無能の旅立ちⅡ
村を出たアルベルトは頼りない足で街道を歩く。
路銀と一緒に両親から押し付けられた麻袋には使い込まれた地図とカビ臭い水筒、それに数日分の食料として硬いパンと山羊のチーズとほんの少しの干し肉が入っていた。
そして、持ち物として意外なのが腰に着けたナイフだ。
これは村を出るときに無愛想な猟師がくれたものだ。
単純な頭をしたアルベルトはナイフ一本貰っただけで猟師のことを「意外といい人なのかもしれない」と思っていた。
クシル村から北東に進んだ場所にフリーベルという町がある。
アルベルトがこれから向かう町だ。
フリーベルは規模はそれほど大きくないが領主が良心的なため町人たちも朗らかな性格をしており治安もいい。
幸福度で言えば王都と並ぶかもしれない。
クシル村もこの領主の治める地域なのだがフリーベルとは森を挟んでいるためあまりその恩恵は届いていない。
クシル村からフリーベルへの道は歩いて2日程の距離だ。
特に迷うような別れ道などもなくただ街道に沿って歩けばいい。
途中の森も足場は良くないが危険な魔物などは棲んでおらず比較的安全だ。
一時間程歩いたアルベルトは少し疲れて歩くのにも飽きてきてしまっていた。
「こんなことならもう少し仕事探しを頑張ればよかった」と無駄な後悔をしながらただただ代わり映えのしない草原を歩いて行く。
王国の西部はこういった何もない草原地帯が大半を占めている。
そこには野うさぎなどの小型の草食動物が多く暮らしている。
時折魔物も姿を現すがあまり凶暴なものはいない。
街道では誰とも会うことなく不満を漏らしながらひたすらに歩くのだった。
歩きだしてから5時間程経った頃に見飽きた景色に新しい物が現れた。
森だ
何もない草原の中に突然多くの木々が集中している。
やっと変化した景色に喜びながらアルベルトは森の入口に立った。
立派な広葉樹が数え切れないほどに立ち並び森の中は薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。
人がちょうど通れるぐらいの道らしきものもあるが今日はこれ以上進むのは止めることにする。
なにより歩き疲れてしまっていた。
アルベルトにとっては進まないための都合の良い言い訳であったが確かに判断としては正しかった。
珍しくアルベルトが賢明な判断を下せた瞬間である。
近くの岩に腰掛けパンを食べる。
硬くて味もしない粗末な物だったが疲れきったアルベルトにとってはご馳走だった。
2分ほどこれからのことを考えたがさっぱり何も思い付かずにやめてしまいそのままボーッと夜まで過ごした。
空を見上げるといつもと同じように星が輝いていた。
勿論アルベルトは村の人々に思いを馳せるようなこともなく眠ってしまった。
初めての遠出であるがアルベルトには期待も不安もないーーー