ヒコナ帝国2
今回も大量。俺が討伐から帰るとギルドの受付の人が顔を引きつらせているのが普通になってしまったな。少し申し訳なく思う。
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森の奥から戻ってきたのだが、既に黄昏時になっていた。当然、魔獣と遭遇する回数が増え、しかもどれも群れていて大変だった。一時は周囲360度を魔獣の壁に囲われて死ぬかと思った。どうやって倒したんのだろうか? 俺の記憶にはない。気付いたら周りの魔獣が皆死んでいて、さらにアイテムボックスへの回収も終えていたのだ。戦闘が楽しかったことだけは覚えているが……バーサーク病(仮)でも発症したのだろうか? 否定できないのが悲しいな。
そんなこともあったが、何とか無事に町に辿り着いた。もう日が落ちてとっくに夜になっている。門番も不審げな顔だった。さもありなん。
「ずいぶん遅くまで狩りをしていたな?」
「森の奥まで行っていたからな」
「自殺志願者か? 生きて帰ってきているが」
「そんなわけない。浅いところではブレードラビットが出てこなかったんだよ」
「そうか。無謀な行動もほどほどにしろよ」
俺は無謀だとは思っていない。こうやって生きて帰ってこれるのだから無謀とは言わない。
「善処しよう」
「それは実行しない奴の言葉だな」
「「ハハハハハ」」
俺自身も正直に言うと死んでも直らないタイプの癖なのではないかと思う。なまじっか対応できてしまうから手に負えない……のだろうな。
門を離れ、夜道を歩きながら今日狩ってきた内訳を思い出す。
確か、猿がかなりいたな。50匹数えたあたりから記憶にない。トレントは……30くらいだろう。ほとんどを置いてきたから数はいない。フォレストタイガーは2体だな。どちらが強いのかも分からない愚か者だ。慈悲はない。あれらと一緒に怪鳥が1体襲ってきた気がする。返り討ちにできたが、意外と面倒だった。翼を使えなくしたあとは楽勝だったがな。ピギーやカウも群れで発見した……というか、囲まれたな。全て倒して回収してあるみたいだが。目的がブレードラビットだというのに、目的外の魔獣も大量だ。
そうしているうちにギルドに着く。この時間は流石に空いている。
「買い取りをお願いできるか?」
「はい。遅くまでご苦労様です。何か依頼を受けていましたか?」
「ブレードラビット討伐を受けている」
取っておいた討伐証明部位を渡す。
「……はい、確認いたします。では、ギルドカードをお預かりします」
受付の人が奥へ向かう。依頼通りにあるか確認するのだ。数を誤魔化そうとしてバカやる奴が絶えないので仕方なしにギルドが取った対応である。帝国も変わらないのだな……。
何となく悲しくなりながらも仕方ないよなと思う。俺は討伐依頼は獲物が見つかりさえすれば倒せるが他の冒険者は必ずしもそれが可能なわけではない。誰でも一度は数を誤魔化そうと考えるのだそうだ。うん、俺の非常識、皆の常識だよ。
狩りすぎたのをどうしようかと悩むのは極々一部の冒険者だけらしいぞ。
「お待たせしました。少し聞きたいことがあるので奥に来ていただけますか?」
この時点で俺は悟った『またやってしまったか……』とな。
受付の人が先導して俺は奥とやらに向かった。これはまた遅れそうだな。そうなると、ヨシズからの説教が来るかもしれないな。自業自得とは言え、憂鬱だ。
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「君がシルヴァーだね? 私はメンヒルギルドマスターのレオナだ。ブレードラビット討伐ご苦労だった。だが一体どこでこれらを狩ってきた? 聞かせてもらおうじゃないか」
やっぱり普通のブレードラビットではなかったか……。
「やっぱり普通のブレードラビットではなかったか……」
「ちゃんと分かっているようで何よりだ。これはブレードラビット・ミュータントだ。普通のブレードラビットよりもずっと厄介なんだ」
思わず心の声が漏れていた。そして、俺が狩ってきたのはミュータントだそうだ。色はおかしいとは思っていたが、より危険でもあったらしい。
「で、どこで狩ってきた?」
正直に、言うか。
「東の森の奥だ。ブレードラビット討伐の依頼を受けたはいいが全く出てこなくて、森の奥ならと期待して向かった。そうしたら、ちょうど巣作りしているところに出くわしてこれ幸いにと狩った」
「ふぅー……。そうか、森の奥か。お前、何ランクだった?」
「Bランクだったと思うが」
フォーチュンバード事件での活躍を評価されて一気にランクが上がっている。今の俺はBランクだ。
「なるほど……ならば、森の奥に行って生き残ってもおかしくないのか? パーティの連携が良ければ狩れる……のか?」
「パーティ? 今日は俺はソロで動いているが」
「は? ……失礼だが、お前、何で生きているんだ?」
本当に失礼だな。だが、ギルドマスターがこの様子だとするとやはりやらかしたんだろうな、俺。
「まぁいい。ミュータントだとしてもブレードラビットであることは間違いない。依頼達成としておく。それより、森の奥に行っていたこと、この時間に帰ってきたことを考えると黄昏時に当たっているだろう? 他の魔獣も持ってきているのか?」
「ああ。そちらの買い取りもお願いしたい」
「鎌かけたつもりだったんだが、本当に黄昏時を生き残ってきたんだな……Bランクなら納得できるか。だが、ソロで動いていたと言っていたな。お前は……何で生きているんだろうな?」
俺に聞かれてもな……俺自身も記憶がないし。これ以上続けられるとヨシズ達にばれそうだ。せめて狩った物についてだけは黙秘したいからな。
「ギルドマスター。今回もかなり狩ってきているのだが、ここには広い場所はあるか?」
「解体はしていないんだな。黄昏ならそんな余裕もないか。ここを出て左にある階段を下りて2つ先の部屋が売却カウンターだ。この時間でも最低2人はいるだろう」
そう言われて俺は部屋を出る。ブレードラビットの件はあれで終わりのようだ。
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売却カウンターにはギルドマスターが言った通り2人いた。
「ようこそ。この時間に来るとは珍しい」
「他の町から来たわけでもなさそう。強い人? あ、量があるなら部屋の隅からお願い」
部屋にいたのは男女2人だが、前掛けが真っ赤だった。一瞬驚いたが場所を思いだし、すぐに平静に戻った。
量があるなら部屋の隅からと言われたから大人しく指示に従う。戦闘の記憶が途切れているところはあるが、そこはおそらく虐殺していたのだろうし、その時に狩ったらしき肉がアイテムボックスのなかにあるからな……
「ああ。血抜きもしてないから作業が多いと思うが……」
「「ほほう」」
魔獣を出していくたびに2人は何やら検分している。切ったりはしないで軽く持ち上げてみたり引っ張ったりするだけだったが、検分……だよな?
切り口にばかり目がいっているように見えるのは……間違いだろう。そんなに無茶な切り方はしていないはずだし。
「これで最後だ」
終盤になるとさすがの2人も顔が引きつっていた。俺も驚いた。この量は久しぶりだし、よくアイテムボックスに入ったものだ。もしかして、総魔力量が上がっているのだろうか?
「フォレストタイガーなんてよく狩れましたね。しかも、2体も」
「それに、この怪鳥……たぶんロックバードの亜種だと思うけど、どうやって狩ったの?」
「フォレストタイガーは先制して有利になったからその勢いで狩った。怪鳥はフォレストタイガーを狩るときに邪魔だったから打ち落として仕留めたな」
「「ほほう……君は何者ですか?」」
元は虎だった虎人族だよ。そこらの人と大して変わらないはずだ。
売却で儲けた分はギルドに預けた。改めて預金額を見てみたが思った以上に貯まっていた。無駄遣いする気はないが少しくらいは何かいいものを買いたいと思う。