プロローグ にやにやえぐち
通話時間:5時間24分。
満ち足りた心持ちで、スマホの画面を見つめる。カシャ。スクリーンショット撮っちゃった。浮かれてるな、私。ふふふ。
今更、部屋の中の肌寒さに気付いて、二の腕をさすった。どうやら暖房がタイマーで切れていたらしい。季節はもう12月、毎年この季節は物理的寒さと、精神的寒さに襲われる。
だけど、今年に限っては、その寒さでさえ、不快ではなかった。
空っぽで寒々しかった胸の奥に、暖かい液体がドバドバと流れる。その奔流が、胃の底からじわじわと広がって、私を充足させていくのがわかる。つま先まで、ぽかぽかしている。
「むふふーふーふーふーふっふー……♪」
ばさり、と毛布の上に倒れて、顔をうづめる。
そのまま国民的RPGのテーマソングを口づさみながら、スマホを胸の前に抱えて、ベッドの上を何度も転がる。ごろごろ、ごろごろ。
もう一度、スマホの画面を覗くと、時間はもう深夜2時だった。日付は変わって、もう月曜だ。
明日は6時半起きなのに、これはいかんぞ、と思いながらも、動悸はなかなか収まらない。むしろ、目は冴えてきていた。
【5時間24分】
それは私の為だけに用意された時間。他の誰でもない、私のみが許され、優先された証だった。
―ほんの数週間前、本当のあの人に出会ってから、私の24年間の人生はがらりと変わってしまった。いや、変えられてしまった。あの人は突然現れて、私の殻という殻を全て壊してしまったのだ。
「はせがわ……さん」
その名前を口にするだけで、何だかむず痒くて、でも嬉しくて……。もっともっと、認めて、承認して、満たして欲しい。
この感情を、なんと呼ぶのか聞かれたら、それに最も近いものは恐らく。
・・・こんな私にでも、訪れるものなんだな。
例えそれが、同性からもたらされたものであっても。