出会い
我が家の家族構成。
父親。俺。そして猫。名前はナイト。
母親は四年前に他界。
男2人と猫とで暮らすには広すぎる一戸建て。
俺が生まれたあと、もっと子どもが欲しいと望んだ両親は社宅を出てマイホームを購入。
しかし生来体の弱い母さんは、俺ひとりの出産で精一杯だった。俺が生まれてから14年の間に2つの命を授かったが、どちらもこの目で見ることは叶わなかった。
それでも母さんは幸せそうに見えた。少なくとも、俺の目には。
父さんと母さんは中学2年で同じクラスになって出会ったらしく、多少お酒の入った日にはよく思い出話に花を咲かせていた。
父さんは勉強面では中の下、時折、いや、しばしば英語に悩まされたのだと言う。
でも、部活だけは誰よりも熱心だった、と母さんは言った。
当時陸上部に所属していた父は、その誠実さと明るい性格で先輩からも後輩からも信頼されるスプリンターだった。
対照的に母さんは、文句無しの成績を維持し、合唱部に所属。透き通るような歌声を聴きながら眠りについた幼少期を思い出す。母さんは昔から歌が上手かったらしかった。
「母さんはな、ピアノも上手だったんだぞ。」
父さんが少し照れながら言う。
陸上部の練習を終えた父さんは、どこからか聞こえてくるピアノの音に気がついた。夕日で赤く染まるグラウンドによく似合う旋律。
どうやら音は体育館から聞こえるらしい。
父さんは開いていた扉からがらんとした体育館に足を踏み入れた。ほぼ無意識。まるでその音に引き寄せられるように舞台へ。ゆっくりと歩み寄る。
舞台の向かって左側、黒く輝くグランドピアノがあるの向こう側。自分だけの世界。思わず立ち尽くすメロディーを奏でる少女が母さんだった。
音が終わる。最後の1音まで慈しむような丁寧さ。
体育館に反響していた音がすっと消える。
そこでやっと父さんの存在に気づいた母さんは、悲鳴にも聞こえる声をあげた。
「ごめん!邪魔するつもりはなかったんだ」
母さんもそれがクラスメイトだとわかると安堵の表情を見せた。
それ以来、急速に仲良くなったふたりは、中3になると同時に付き合い始めた。
お互いの部活、勉強を励まし合いながら、充実した時間を過ごした。