表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

英雄をまねて剣をふる

作者: 平井星人


 英雄をまねて剣をふる

 技はつたなく力まかせ

 まだ年も若すぎた

 夢だけ追いかけ生き急いだ先


 つまずいたのは女の子


 野犬におびえ泣いていた

 親からはぐれ夜明け前

 開かない門をたたき続ける


 野生の獣はてごわい相手

 兄弟子よりも鋭くまじめ

 しとめはしたが傷まみれ


 竜を討つ万分の一もない栄誉

 剣の修理に消えた稼ぎは数日分

 それでも意気を示さずにはいられない

 英雄となるべき自分自身に



 傷がはれて熱を持ち

 稽古も仕事もままならず

 それでも技を目で盗み

 鍛冶場で剣の手入れを学ぶ


 助けた娘は怒ってしまった

 いくら冷やしても治らないと


 わけしり顔の年寄りは説教ばかり言いたがる

 いいわけじみた愚痴につきあうひまなどない

 竜を討った猛者の中には同じ若さの者もいた



 多くの戦をくぐりぬけ

 多くの仲間を失った


 愛した娘は逃げてしまった

 いくら呼んでもふりむかないと


 次こそ討てると竜を追い

 何年たったか忘れたふりを続けすぎ



 多くの猛者もみじめに散った

 駆け出しの若造は忠告も無愛想に聞き流す


 ろくでもない賃金でこき使われ

 酒で自分をだます日々はあまりに長く

 終わってみればあまりに短く

 空を埋める竜の群れに立ちつくす



 国は滅び兵は逃げ散り

 もはや竜を討とうが褒賞もなく


 ひと掻きで首をもぎとる爪を避け

 ひと咬みで胴がなくなる牙から逃げ

 無謀な英雄きどりを助けるひまなどない

 あと少しその剣が深く入っていたとして

 英雄がいたことを知るは刃だけ


 仲間に捨てられ暮れゆく路地

 竜に追われて走り続ける

 悲鳴をあげる人々に埋もれ

 みもふたもなく逃げまわった先 


 つまずいたのは女の子



 もう年をとりすぎた

 体はおとろえ技など忘れ


 それでも背後へ迫る宿敵に笑いかけ


 英雄をまねて剣をふる






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ