普通以下からの出会い
あえて言おう、俺は普通の高校生ではない。
今時の高校生は自分を普通、普通と言っておきながら、その類い稀ぬ主人公っぷりを発揮し、青春を謳歌している。妬ましい限りである。
一方、俺はラッキースケベ満載の日常的ハーレムや、異世界に召喚されそのチート的 潜在能力で敵を圧倒、、、なんてことはない。
可愛い幼なじみもいなければ、街角でぶつかった美少女が、偶然同じクラスの転校生、、、なんてこともない。
起こるはずもない。
すべては授業中の妄想で済ませ、現実に目を向けるのが得策である。
普通ではない、というのは俺が普通以下の青春を送っていることにあった。
俺は佐和野景史。趣味はアニメ鑑賞、ゲーム。
ここ上高場高校に通う高校一年生だ。クラスは一年二組になる。
上高場高校は県立高校で偏差値は高くもなく低くもない、中途半端な自称進学校だ。
入学当初、中学で友達がそこそこいた俺は一か月もあれば自然と友達くらいできるっしょと、余裕をかましていたが、蓋を開けてみればそんなことはなかった。
完全に出遅れた。一か月どころか三日でもうグループが成立しており、溶け込む隙がなかった。
待っていれば誰かが話しかけてくるだろう、っと思っていたのが浅はかだった。
俺は唯一のスキルである【話しかけてくんじゃねーよオーラ】を無意識に纏ってしまっていて、とうとう俺に話しかけてくる人はいなかった。もちろん女子も例外ではない。
というか、ウェーイ系多すぎだろ。ここ。さすが自称進学校。
あちらこちらでよく分からん会話が聞こえてくる。うぜえ。
それでも俺と同じような境遇の人はいた。
でもいつも本読んでるし、邪魔すると悪いので声は掛けなかった。
そして、特に何もないまま半月がたった。
一年二組というクラスがだんだんまとまり出して、休み時間に活気がつきだしたころ、俺は現在進行形でボッチであった。
ちなみに部活も入ってない。
休み時間は基本的にはスマホをいじるか、机に突っ伏して過ごしている。
こんなことしている奴に誰が好き好んで話しかけてこようか。
友達を作るのはもう諦めていた。諦めが早いのもまた俺の悪いところである。
あ、もう授業が始まるな。
・・・・・・
「あの・・・佐和野くん・・・?」
ふと顔をあげると、そこには頬を赤く染めた女子が立っていた。
彼女はクラスでも一位二位を争う美女で話題の 城ケ崎さんだった。
俺はなるべく平静を保って
「な、なにかな?」
彼女の艶っぽい唇がもごもごと開いた。
「実は・・・一目ぼれでした。・・・好きです!!」
うほほおおおおお!!!
きたああああああ!!!
「俺も君のことすk
『キンコーンカンコーン』
・・・・・・とここまでが今日の授業中の妄想である。
授業中の妄想ほど平和な時間はない。
そして休み時間ほど苦痛な時間はない。
もう一か月も過ぎている。
普通以下の名に恥じない、むなしい高校生活を送っていた。
◆◆◆◆◆
高校から家までは2kmくらいある。
今日も学校が終わり、自転車をまたいで帰路に就く。
その途中ある看板が見えた。
『この先工事中 ご協力ください』
工事か。遠回りだな。
右折して、いつもとは違う道に車輪を傾けた。
ふと思い出した、この先には墓地がある。
あ、あそこ心霊スポットだったなそういえば、、、まぁいいか。
俺は幽霊とかいうのを信じていない。
もしいるならば会ってみたいと常々思う。幽霊が存在するならばそれは死後の世界の証明であり、ロマンがあって面白い。話してみたいし触ってみたい、そしてエロいことも・・・いい。
・・・アニメの見すぎなんだよな。自重しよ。
ただオカルト的でも宇宙人はいると思っている。
だって宇宙は無限なんだよ!いる決まってんじゃん!
そんな頭の悪そうなことを考えているうちに墓地は通り過ぎていた。
一瞬、寒気がしたようなしてないような・・・。
まあ気のせいだろう。
家に着き、とりあえず昨日のアニメの録画を見る。
俺の部屋にテレビはないので、家族がいないこの時間がベストである。
二本目を見終わった後、リビングのドアが静かに空き、妹が帰ってきた。
中学二年生の妹は部活で疲れているらしく、何も言わずソファにへ垂れ込んだ。
俺はいやな予感がしたので、自室に向かおうとした。
「・・・・・・兄ちゃん」
「は、はい・・・」
「お茶、とってきて」
はぁ、、、俺の妹・日花里は完全に俺をなめている。
妹のくせに兄をこき使い、偉そうにしている。
誰がこうなるまでほっといたんだよ。
俺が甘すぎるのは一理ある。というか家族は基本妹に甘い。これ豆な。
一方で関係はそんなに悪くない。
もう少し兄にやさしくなるといいんだけどね・・・。
俺は日花里にお茶を出してやり、もう夕飯を作り始めることにした。
両親は帰りが遅いため、家事全般は俺に任されている。
今日の献立は、俺特製生姜焼きだ。
我ながら自信作である。
「メシ、できたぞ」
リビングから腹を空かせた日花里がやってくる。
さて食べよう
「いただきます」
日花里はなにも言わず生姜焼きに箸をもっていこうとする。
「おい。いただきますは言わないとだめだぞ」
「はいはい、いただきますっと」
日花里は飯を食べる時は例外なく、上機嫌である。
「兄ちゃんさ、彼女とかつくんないの?」
「そ、そんなの別にいらねぇし・・・」
ちょっと強がった。
「またそんなこと言ってほんとは欲しいんでしょ、彼女。顔は普通なんだから、問題があるとしたら性格・・・なのかな?」
もはや問題だらけである。
そもそもまともな会話をしていないのだから。
俺が黙っていると、
「そういえば、兄ちゃん女の子と喋るの苦手だったよね」
「ま、まあな」
それどころか最近は男子とも会話していない。
ボッチ街道まっしぐらである。
ボッチにもボッチなりのプライドがあるもんで、こいつ含め身内には知られたくない。
そんなこんなで夕飯を終え、自室に向かった。
明日は休日なので、ゲームを朝までやることにしよう。日々のストレスを思う存分に弾丸に詰め、敵をリア充共に見立てて薙ぎ払ってやるんだ。ヒャッハー!
「ふぅ・・・」
夢中になってやっていると小腹が減ってきた。
時計を見るともう一時をまわっている。
「もうこんな時間か。コンビニでも行くか」
ハァーと伸びをし、コンビニへ行く準備をする。
家を出てママチャリにまたいでコンビニに向かった。
ちょっと行くと、見覚えのある看板が立っていた。
『この先工事中 ご協力ください』
こっちもか。めんどくせえな。
また遠回りだ。なんの工事だよまったく。
そう思いながらコンビニ向かう途中、あることに気付いた。
この先は、、、墓地があるな。
昼間はどうってことないが、夜は正直怖い。
幽霊などは信じていないが、不気味なのはたしかである。
チラッと横を見ると昼間とは一味違った異様な不気味さを醸し出す墓地が広がっていた。
その時はただ不気味な雰囲気を醸し出すだけで、特に何事もなくコンビニに着いた。
何事もないのは当たり前だろうと自分に言い聞かせ、スナック菓子を買ってコンビニを出る。
さて帰るか・・・。よしっ。不気味なだけだ。気にすることなんてない。
ママチャリにまたいで帰路に就く。
ちょっと行くと墓地が見えてきた。
自然とペダルを漕ぐスピードがあがる。
通り過ぎようとしたその時、寒気がぶわっと感じられた。
刹那、微かな甘い香りとともに、チャリの荷台がガクンと重くなった。
「なんだこれは・・・」
俺は恐る恐る荷台のほうへ振り向いた。
するとそこには女の子が座っていて、目があってしまった。
(だ、誰?)
「あれ?もしかして私のこと見えてる?」
年は同い年くらいであろうか。肩くらいまでかかった黒髪を揺らし、そのくりっとした目でこちらを覗き込んでいる。顔は相当可愛いと思った。服装も今時のかわいい感じの服を着ている。
いつの間にかチャリが勝手に動くもんだから、まじまじと見とれてしまっていた。
「ねえっ!ねえってば!見えてるの?君!」
「・・・見えてる」
というか見とれていた。
「もしかして宇宙人?」
俺は幽霊を信じない。
「いや幽霊ですよっ!幽霊っ!怖くないの?」
彼女はいかにも幽霊っぽいポーズをして問いかけてきた。
とりあえず、前を向いて考える。
いやいや幽霊なんているわけがない。
これは妄想から生まれた幻覚だな。うん。
ついにここまで来たか、俺の妄想も。
「自分が生み出した妄想が怖いわけないでしょう」
「なに言ってるんです?私は幽霊です!」
さあ?正直自分でも今の状況は何が何だか分からない。
彼女は自分を幽霊だと言い張るが、彼女には足もちゃんとあったし、白い服も着てないし、チャリが重くなったいうことは、実体もあるということになる。
であれば、
「やっぱ宇宙人か・・・」
「ち、違いますっ!」
と彼女が言い放ったところで後ろを見てみると、姿は消えていた。
なんだったんだ一体・・・。
もう家の近くまで来ていた。
家に着くと、もうゲームどころではなくなっていた。
一体彼女はなんだったのか。幽霊、、、なのか?それとも宇宙人?いや幻覚か。
今日はもう寝よう、疲れてるんだきっと。
時刻は二時をまわっていた。
・・・・・・。
寝れん・・・。
目を瞑ると彼女の姿が浮かび上がって、疑問が頭の中を駆け巡る。
だめだ。もうっなんだったんだ一体。
もう朝になっていた。
やっと意識が遠くなってくる。
・・・・・・
パッと目を開ける。どうやら眠れたらしい。
枕もとにある時計を見ると、もう十三時をまわっていた。
身体を起こそうとした時、違和感を感じた。
身体が重い、、、というかまったく動かねぇ。
「効いてます?これが金縛りですよっ」
なんだ?なんか俺の腹の上あたりから聞き覚えのある声が聞こえた。
頭を少し上げて見ると、そこに昨夜の彼女がいた。
「信じてもらえましたか?私は幽霊です!」
ふふふっと、自慢げにほほ笑む彼女はそう言った。
俺は少し考えた。カーテンは閉め切っていて薄暗くはあるが、もう十三時過ぎだ。
幽霊とはこんな白昼堂々と姿を現すものなのだろうか。
ではなにか?俺の身体に干渉してきたということは幻覚ではない。さして夢にしてははっきりし過ぎている。
ということは・・・。
「これが宇宙人のちから・・・。」
「だ~か~ら~!!」
彼女は怒った様子で話し続ける。
「君が宇宙人とか言い出すから、証明させてやるって君の寝込みを襲おうと思って待ってたんだよ!それなのに君はなかなか寝ないし、今度は私が眠くなってきちゃって気づいたらこんな時間だよっもうっ!」
いや、知らねえし、、、そもそも眠れなかったのはお前のせいだ。
「分かったからどいてくれ、重い」
「レディーにむかって重いとは、やっぱり君は失礼な奴だな!」
ぐんっとまた身体に重みがかかる。め、面倒くせぇ・・・。
ここは素直に謝まっておこう。
「ご、ごめんなさい」
「よろしい!」
彼女はニコっと笑みを見せると俺から離れ、身体が自由に動くようになった。
そして彼女は唐突に話を切り出した。
「実は君のところに来たのはもう一つ理由があるんだ。どうか私の頼みを聞いてくれないか?」
俺の返答を待つことなく、彼女は声を張り上げてこう続けた。
「私に楽しい高校生活を送らせてくれ!!」