ヒコナ帝国4
メンヒルを出て俺達は王都へ向かった。快適空間、空間拡張、自動修復、獣避けがついているこの馬車のおかげで道中は平穏なものだ。ただし、獣避けがあっても魔物は襲ってくるから完全に気を抜く訳にもいかない。
「敵襲! ホラ吹きアスパラ率いる三色ピーマンです!」
ホラ吹きアスパラは一緒に行動している相手の能力を引き上げるという厄介な性質がある。今回引き連れている三色ピーマンは通常の個体より攻撃力・防御力ともに上だろう。
「【火球】」
だがやっぱり、気が抜けるな……なぜなら襲ってくる魔物といっても大したことはないからだ。例え能力が高くなっていても弱点が明らかだから雑魚も同然だ。今もラヴィさんの魔法ひとつで終了したしな。
「と言うか、三色ピーマン? パプリカじゃないのか?」
「あのフォルムはピーマンでしたよ?」
御者をヨシズと交代して戻ってきたロウと二人で首をかしげる。色のついたピーマンなど聞いたことがない。そこに、ゼノンが種明かしをしてくれた。
「おそらく通常の戦士ピーマンに魔職ピーマンの組合わせだね」
流石魔獣通。
「そんなのもいるのか。クナッススでは見たことがないな」
「まぁ、クナッススは比較的魔獣が多いかな。魔物化した野菜はあまり見ないね。でも、帝国は何故かそれが多いんだよね」
「そうなのか? メンヒルでは見なかったような……」
「あそこは帝国と言っても端の方だし。それに、シル兄ちゃんはさっさと森の奥に向かったんでしょ? 野菜系魔物で強いのはあまりいないし……生存競争に負けたんじゃないかな」
「そうか……そういえば、格闘ダイコンもいるのか?」
思わず師匠と呼びたくなるアイツもいるのだろうか。
「さぁ? でも、この国は魔物化した野菜が多いのは確かだから会えるかもね」
依頼放って探しに行ってしまいそうで怖いな。アレについては俺は自分の自制心を信用できない。それだけ俺にとって丁度良い敵なのだ。
「ところで、アルさんはよく寝てますね。というか、僕達結構騒いでいたと思うのですが、よく寝れますよね」
「何を思ったのか昨日一晩不寝番を引き受けると言い出してそのまま一徹してるからな。俺も何回か様子は見たが……」
「本当に一晩こなしたのですか。それならここまで寝たままというのも納得できますね」
ぐるる《今日は虎人族の里に着く》
アルは完全に寝ていたわけではなかったようだ。突然片目を開けて話しだした。
「……今日、虎人族の里に?」
「じゃあ、アルが見張りをしてくれたのは今日虎人族の里に着くからってことかな?」
ぐるるる《うむ。戦闘特化系種族は伊達ではない。実力者と見れば対戦を求められ続けることになるはずだ。それに備えてゆっくり休めるように申し出たのだ》
「それは流石に物騒すぎやしないか?」
「シル兄ちゃん、通訳して」
「ああ、実力者と見なされると対戦を求められ続けることになるそうだ。アルが見張りを引き受けたのはそれに備えてのことらしい。俺達がゆっくり休めるようにと考えてのことだったようだな」
「「「うわぁ……」」」
何に対する『うわぁ』だろうな。やはり対戦を求められ続けるというところか。だが、実力者と見なされるほどかどうかは分からないだろう。俺は変化出来るようになってから一度も虎人族に出会ったことがないから分からないが。
「アル。そろそろ先導を頼めるか?」
ヨシズがちょっと顔を出した。ということは出発前にアルが言っていた分岐点が近付いたのだろう。
ぐるる《了解した》
間もなく分かれ道に出た。片方は広く、馬車2台は確実に通れる。こちらは本道……帝都へ続く道だろう。もう一方は馬車1台通るかどうか微妙な細い道だ。そしてあまりちゃんと整備されていない。
そしてしばらく馬車を進める。大分坂になってきたから全員降りて魔法を使って動かすことになった。【軽量化】して風魔法で補助すれば楽勝だ。
「おい、アル。本当にこの道の先にあるのか?」
グルルル《うむ。大分高台だったが……日が落ちる前には着くであろうよ》
日が落ちる前ってなぁ……今、昼なんだが? どれだけ歩けばいいのやら。
「そういえば、馬車はアイテムボックスに入らないのかね?」
ヨシズがふと疑問をこぼす。馬車が入るだけの余裕はある。だが、問題なのは……
「どうやってアイテムボックスの口を大きくする? 今のままでは入らないぞ」
問題なのは馬車が入るほど入り口を広げられないことだ。
「そこなんだよなぁ……」
「伝説ではっ……アイテムボックスから……家を出したとかっ……ありましたが……」
「……そうだな。ロウ。流石にキツいみたいだな。背負おうか?」
「いえ……手間をかけさせるわけには……」
もう少し遠慮をなくしてもいいのだが、ロウは生来の生真面目さが災いしてか要らぬ意地を張っている気がするな。ここは問答無用で休ませるか……いや、俺達の中で疲れを全く見せないやつがいたな。
「アル。頼んだ」
グルル《構わぬよ》
「えっ!? え……と、よろしくお願いします?」
さっとつかんでアルの背中に投げ飛ばす。見事に受け止めたな、アル。今は巨大狼バージョンだからロウ1人軽いものだろう。
その状態でしばらく進んでようやく集落が見えてきた。あれがおそらく虎人族の里だろう。……里であってほしい。
グルル《着いたようだな》
「「「ハァー……」」」
本当に疲れた。歩いているうちにだんだん坂が急になって、道も荒くなっていたのだ。それに加えて常時魔力を消費していて……精神的にも疲労困憊だ。少し余裕ができて周りを見ると赤く色づいていた。夕暮れだ。本当に日が暮れる前に着いたな。
「おお? 珍しいな。おぉーい! 客人が来たぞぉー!」
ひとまず門の外で休憩していると見回りに来ていたのか、一人の男が俺達に気付き来訪を大きな声で知らせていた。それに反応してかわらわらと子供が顔を出した。頭だけにょきにょきっと縦に出てきてぺしゃんとつぶれつつ全身が転がり出てくる。かわいらしい。
疲れきって地面に座り込んでいる俺のところへ何人かが突撃してくる。
「あ、こら……!」
「うおっ!? こら、尻尾をつかむんじゃない!」
「おじちゃん、虎人族? 」
この餓鬼……俺はそんなに老けちゃいないぞ!
「俺は虎人族だよ」
「「「えー。うそだぁ。黄色くないじゃん」」」
「あのな、お兄さんみたいな色の虎人族だっているんだぞ(きっとどこかにいるよな?)。そもそも色だけで判断しちゃだめだぞ」
尻尾のヤバイところを握られてキレつつあったが何とか押し止めて3人の頭に手を置く。
「「ええ~。あ、そうだこういうときこそ」」
まだ納得しないやつが2人。この2人は何かを思い出したようで、互いに顔を合わせてひとつ頷く。
「虎人族たるもの!」
一人が片足を軸にくるっと一回りしてビシッと俺を指差す。
「野菜は狩れなくてはならない!」
もう一人も同じく。この時点で俺は先が読めた気がした。言葉にはしなかったがな。
「「夜の野菜狩りで勝負だ!」」
やはりな。そう来ると思った。だが、子供と大人の対戦になるのか? 大丈夫だろうか。どんな勝負でも負けるつもりはないが(大人げない)、泣かれるのは困る。
「まぁ、売られた喧嘩は買う主義だ。その勝負、引き受けてやろう」
そのとき後ろでは……
「ウチの小虎どもがスマンな」
「いや、うちのリーダーも大人げなくやりそうなんだ。事前に謝っておく」
「そうか。だが、ウチの小虎どもも狩りの腕はいい方なんだ。そちらのリーダーはやり手か?」
「まぁ、Bランクだからなぁ。やり手だろうなぁ」
「そうか。それはちとこちらがまずいかね。土地勘があるからこっちともいい勝負できると踏んだんだが……」
「シルヴァーも適応力が高いからな」
「ルールはこちらが決めさせてもらうぞ」
「もちろん、構わない」
当事者を一切無視して保護者の会話をしていた。
「まるで、シル兄さんが子供みたいですね」
「ヨシズさんが保護者なのね。そんなんだから老けて見えるのではないかしら」
ぐぐぐ《傍観していた方が面白そうだ》
なお、ロウも虎人族らしくない色合いだったが、気付かれなかったため大人しくしていた。




