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風精館

 町の外は微かに草の揺れる音が響いていただけでとても静かだった。

「この辺でいいかな」

エリナはそう言って担いでいる角兎を丁寧に下ろした。

それから角兎の身体をくまなく点検して言った。


 「あー、やっぱり引き摺ってたからちょっと傷が付いちゃってますね」

自分が仕留めた獲物が傷物になってしまったことが気に入らないようでエリナは不機嫌そうにしていた。

「引き摺るのは…まずかったですかね?」

恐る恐るエリナに聞いてみると呆れたようにエリナが溜め息をついた。

「そりゃまずいですよー。角兎の素材で一番高く売れるのは毛皮ですし。」

「角より高いんですか!?」

角兎の特徴はなんといってもこの長い角だ。

それが無ければただ少し大きいだけの兎になってしまうという角兎のアイデンティティーとも言える角が毛皮より安いことにアルベルトは驚愕した。

「この角見た目より脆くてあんまり用途が無いんですよ。ほら角兎って角を振り回したりしないでしょ?この角横からの衝撃に凄く弱くてすぐ折れるんです。」

「なるほど」

角兎の行動パターンの知識はなかったがとりあえず頷いておいた。


 「気を取り直して解体始めましょうか!」

言葉通り明るい本来の彼女に戻り腰からこの角兎を仕留めた時に使っていたナイフを抜いた。

「あ、そのナイフ昼に使ってたやつですか?」

「はい!私の戦い見てました?私なかなか強くなかったですか?まあ、ほんとは群れを全滅させるつもりだったんですけど……逃げられちゃいました」

と言ってエリナは自分で頭を叩くようなあざといポーズをして見せた。

「このナイフ実は特注品で丈夫な上に切れ味も良いし軽くて使いやすいんです!」

「そんなにすごい物だったんですね!ナイフでの戦い凄くかっこよかったし、どうせ一撃で殺れるなら俺もこんな重い剣より軽いナイフにすればよかったなぁ」

それを聞いてエリナは笑いだしてしまった。

「そんな簡単にはいきませんってー!私だってナイフで仕留められるようになるのに3年かかったんですから!今の精度で狙えるようになったのも最近ですし!」

ナイフで簡単に戦えると思っていたアルベルトはガッカリした。


 「むむ……その腰のナイフ……」

突然エリナの表情が真剣になりアルベルトのナイフに視線を向けた。

「これがどうかしましたか?」

アルベルトは腰のナイフを抜いて見せたが、アルベルトのナイフはエリナの物に比べて所々錆び付いており辛うじて解体に使える程度の物だ。

「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

ナイフを渡すとエリナは一層真剣な眼差しでナイフを隅々まで見始めた。

「………」

「………」

さっきまでべらべらと喋っていたエリナが黙ってしまいアルベルトは居心地が悪くて仕方なかった。


 しばらくそんな沈黙が続いてからエリナは視線をアルベルトに向け話しだした。

「アルベルトさん……このナイフは今はこんな状態ですけど元々はとても上等な物だったようです。じっくりと見ておいて申し訳ないですが私にはそれ以上には分かりそうにありません。アルベルトさんはこのナイフをどこで?」

「ええと、俺が村を出るときに貰った物です」

真剣に話すエリナにも驚いたがそれ以上にこのナイフが価値の有るものだということを知り

旅路でチーズを切るのに使ったことを後悔した。

「そうですか……上等な物ではありますが状態が悪すぎて使うことは無理そうですね。鍛え治すことが出来ればそれが一番なんですけどフリーベルにはこのナイフを扱えそうな鍛冶屋はいませんし……と、とにかくこのナイフは大切にした方が良いですよ!」

フリーベルではナイフのことは解決出来ないと聞き面倒な物を抱えてしまったなとアルベルトは気が重かった。


 「さあ、今度こそ気を取り直して!解体しますよ!」

エリナが解説しながら楽しそうに解体をしてくれたがナイフの話のせいでアルベルトの頭にはほとんど入らなかった。

おそらくナイフの話が無くても入らなかっただろうがーーー



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