


「須藤くんが変なこと聞くから」


その後は、須藤も天月にオカルトの関心があることを知って、とりあえずは゛どうしたら城ケ崎さんが部活に来てくれるかを考える部、兼なんでも相談室゛を承認した。




「う~ん」と頭をひねるが何も浮かばない。

城ケ崎さんがアニメオタクであることは使えないとなると、それ以外には何も浮かばない。

そもそも゛使えない゛ではなく、゛使うな゛と天月に言われただけであって、最終手段はこれしかないと思っている。


「そうだっ!」


天月が言った。


「なんだ?」


「これって城ケ崎さんを部活に来させるんじゃなくて、城ケ崎さんが部活に来たいって思うようにすればいいんだよ!」


「・・・まあ、そうだが」


それが出来ないから、困ってるんだろうが。

そもそも城ケ崎さんはオカルトなんて微塵も興味ないわけだし。


「それで考えたんだけど、城ケ崎さんに恋をしてもらうってのはどう?」


「・・・は?」


なに言ってんだこいつ。


「だから、二人のどっちかが城ケ崎さんを惚れさせれば、部活に来たくなるんじゃない?」


「アニメの見過ぎだ。そんなの無理」


「そうかなあ・・・。さわ君はともかく、須藤君は結構イケてると思うんだけどなあ」


ともかくって、なんか鼻につくな。

確かに須藤の顔は整ってるほうだけどさ。


「だってよ、須藤」


俺は須藤に聞いた。


「絶対に無理だ。城ケ崎になんて・・・」


「ダメか~」


しかし須藤の城ケ崎さんへの苦手意識は相当なもんだな。

城ケ崎さんの中学時代の恐ろしさがうかがえる。



゛部活に来させるんじゃなくて、城ケ崎さんが部活に来たいって思うようにする゛かあ・・・。

・・・と一つ、思いついた。しかし、この方法は天月に言うと拒否されそうだ。

この方法は、どうしても城ケ崎さんがアニメオタクであることを使うことになる。

かと言って俺にはこれしか思い浮かばなかったので、天月には内緒で一人で実行しよう。

上手くいくかもしれない。


そのまま大した策がでることはなく、今日の部活は終わりになった。

だが、俺には隠している秘策がある。って言ってもその策も大したことではない。

城ケ崎さんがアニメオタクであることを利用した愚策だ。

実行日は明日の放課後、城ケ崎さんが一人になった時である。

話しくらいは聞いてくれるだろう。 ・・・でも緊張する。



・・・そういえば今日は相談しに来る奴はいなかったな。廊下もずっと静かだったし。

なんならもうずっと来なくてもいいんですよ・・・?


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