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ボクサーパンツと異世界へ  作者: 東雲破流
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様々な要素があります、お読みいただけると嬉しさで涙をながし読者様の方角に向かって一日五回礼拝をしたい気分になります。厳しい意見でもなんでも言ってくださいお願いします…

 けたたましいアラームに驚かされ、止めようと動く寝ぼけた手はデジタル時計を掴み損ねて顔面に落とす。当たりどころが悪いのか、鈍い痛みは徐々に不快感を伴ってきた。

「痛え…」 

 目がさめる。雨戸を閉め切った部屋は暗く、おぼつかない足取りでなんとか部屋の電気をつけ、ついでに雨戸を開ける。部屋の中がさっと明るくなった。

 窓の外にはご近所の家々が立ち並び、その周りを山々が囲む。豊かな自然のおかげか、空気が綺麗だ。初夏の陽の光を受けた緑はどことなく爛々として見える。加えて、夏ののびのびとした青い空に、ふわりと浮かべられたわたぐも。そんな光景を見ていると、心が弾んだ。

 最近の都会ではあまり見られなくなった贅沢な一時に朝から心を満たされながら、俺は学校用のボクサーパンツをタンスの中から引っ張り出し、履く。

 寝るためのボクサーパンツ、ランニングのボクサーパンツから、ごはんを食べるためのボクサーパンツ、戦闘系アニメを見るためのボクサーパンツ、美少女アニメを観るためのボクサーパンツ、その他40種類ほどのボクサーパンツを取り揃えた俺のタンスは、しかしながら整然としており、タンスを開けた途端色とりどりに輝くボクサーパンツを眺めると、まるでアマゾンに入り込んだかのような感覚に陥る。ある種の清々しさをを感じるのだが、残念ながら履いている本人はクレオパトラでもアマゾンにいそうなエキゾチック美女でもない。男子高校生、特徴といえば音ゲーくらいしか能の無い顔面標準地味オタク男子高校生である。オタク友達同士では仲良く話すものの、少しでもウェイ要素の入る相手にはおどおどしてヘコヘコして引きつった笑みを浮かべてしまう、そんな人間だ。現在の日本の一定数はこのような人間であると思っている。

 大丈夫、ネットの上ではさいきょう、ともだちもたくさんだから!

 ネット、だいすき!

 ボクサーパンツの歴史はあまり長くはなく、主流になり始めたのはここ10数年かそこらのことらしい。俺はといえば、ボクサーパンツを履けばプロボクサーになれるものだと信じて疑わず、小学校から高校に至るまでずっと履き続けてきたが、そんなことにはならなかった。ボクシングについてはパンチの種類と打ち方くらいしか知らないし、なんなら実践はできない。筋トレを怠ってきたオタクは圧倒的に筋力が足りないのである。ボクサーパンツを履いてよかったことを強いて言うのであれば、白ブリーフよりは断然マシであることと、加えて奇抜な柄をチョイスすることでアイデンティティの形成に役立ったことくらいだ。

 ちなみに俺はパンツを見せない派である。

 もし見せようものならすかさずウェイ人間が飛んでくるに決まっている。俺はそんなのはごめんだ。自分と合わない人間とは関わりを持たないことが、争いをなくし、世界平和につながるのである。

 学校用ボクサーパンツを履き、もうすっかりなれた手順で制服を着終わると、一階で母親が呼ぶ声がする。今日の飯もたまごかけごはんだろうか。そろそろ新しいメニューを考えてほしいな。

 と、唐突に部屋の照明が一瞬強く光ったあと、ぶつり、と音を立てて消えてしまった。

 俺の部屋ではここ最近部屋の照明が何度か点滅していたため、きっと完全に切れてしまったのだろう。非常に面倒くさいが、買い換えなくてはいけない。自費で。せっかくのバイト代が露と消えるとまでは言わないが、それでも俺の金である。生活必需品くらいは買ってくれないものだろうか。

 頭のなかでごちゃごちゃと考えていたせいで、母親の声も聞こえなくなっていた。今日はやけに静かだ。小鳥のさえずりすら遠くに行ってしまった。

 いや、聞こえない。

 ふと異変に気づく。

 確か今日は快晴だったはずだ。しかしながら部屋に差し込んでいたはずの光は弱まり、光の色はどことなく夕日のそれに近い。それにあまりにも静かすぎるのだ。世界から人間がいなくなってしまったかのような、そんな静けさ。

 何か面白い現象が起こっているのだろうと思った俺は慌ててスマートフォンのカメラを起動してから窓の外を撮影する。現代人の鏡であるところの俺はネットに投稿するいいネタを常に求めている。ここまで面白そうな現象は今までに経験したことが無い。しかし一体一瞬にして太陽光の色が変色するなど、どんなからくりなのだろうか。もしかしたら今世紀一面白い現象を紹介することができるのかもしれない。俺も有名人になれるのだろうか。そんな期待に胸を膨らませながら窓際まで歩く。

 しかしながら、そこに写っていたのは何ら面白みもない光景であった。辺りを山々が囲み、窓の脇には牧草の山、牛とも馬ともつかない動物がめいめいに草をはむ…

 「…?」

 おかしい。確かに自然に囲まれていたとはいえここまでではなかった。しかも地面が近い。それにあの動物は一体何だ。山の形もぜんぜん違う。

 大急ぎで窓を開ける。途端、

 「クッサ!!!!!!!!」

 鼻の曲がるような激臭に思わず叫ぶ。アンモニアしかり、スカトールしかり、糞尿の限りを尽くしたかのような臭いが俺を襲い、走馬灯はいきいきと走る。俺は大急ぎで窓を閉める。

 「何だこの臭いは…」

 ふらりと。足の力が抜ける。スマホを落とした音が遠くで聞こえる。俺はバランスを崩して窓の脇に倒れ込み、遠のく意識の中で、部屋のドアが開く音を聞いた。

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