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第13話 Scrap Alley(4)

<1>


「……ったく、英二のヤツどこほっつき歩いてんだ?」


 約束の時間を過ぎても、ハチ公前に現れない英二に対し、順平はジーンズのポケットから携帯を取り出し英二に電話をかけようとする。


「まさか、逃げ出したりなんかはしてないよね……」


 そして、その横では少し不安げな表情を浮かべる拓巳がいた。


「バカヤロ―、アイツにかぎって、んな事する訳ね〜だろ! アイツはオレのマブダチだ!」


「……マブダチ」


 心の底から英二を信じ、信頼しているような順平の力の籠った声色に、拓巳はあっけにとられる。


 受験という名の競争社会の中で、まわりの人間は全てライバルであり、誰かと心を分かち合う事など愚かな事だと信じてきた拓巳にとっては、順平と英二の二人にある強い心の絆が信じ難いものでもあり、また少し羨ましくも感じた。


 そして、拓巳の心の中に、英二と順平の言葉が、自然と思い出されてゆく。


 ――俺たちの『トモダチ』だからよう!!


 初めて、英二と順平に出逢った渋谷駅のホーム。今まで、まったく交流もなかった自分を、同じ学校の生徒だという事だけで、信じてくれて助けてくれた二人の言葉。


 ――あぁ!? 見下してんじゃねぇよ! 俺たち同じ十七歳の高校生じゃねぇか!


 自分の存在価値すら分からなくなり、死を決意しようとしていた校舎の屋上で、自分に対して必死に言葉を投げ掛けてくれた二人。


 ――言ったじゃん、俺たちは『トモダチ』だって……


 誰にも言えず独り悩んでいた自分の身体の事を、心底心配してくれた二人。


 ……『トモダチ』

 ……『トモダチ』

 ……『トモダチ』


 気がつけば、拓巳は、今まで感じた事のないような暖かな光に、心が包まれてゆくような感覚を覚えてくる。


「ねぇ、順平くん……。僕も、僕もその……君たちと『マブダチ』になれるかな?」


 拓巳は、自分より背の高い順平を、照れくさそうに見上げた。


「……ったりめーだろ」 順平は、ボクシングで鍛えられた太い腕を拓巳の首に巻きつけ、静かに笑った。


<2>


 約束の時間を三十分以上は過ぎた頃だった。

 息をきらしながら、英二が二人のもとに駆けてきた。


「……っすまねぇ! 遅くなっちまって、悪りぃ。ちょっくら、俺に今夜の事で作戦があってね……」


「さ……作戦――!?」


 突然の英二の言葉に、英二が遅れてきた事なんかはおかまいなしになり、順平と拓巳はまだ肩ではぁはぁと息をきらす英二の目を鋭く見つめた。


「あぁ、作戦だ。だってよう、カフェの女の子を連れ出すってもよう、お前らどうせ強引にカフェに乗り込み、強行突破する事か考えてねぇだろ?」


「はははっ、違えねぇよ。いざとなったら、オレの拳で邪魔するヤツはぶっとばしてやるつもりだよ」


「……バカ、順平! プロテスト前のお前に、ん危険な事させれるかよ。第一、例え俺たちが、その拓巳が言う女の子を強引に連れだした所で、その子の意思じゃねぇ後でややこしい事になるに決まってんじゃね〜か」


「何言ってんだよ、英二くん! 彼女はあそこから出たいに決まってるよ!!」


「……バーカ、拓巳。カウパー出してんじゃねぇよ。それはお前の勝手な思い込みだろ。あくまでも、理想は彼女の意思で、あのカフェを出て、俺たちについて来てくれる事だろ」


 英二は無邪気に笑いながら、拓巳の鼻を弾いた。


「じゃぁ何だよ、英二。俺たちがまた金出してあのカフェに入って、あの子を説得して連れ出すって事か!?」


 順平は、英二につっかかる。


「無理に決まってんだろ。拓巳の話を聞いた限りじゃぁ、真面目そうな女の子で、見知らぬ男の言う事にほいほいついて行くような女の子じゃねぇだろ」


「…………」


「じゃぁ、どうすりゃ言いってんだよ、英二?」


 黙り込む拓巳と、これから何か楽しそうな事が起こりそうでたまらなく興奮気味の順平の目を、ゆっくりと見つめた後、英二は一呼吸おいてから、口を開いた。


「彼女に、その女の子を説得してもらう」


 英二は、静かに後ろを振り返り、先ほどから英二の後ろに立っていた、華奢な女性の右手を引き寄せ、順平と拓巳の前で紹介をした。


「綾木瞳さんだ……。彼女に、カフェに入ってもらい、あの女の子を説得して連れ出してきてもらう」


「あ……あなたは!!」


 いきなりの瞳の登場に、順平と拓巳は目を丸くして驚きを隠せなかった。


 瞳は、照れくさそうに自分から目線を反らす拓巳にそっと近づき、優しい笑顔を投げかけた。


「こないだはごめんなさいね。迷惑かけちゃって……。だからね、私にも、あなたの恋を応援させて」


「…………」


 拓巳は顔を真っ赤にして小さく頷いた。

 そして、その後ろでは、順平に向かい小さくVサインを投げかける英二と、それに応えるかのように微笑む順平がいた。

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