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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

御玉間高校バドミントン部

思考の淵にて恋

作者: 佐々原 ひより

妹がくれたのど飴を、多めに貰ったから、あげてみた。


それだけなのに、心底嬉しそうに、笑っていた。



あーあ。




思考の淵で恋をしている。





最初は会話もろくに続かなかったあいつは、打ち解けてみればやたらと明るい少年だった。むしろ俺の方が落ち着いていると思う。会話の糸口はいつもあっちだ。


俺よりも低い身長で、俺よりも少し高めの声で、わぁわぁと騒いでいたかと思えば、ふいと急にいなくなる。探せばすぐそこで他の奴らと話していて、意識を逸らせばまたふらふらと寄ってくる。


猫か。そのツッコミは毎回心の中だけで、俺は彼の気がこちらに向いた時だけ構ってやっている。まさに野良猫に餌を与える気分。だけどそんなことは言わない。猫が嫌いなあいつはきっと気分を害す。同族嫌悪だろうというこの推測も、俺は喉の奥にしまい込む。


ああ。





思考の内側で始まった恋は、相手が相手なので非常に厄介だ。問題は性別から距離感まで、多種多様だし(一応あいつの中では俺は親友の一人だ。恋を抱えるには近すぎてどうしようもない)。同性愛なんて他人事だった自分としては、いざ抱えたこの感情が果たして恋情か行き過ぎた友情かも判別できない。ただ一つ言えるのは、あいつだけに感じるこの異様な感覚を、俺は絶対に隠し通さなければならない。それだけが確かだ。


この恋は思考の外に出ることはない。出てはいけない。


行動範囲は思考の中だけ。ああ、恋って大変だ。





部活がない日。昇降口を出ると雨が降っていた。天気予報なんてあてにならないようだ。傘のない俺の頭に、横から何かがガスッと突き刺さる。


瞬間的な苛立ちと共に振り返った目の前に、薄い青。



折り畳み式ではない普通の傘に二人で入る。薄青の布地を見上げながら、どうして持っているのかと問えば、雨の匂いがしたから持ってきたと軽い返答。猫、と浮かんだワードは口に出さず、野生的だなと呟く。


そうしていれば、だんだんと薄青が近付いてきた。ん?と思っていれば、俺の頭に当たった瞬間にふっと上に持ち上がる。


あ、そうか。


それまで離していた傘の持ち手を、奪うように掴む。自分より高い俺の身長に合わせて傘を持ち上げていた手が、所在無さげに残される。


持つ、借りてる側だし。短く言った言葉にあいつは頬を膨らませた。


ーーー僕が持つ。

ーーーお前持ててなかったろ。

ーーー持ててたもん。ちょっと下がっただけ。

ーーー下がるんなら俺が持つって。

ーーー持てる!

ーーーわざわざ俺の身長に合わせなくていい。ていうかホント、俺が借りてんだから。


結局どう頑張っても俺の頭に傘が当たりそうだと気付いたのか、不満の残る顔で彼は手を下ろす。ごめん、と聞こえた声に返す言葉を迷う。



車道側を歩いて、隣より多めに傘から飛び出して、傘を持ち上げて、そんな小さなことをさり気なくやろうと頑張っている。それは全部俺がしたいだけだから謝罪されても困るわけで、だからってお礼が欲しい訳でもなく、じゃあ何かっていうとやっぱり恋なんだろう。少女漫画チックなことを男相手に大真面目にしてる自分が笑える。


とりあえず、目下のところ欲しいのは明るい雰囲気かもしれない。今日の授業中の珍事をクラスの違う彼に話してやれば、快活な笑い声が返ってきた。


ほら。





猫が好きかと問われて、はぁ?と返した。部活の始まる前で、俺たち以外に誰もいない部室でだ。


一番最初の部活の自己紹介で、猫が嫌いとこいつが言ったのを覚えていたのはなぜなんだろう。俺は好きなんだけどなぁと心の中で返したからか。すぐ思考に沈むのを振り払って、好きだと言ってみる。猫嫌いに猫好きを暴露するのは、こいつだったら地雷かもしれないと思ったが、まあいい。


そう、と言って笑った顔は嬉しそうに見えたけれど。





土曜日の部活は一日練で、昼は二人で食べるのがもはや恒例になっていた。コンビニで買ったおにぎりを片手に、弁当をつつく彼を見る。


ふと、目が合った。猫みたいに透明な目を瞬かせて、逸らしもしないまま俺に手を伸ばす。その指先が向かったのは口近くで、跳ね上がる俺の心臓に構うことなく冷たい手が、顎に当たった。


ーーーごはんつぶ。


それだけを言って、実に自然に米粒を自分の口へ持っていく。


ありがとう、と言えたのかどうか。


一瞬、本当に一瞬、唇を重ねようとした自分にゾッとする。ちろりと見えた赤い舌から目を逸らす。落ち着け、俺。どうしたの、なんて普通の声で聞かれて動揺のままごめんなさいと言えば、なんで謝るのと困惑された。


最近増えた、恋が行動に出そうになる瞬間が。思考の内に大切に厳重に匿っていた感情が、こぼれそうになる瞬間が。


そのたびにゾッとして、押さえ込んで、バレていないかとヒヤヒヤする。行動を反芻し、違和感を探し、あやしいところが無いと判断できたら、そこでようやく息をつく。


思考の中、心の底の底に隠していたはずの恋は、いつの間にか思考の淵にまで進出していたらしい。全く頭が痛い。



思考の奥で恋に落ちて、


思考の淵で恋をしている。





眉根を寄せたまま詰め寄られて、何かと思えば、最近表情暗いよとの指摘。ちょっと考えて、親指で無理矢理口角を持ち上げてみる。そんな俺の顔をまじまじと見つめて、彼はぷっと吹き出した。


ほっとする。笑ってくれたから、それでいい。





金曜の放課後。部活に一緒に行こうと思ってあいつのクラスを訪れてみれば、猫のような姿はそこになかった。きょろきょろする俺に、社交的な女子が声をかける。顔を覚えられていたらしい。


にゃんこ君なら、4組のーーーちゃんに呼び出されてたよ。



走り出していた。


教えられたのは体育館裏とかいう定番のスポットで、今は行かないほうがいいかもと言う女子に向けた愛想笑いは、強張っていた気がする。


その子の台詞を思い出す。にゃんこ君。あいつはクラスでそんな風に呼ばれているのか。猫が嫌いと言っていた。その猫に形容されて、嫌じゃなかったのか。いや、嫌だろうと勝手に思っていたのは俺だった。全部俺の妄想だ。


俺は思考の内であいつを愛でていただけだった。




体育館に着く。体育館裏? 裏ってどのあたりだろう。そもそもどの体育館だ? うちの学校には第3体育館まである。とにかく闇雲にでも探そう。そう思った矢先、体育館の陰から女子生徒が飛び出してきた。俺にぶつかりそうになって、びっくりしたように見開いた目は、濡れている。


少女はそのまま逃げるように去った。もしかしてと思って彼女が出てきた角を曲がれば、あいつは普通にいた。俺の姿を見て驚いたようだ。どうしたの、なんていう問いには、俺は答えなかった。



ーーー告白されたんだ?

ーーーうん。もしかしてすれ違った?

ーーー見たよ。泣いてた。

ーーーその情報はいらないかなぁ。

ーーー断ったの?

ーーーうん。



力が抜ける。


なんだか、馬鹿みたいだった。



恋心を隠してることも、行動に気を遣うことも、告白とかにいちいち反応することも。


本当は俺に嫉妬する権利はない。あいつに告白もしてないんだから。だけど感情は止められない。だから俺はせめて、それを思考の中に隠してた。


だけど、それすらも。


1人で踊っているだけみたいな自分が、とても滑稽で。



気づいた時には、唇を、重ねていた。



ぱしん、と音が響く。左頬で熱さと痛みが弾けた。かち合った視線の先で、俺を見る瞳から涙が溢れる。なんで、と唇が動いたが声は出ない。答えない俺にその眼光が鋭くなる。馬鹿。そう叫んであいつは走り去った。


やってしまった。


後悔の中で、俺は呆然と立ちすくんでいた。






それを、なかったことに出来ればどんなに良かったか。だがあいつはあれから明らかに俺を避けていて、こちらから声をかけるような真似もできず、3日が経った。


これは完全に嫌われたな。そう思うと心がつらいが、これで良かった気もする。叶わない恋を諦めるにはこれぐらいが丁度良かった。



嫌われたとはいえ部活は同じなのだ。毎日顔も合わせるし業務連絡もなんだかんだでする。口をきいてくれるだけまだ救いだが、その度に合わない目が悲しい。雑談が無いのが寂しい。だがそんなことを言う権利は俺には無く、子供じみたわがままな欲求に俺自身がイラついている。



部活中に話しかけられて浮き上がりかけた気持ちは、続く無機質な内容に沈みこむ。仕方がない。それでも周りには普通に見えるように振る舞ってるだけ、俺も頑張ってる。


ふたことみこと、交わしただけで終わる。また最後まで目が合わなかった。ため息を堪えて背を向ける。


その時、くい、と袖を引っ張られた。


驚いて振り向くと、あいつはじっとこちらを見つめてきた。睨みつけるような目に、あの日を思い出す。あいつが口を開いた。


何かを言おうと、したのだろう。


直後、あいつの目からぼろっと涙が落ちた。



ぎょっとしたのは俺だけではない。なにが起こったかわからないという顔で俺を見つめ、自分の頬に手をやったあいつは、涙が流れていることを確認すると、ふっと顔を歪め、そのまままた走り去ってしまった。


何なのか本気でわからず俺は固まったままだったが、やがて心の底から強い感情が湧き上がるのを感じた。


この感情を、何と言えばいいのだろう。悲しくて辛くて、怒りのような絶望のような。とにかく酷く泣きたくなって、俺はたまらずしゃがみ込んだ。



なんであんなことをしてしまったんだろう。友人のままでよかったのだ、あんなことをしなければそうしていられたのだ。なのに、年もいかない、小さな子どものように衝動に任せて、この心地よい関係を壊してしまった。そうしてあいつを、傷つけた。


情けない。自分がやらかしたのにも関わらず、どうしていいかわからないでいる自分が、情けない。関係の決着をあいつに任せて、逃げている自分も、何もかも。


なぁ、何を言おうとしたんだよ。顔も見たくないだろうに、わざわざ引き止めて。泣くほど嫌なら完全に拒絶すればいい。そうすれば俺だってもう近づかないんだから。それともこれは、親友だった男に対して辛うじて残っていた情けなのか?


ああ、もう何もわからない。痛い。苦しい。苦しくて、もうどうしようもない。



それでも涙は、出なかった。






家に帰ると、中学生になったばかりの妹がスナック菓子を貪りながらソファで少年漫画を読んでいた。俺は最近の沈んだ気分を忘れるほど、そのだらしのない姿に呆れる。


お前もっと女子らしくしろよ、と声をかけたが、はいはいと軽くあしらわれた。


しかし、直後に妹が顔を上げる。



ーーーお兄ちゃん、もしかして泣いてた?



どくりと心臓が小さく鳴って、冷たい血液を送り出す。



ーーー…なんでだよ。

ーーーあれ、違う? 声かすれてたからさぁ。

ーーー別に泣いてはいないよ。

ーーーあっそ。じゃあ何、風邪? のど飴あげよっか?



泣いていないから図星を指された訳ではない。けれど俺は動けなかった。妹が鞄を漁って、レモンの絵が描かれたのど飴を一つ、取り出す。


渡されたそれに、見覚えがあった。いつだったかにこの飴を食べたことがあるような気がする。でも、俺は普段飴を舐めないのだ。その時も妹に貰ったのだろうか。記憶を辿ろうとした瞬間、浮かんだのは嬉しそうに破顔した少年の姿だった。


そうだ。確かあの時俺は軽い風邪を引いていて、喉の調子が悪かった俺に妹がいくつか飴をくれて。だけど何個も食べる気にならなかったから、一つ食べた以外は全部あいつにあげて、それで。それで……。



気付けば俺は、妹から袋の残りの飴を全部貰っていた。それは思いつきとも言いがたい、ただの足掻きのようなもので、だけど今の俺にはこれしか出来ることはなくて。不思議そうにしている妹の目はまだ子どもらしく純粋に澄んでいて、なぜだかあいつを思い出した。



思考の淵に引っかかった恋心を、そっと掬い上げる。


奥底に隠すためではなく、終わらせるために。





部活が終わる。片付けをさっさと済ませ、深呼吸をひとつ。


まだのろのろと片付けを続ける小さな背中に近付く。そっと前に回って、顔を上げた彼の目の前の机の上へ、手に持っていたナイロン袋をひっくり返した。


ばさばさと大量に落ちたのは、のど飴。



目が合っている。何これ、と問う声は感情とはかけ離れていて、その表情も何の色も写していない。怖気付きそうな自分がいた。でも、どうしてか心の奥底は凪いでいる。


口を開く。



ーーーごめん。……ごめんな、



俺の声を聞いてあいつが静かに瞬きをする。その猫目を見つめて、声は出さずに、唇だけで。ずっとしまっていた、一番言いたかった、言葉を。




すき。





唇の動きを正しく読んだのだろう、あいつの目が大きく見開かれる。俺はそれ以上その場にいられなくなって、さっと目を逸らすと自分の荷物を掴んで逃げるように立ち去った。



ーーー……待って!



ああ、いつぶりだろう、こんなに感情的なあいつの声を聞くのは。だけど振り向かない。振り向きたく、ない。



しかし部室棟を出たあたりで、肩にかけた荷物が、くんっと俺をその場に引きとどめた。



俺のバッグの紐を捕まえたあいつが、肩越しに声をかける。



ーーー待ってって、言った。




なぜだかその声で、全身の力が一気に抜ける。


俺はため息を小さく漏らして、そっと後ろを振り返った。



ーーーごめん。

ーーーん。



あいつとの間に流れる空気が少しだけ、元に戻っている気がする。体ごと向き直る。あの時の答えを言われるのだと思った。聞きたくない、と。


あいつが俺の目を見たまま、手元で何かをしている。ぴり、という音の後、口に小さな玉を入れた。俺があげた飴だ。



ーーーねぇ、僕、のど飴より普通の飴のほうが好き。



文脈が繋がらない。あいつの口の中で飴と歯がぶつかって、からん、と音が鳴る。



ーーー買ってきて。






本当にひどいと思う。いや一番ひどいのは俺なんだけど。



言われた言葉の理解も追いつかないまま、俺は一番近いコンビニへと走る。お菓子のコーナーにたどり着いたところでなんの飴がいいのかを聞きそびれたことに気づいた。ええいままよとばかりにのど飴以外の袋入りの飴を全種類一袋ずつ買って、また走って学校に戻る。


別に深い意味は無かった。ただ、前に飴をあげた時、あいつが笑ったから。今回も笑うだろうとまでは思ってなかったけど、俺への怒りを鎮めてもらおうと思ったわけでもないけど、ただ少し、あいつの心が穏やかになればいいな、と。



校門の前にあいつの影がある。俺と目が合うと、ガリッと舐めていたのど飴を噛んだ。




コンビニ袋を差し出すと微かに驚いた気配がした。


ーーー……こんなに、買ったの。

ーーーおかげでもう財産がない。


けっと吐き捨てると、小さく笑い声が聞こえた。



ーーーばかだなぁ……。



あ、笑った。思わず見つめ返そうとしたが、その前にあいつがふっと俯いて、鞄から何かを取り出した。のど飴が詰まったナイロン袋。俺があげた飴だ。俺が置いていった袋に入れ直したらしい。


その中から一つを取り出して、ぽいっと口の中に放り込む。



ーーー別に飴が欲しかった訳じゃなくて……違う、違うな。飴を買って欲しかったのかな、君から。



薄く笑ったまま独りごちて、あいつはまた俺に目を合わせる。



ーーーね、僕のこと、猫みたいって思ってたでしょう?



一瞬、頷くべきか迷う。その逡巡に気付いたのか、あいつがニコリと笑みを作った。



ーーー僕は別にね、猫みたいって言われるの、嫌じゃないよ。自分でもそう思うし。猫、嫌いだけどね。



ああ、やっぱり俺の思い込みか。ちょっと恥ずかしいような気分になったが、でも、と続く言葉にはっとする。


ーーー君は言わなかったから。最初はそれが、気になって……。



だんだんとあいつの表情が、緊張を帯びる。唇だけに笑みを貼り付けたまま。



ーーー僕が猫、嫌いだから、言わないでくれてるって気づいて。馬鹿だなって、思ったけど、それが……それが、嬉しくて。



ついにあいつは俯いた。俺の心臓が激しく鳴る。別れを告げられると、思った。しかし心のどこかが小さく、期待に疼く。



ーーーねぇ、猫、好き?



いつか聞いた質問だ。相変わらず脈絡のない話し方。俺は答えられない。


あいつが、顔を上げる。



口元に笑み。裏腹にその目は、泣きそうなほどに必死だった。



ーーー…そうだったら、僕は嬉しい。



瞬間、その場から逃げようとした細い肩を掴む。俺を見上げたその目を見据えて、口を開く。



ーーー……それさ、都合のいい解釈していいわけ?




あいつは答えない。大きく見開いた目は、俺から逸らせなくなったかのように動かない。今が夜であることを惜しむ。薄暗さの中じゃ、あいつの顔色は分からない。



膠着状態に焦れて手を離してやる。あいつは逃げなかった。それどころか、何かを思いついたように手に下げた袋を漁る。俺がさっき買った飴だ。


種類も見ずに袋を開けて一粒取り出した。から、と音が鳴って気付く。さっきののど飴まだ舐めてなかったか?



聞く前に、目が合った。


両肩を掴まれる。屈まされたというよりは、あいつが背伸びをする支えにされた感じだった。



唇が、触れ合う。一度離れて、今度はもっと強く押し付けられた。




隙間から、甘い味。




無事に飴が俺の口に移り、唇が離れる。まだ触れ合いそうな距離で、ふわりとあいつが微笑む。




「 好き 」




声がはっきりと輪郭を伴って、鼓膜を震わせた。










最近表情が柔らかくなったとはあいつの談。以前と距離は変わらず、でも確かに何かが変わっている。例えば帰り道に手を繋いだりだとか。


ひとつひとつ話をした。お互いのことをどう思っていたのか。どこを好きになったのか。あの時何を考えていたの。じゃあ、あの時は。



「思考の淵で恋をしていたんだ」衝動でキスをしてしまった時のことを聞かれて、そう答えたら爆笑された。表現が詩的だとか、思春期男子のヤバイ思考回路とか、さんざん笑いながら罵倒されて、でも最後にキスをされる。


「怖かった。僕をからかってキスしたんだと思った。冗談でキスできるくらい、君は僕を仲のいい親友・・だと思ってるんだって、思った」



そう言ってから笑って、ポケットからのど飴をひとつ取り出した。最近はこんな風にあいつが飴を舐める姿をよく見かけるようになった。俺があげた飴を少しずつ消費しているらしい。


飴を口に入れた直後、あ、と何かに気付いたようにして見つめられる。



「…言うの忘れてた。あのね、僕さ」

「うん」

「ほんとはのど飴大っ嫌いなの。スースーするから」

「……うん?」



理解が遅れて呆然とする俺。それを気にせず、からころと音を立てて飴を舐めるあいつ。


「だから今度買う時はのど飴以外にしてね」

「待った。サラッと俺がまた飴買うことになってんのは置いとくにしても、は? 嫌いなの?」

「うん」


軽く言うあいつに、なんだか大前提を覆された気分になる。



「じゃあお前……前にのど飴あげた時、なんで喜んだんだよ」

「いつ? こないだ?」

「ずっと前。俺が風邪引いてた時」

「ああ……」



思い出したようだ。少し考えた後、こちらに目を合わせずに呟く。


「…き、君が……くれたから……」

「え?」

「…嫌いなものでもさ、好きな人に貰ったら、…嬉しいでしょ……」



言葉に詰まって見つめる。その先で、顔を真っ赤にしたあいつが、誤魔化すようににぱっと笑った。


「だからこれはちゃんと、全部食べるから」

「……」

「あれ? 顔赤いよ?」

「…誰の……」



誰のせいだ、気付け。



純粋に不思議そうにしているあいつに、よっぽど言ってやろうかと思ったがやめた。代わりにキスをひとつ。また顔を赤くしたあいつに、ずっとずっと心にしまっていた言葉をかけた。











「好き」







いやぁ、主人公君気持ち悪いですね。いきなりキスしてましたしね。あれイケメンで両想いだったから許されただけであって、普通に気持ち悪いですからね。真似しないでね。


あとにゃんこ君は飴を食べ過ぎです。ここから裏設定ですが、主人公君の前で飴を噛んでましたよね、あれ実は3個目です。にゃんこ君は飴を噛み砕く癖があって、主人公君がコンビニに走ってる間、2個くらいちょっと舐めては噛んでる設定でした。しかも直後に一個食べてますし。主人公君にあげた後は、描かれてませんが買ってもらった飴をもう一個舐めてます。あの夜だけで4個半ほど飴を摂取してるわけで。彼が糖尿病にならないことを祈るばかりです。


作者個人的には主人公君の妹ちゃんが一番いい子だと思います。風邪引いた兄を心配してのど飴あげる優しい子。こんな子ばっかりなら日本も良くなりますね。行儀悪く少年漫画読んでるけど。



……あれ? まともな奴いなくね?

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