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翻弄の舞姫Ⅱ

 町を出たアルベルトには帰れと言わんばかりに強い風が吹き付けていた。

気温は普段より高く蒸し暑い。

天気は快晴であり東からの強い日差しがちょうど目に当たり嫌がらせのように感じられる。

暑さから鎧を買わなくてよかったかもしれないとアルベルトの短絡的な頭は思っていた。


 フリーベルの周囲にはアルベルトが通ってきたもの以外に山や森はなくかなり見張らしのいい平地が続いている。

隠れるような場所もなく弱い魔物をすぐに見つけることができる。

強そうな奴には近づかなければいい。

弱い者いじめには絶好の場所だとアルベルトは自信満々に思ったのだった。

勿論アルベルトはいじめる側としてしか考えていない。

大型の魔物に見つかれば気づいても彼では逃げ切れないだろう。

腰に着けた銅の剣に手を置きながら周辺を散策していると遠くで幾つかの動くものが見えた。




 「はぁ~、いくら数がいても角兎じゃたいした儲けにならないよ」

溜め息をつきつつ彼女は最低限の力だけで四方からの突進をするりと避けている。

角兎達は何度も突進を続けるが一向に当たらない。

その様子は闘牛士が牛を弄んでいるようだ。

角兎達にも疲弊する様子が見え一匹の角兎が群れの連携を無視した突進を繰り出した。

「やっと来た」

ニヤリと笑った彼女は突進を上半身を反らすことで回避し腰のナイフを角兎の脳天に突き立てた。

ナイフを刺された角兎は突進の勢いが地面との摩擦で無くなるとピクリとも動かなくなった。

「よーし、この調子で全滅させるぞー」

そう言ってナイフを回収して振り返ると角兎達はすでに散り散りに逃げてしまっていた。

「あちゃー、またやっちゃった」

獲物を逃がしてしまったが余り気にしていない様子で彼女は先程の角兎の元へと戻ろうとした。

だが、振り返った先には思いもよらないものが立っていた。


 「く……ゴブリンが出るなんて聞いてないよ」

ナイフを構えた彼女の表情にはさっきまでの強者の余裕はなかった。

「ゴブリン相手にナイフ一本じゃ流石に分が悪いな」

彼女は草原での狩りであれば何の問題もなくこなす事のできる実力を持っている。

だが相手がゴブリンともなれば話は別だ。

ゴブリンの攻撃はそれほど回避が難しいものではない。

しかしゴブリンはナイフを刺した程度では死なない。

彼女の得意とする戦法は敵を一撃で仕留めるためのものだ。

一撃で倒せなければこちらが殺られる。

考えている間にもゆっくりとゴブリンは近づいてくる。

「チッ、ここは退くしかないか」

そう言って彼女は町の方角へ走り去っていった。




「あ、ちょっと…これ…」

走り去る彼女に声をかけようとするアルベルトだったが彼女の気迫に圧されてしまった。

残された角兎の死骸はほとんど傷がなくかなり状態が良い。

高く売れそうだ。

「行っちゃったし……貰ってもいいよな…?」

戸惑いつつもアルベルトは初陣で見事な収穫を得たのだったーーー


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