嫌疑Ⅲ
硬い床に横になってはいるが吹き抜ける夜風の非情な冷たさに眠ることもままならない。
「アルベルトさん!」
声の方を向くと大きく目を見開いたエリナと気まずそうな若い兵士が立っていた。
「エリナさん!どうしてこんな所に?」
「どうしてってアルベルトさんがいつまでたっても戻って来ないからじゃないですか!」
どうやらずいぶん心配させたらしい。
エリナが兵士に向き直り兵士の表情が余計に歪む。
「早く出してあげてください!」
「いや、勝手に開けるわけには……隊長から許可を貰わないと……」
「じゃあ早く許可を貰って来てください!」
詰め寄られた兵士がどんどん困っていく。
「それが、隊長は今外部警備に出ていて戻るのは朝なんです…」
「……分かりました。隊長さんどこにいますか?直接話しに行きます。」
「え?隊長は西門付近を警備中ですけど……夜は流石に危険ですよ?」
「じゃあ貴方が護衛してくれますか?」
「そ、そんな!夜の平原なんて……わ、私は内部の警備がありますし!」
それを聞いてエリナが手招きをして小声で話してきた。
「報告はまだなんですよね?マルロ卿は寝ぼけてて聞けそうな感じじゃないんで隊長さんに報告してきます。なのでここで私に伝言を頼んでください。」
確かに伝言という形であればエリナが報告しても問題ない。
これでどうにか報告は済みそうだ。
「あの、隊長さんに会いに行くなら伝言をお願いします。今日土竜のコロニーで蝙蝠型の中位の魔物に遭って『計画』とかなんとか言ってたのと、西の森にいたゴブリン達が明日どこかを襲撃すると言ってました。」
「分かりました!伝えておきます!」
エリナは親指を立ててウィンクしてきていたがかなりの茶番劇だった。
それを聞いていた兵士は事の重大さにどうしていいか分からずあたふたしていた。
「あ、あの…本当に行くんですか?この辺は魔物の数も強さも大したことはないですけど、それでも夜は危険ですよ?」
「もちろん行きます!」
エリナの迷いのない答えに兵士も止めるのを諦めたようだ。
「うぅ、では私はこの事を他の兵士にも伝えます。くれぐれもお気を付けて……」
「それじゃ行きま…っとそうだ、兵士さん!このナイフこの人のなので荷物に戻しといてください!」
そう言って兵士にアルベルトのナイフを渡してエリナは走り去って行った。
落ち着いた所で少し気になったことを兵士に聞いてみた。
「あの、夜の平原ってどう危険なんですか?」
「単に視界が悪いのもそうなんですけど、夜に活動する魔物は凶暴なものが多いんです。この辺は比較的安全ではありますけど万一ってこともありますし……」
女の子を一人で行かせる兵士の気弱さに呆れもしたが、そんなことよりとは違った危険のある平原に向かったエリナは大丈夫だろうか?
心配ではあるが今は何もしてやれない。
ただ無事を祈るだけだ。
牢にいなくてもそんな危険な所にはついていかないだろうが―――




