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出会い

身体中が痛い


意識がはっきりしてきてまず思ったのは、そんな事だった。

ゆっくりと瞼を開き、周囲の様子を探る。

木造の山小屋のような作りをした部屋だ。


「おい、目を覚ましたぞ」

「分かった、ガルム様に報告してくる」


なんということでしょう

目の前にはなんと、背中に黒い翼の生えた人間らしい生き物がいるではありませんか。

頭髪は黒、背中の翼も黒、服装も黒。肌以外真っ黒です。



彼らは軽くやり取りをすると、仲間らしき一人が外へと飛び出して行きました。

バッサバッサと音を立てて、ドアらしき場所から飛び出したのです。

マジ理解不能です。


そんな光景を目の当たりにして少々唖然としていると、残ったもう一人の方が、手にしていた俺の背丈ほどある木の棒で、俺の胸を軽く突いた。

簡単に言えば、動くな、という事だろう。


「お前、何処の者だ」

神経質そうな顔をした男が、額にシワを寄せて訊ねてきた。


そう言われて、俺は改めて自分の姿を見た。


年期を感じる太い木の柱に、胴の部分からロープでぐるぐる巻きにされていた。

よっぽどの馬鹿でもない限り、歓迎されているとは思わない状況だ。


だか、そんな事より、俺はあるものに目が行った。



右腕がある……

足首も、怪我が全部治ってる……?


右腕があった。欠損した足首もあった。

着ていたシャツは右の袖口から破れていたが、そこにあった右腕は以前と変わりないままだった。


いや、確かに喰われた筈だろう。

ならどうして?


「おい、聞いているのか!」


中々答えない俺にイライラしたのだろう、男は棒で床を叩いた。

ダン! っと音がして、木の床が僅かに凹んだ。


おっと、結構キレていらっしゃる。

なぁに、話せばこんな状況だってすぐに変わるさ、人類皆友達。

今に肩を組んで一緒に酒を飲む仲になれるZE☆


「初めまして、実は僕、訳の分からな」

「貴様ぁ、やはり人族の者かぁ‼」


降り下ろされた木材の一撃を、俺は反射的に首を振って避けた。

バキッと木材の折れる音がして、顔が青ざめる。


「魔力を宿しているから、混血種(ハーフ)かと思ったが……。やはり人間、生かしておけん!」

「ちょっ、ちょっと待ってぇ?! いきなり何すんのアンタ!」

「えぇぃ、訳の分からないことを、大人しく打たれろ!」


横降りに振られた木材が、脇腹に鈍い音を立てて打ち込まれる、その痛みに悶絶していると、男は笛らしきものを取り出して吹いた。


ピィィィー……。と、笛の音が響いて数秒後、先ほどの窓から今度は白い装束を着た二人組の天狗がやって来た。


何? 何なのこの状況。 俺は一体どうなるの?

それにしても、ハーフとか、マリョクって何?

つーか、最近痛い目にあいすぎだろ俺。


「お呼びですか」

「ハクリ。人間が居たのだ、牢に放り込んでおけ」

「んー、お言葉ですが。ソイツ例の混血種(ハーフ)じゃなかったですかぁ?」

「シロナよ。コイツは人間だ。混血種(ハーフ)ならば我等との会話が出来るはず、しかしコイツはそれが出来ん」


男がそう言ったのを聞いて、ハクリ、シロナと呼ばれた二人組が近付いて来た。

前髪が目元まである、根暗そうな野郎がハクリ、

腰まである髪を一本に束ねた、少々アホっぽい女がシロナだろう。


「へぇー、珍しい人間何だねぇ。君。」


シロナはそう言いながら、俺の鼻をつまんで縦横などにグイグイ引っ張って遊んでいる。力が異様に強くて結構痛い。


「シロナ。汚い物に触るのはよせ。」


汚物でも見るような目で俺のことを見るハクリが、シロナの肩を掴んで言った。

因みに言わずとも汚い物というのは俺のことだろう。

……テメェ覚えとけよ。


「それでは、コイツを牢に連れて行きます」

「うむ、頼んだぞ」

「お疲れ様でーす」


いくらかの会話が終わると、三人の視線がこちらに向いた。

ハクリが俺に向かって右手を翳している。

射殺す様なハクリの眼が、俺を捉えていた。


「自由を奪え《剥奪の鎖》」


ハクリがそう言った瞬間、ジャラジャラと音を立てて、俺の身体中に黒い鎖が巻き付いた。


っ?!

身体が、動かない……?


「ふむ、相も変わらず良い術だな。その歳で捕縛隊を任されているのも納得だ」

「ありがとうございます。それでは、牢へと連れて行きます」

「お疲れ様でーす」


待て待て待て待て。

俺の話を聞いてよ!

牢ってもしかしなくても牢屋だよねぇ?!

落ち着いてお話をしようよ‼


声が出ない為、心の中でそう叫ぶが、当然ながら相手には届かない。

ハクリとシロナの二人は、他の天狗と同じように出入口に近づくと、翼を広げバサバサと飛んだ。


その瞬間、景色が吹っ飛んだ。



全身を叩く突風


気持ちの悪い浮遊感


俺は、空を飛んでいた。


「ーーーーーっ?!」


ヤバいって! 絶対ヤバいって‼

次こそ死んだ、絶対死んだよ。俺ぇ!


「おい人間、騒ぐな、五月蝿い」

「なーんで人間って、空飛ぶの怖がるんだろーね~♪」


上から聞こえたその声に俺が見上げると、不機嫌そうな顔をしたハクリと、気持ち良さそうに翼を広げて飛んでいるシロナが居た。


見ると、ハクリの右手から伸びている鎖に、俺はぶら下がっていた。

この鎖に繋がっている限りは、俺は安全らしい。


そう理解すると、俺の中でもいくらかの余裕が出てきた。

身体中を鎖に縛られて吊るされているという、変態極まりない状況で、俺は周囲を見渡す。


まず眼に入ったのは、大樹だった。

木の上の方が、完全に雲の上まで伸びている、バカでかい大樹。

幹の部分は、何百人という人で囲んでも囲え切れないほど、太い。


何アレ、初めて見たんだけど。

アレかな、世界樹とか呼ばれてるのかな?

樹齢何年だよ、半端ねぇ。


それにしても、ここは何処だろうか。

自分の中の記憶を辿っても、全く心当たりがない。


いや、そもそも

俺は何も覚えてない……?


名前は?住所は?年齢は?

一つ一つ自問自答をしていくが、どれも答えすら思い付かない。

そこだけ削られたように、記憶が存在していない。


思わず頭をかきむしりたくなるような、そんなもどかしい感覚に襲われていると、上から声が聞こえた。


「着いたぞ、人間」


その声に意識を戻すと、ハクリとシロナは大樹に空いているウロのような巨大な穴に飛び込んだ。薄暗い中を数秒移動すると、俺は床らしき所に降り落とされた。


……抵抗出来ないんだから、もう少し丁寧に扱ってくんないかな。


そんな自分の扱いに、思わず涙を流しそうになっていると、話し声が聞こえた。


「それでは、後は宜しくお願いします」

「えぇ、分かりました。……それにしても、混血種(ハーフ)でしたっけ?何だってあんな所に」

「ゲンガイさんの話ですと、ソイツはただの人間だそうですよ。理由はまだ分かりませんが、恐らく迷い込んだのでしょう。」


薄暗いせいか、相手の姿が良く見えないが、声からするに片方はハクリだろう。もう一人は分からないが、声の感じからすると女のようだ。


「そういえば、あの場所にもう一つの反応が有りましたよね。ソイツはどうなりましたか?」

「それが……、偵察隊の方の話だと、居なくなったようです。」

「居なくなった……?逃げられた、ということですか?」

「ごめんなさい、よくわかりません。そうとしか言ってなかったので」

「そうですか。分かりました、僕の方からも聞いてみます」


真っ暗な空間で、二人のそんな会話が聴こえる。

どうやら、ここがさっき言っていた牢屋らしい。窓1つ無いこの空間で当分生活するのだろう。

牢屋って言うから、鉄格子付きのコンクリートの個室を想像していたが、予想外だ。


「それで……、その人間の方は、どのような方なのですか?」

「魔力を宿した、混血種(ハーフ)のような男です」

「なるほど……。あの、少しお話してみても」

「ダメです」

「あぅ……」


キッパリとしたハクリの言葉に、その女の子がガックリとした声を出した。

別に俺はお話しても良いけどなぁ、お前なんかよりは何倍もマシな気がする。


「牢に居るとはいえ、何をするか分かりません。所詮は人間、汚い手を使われるのがオチです。いつも通り、此方からは何の干渉もしない、ということでお願いします。……おい」


ハクリの言葉の後、鎖が音を立てて引っ張られた。見えない壁のような物に身体が叩きつけられた後に、目と鼻の先にハクリが近づいて言った。


「俺のことをなんと言おうが勝手だが、この人になんかしてみろ。ぶち殺すぞ」


どうやらバレてたらしい


「それじゃ失礼します」

「バイバーイ♪」


そう言い残すと、ハクリとどこに居たか分からないシロナは去って行った。


真っ暗な空間に、静寂な空間がやって来た。


「……あの」

「はい?」


少し経った時、おずおずと、探るような声でさっきの女の子が話しかけてきた。

ハクリから話すなと言われていたが、大丈夫なのだろうか?

というより、俺の言葉が分かるのか?


「私とお話しませんか?」

「……俺、人間語しか話せないけど?」

「大丈夫です‼私、人間語分かりますから‼」


俺が返事をすると、途端に元気になって話しかけてきた。

それはそうだ、こんな所に居ても暇なだけだろうし。

っと、そんなわけで。



女の子のお友達が出来ました

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