ドルメン8 町へ戻り……
ヨシズと別れた後、俺はギルドへと向かう。俺の話し合い(肉体言語での)について聞いていた町の人がお礼を言いに来るのでその歩みは遅々としたものだったが。
「おう、銀の兄ちゃん。ガードン達を倒してくれたってな。ありがとよ!」
と言って背中を叩いてくるおっちゃんがいたり、
「あんた、アンちゃんを守っているとも思えなかったあの過激派の連中を殴って来たんだって? たいしたもんだね。好きな串一本持って行きな」
と焼鳥を押しつ……こほん、快くくれるおばさんがいたり、
「おい、シルヴァー。アンちゃんと付き合うために邪魔なガードンを殺したんだって? 犯罪だぞ?」
「付き合う? 殺した? 誰だ、ここまで話を飛躍させたやつ!」
俺が犯罪者になるのではないか。それに、アンさんと付き合うなんて話、どこから出て来るのか。
「はーはっはっ、アンちゃんが楽しそうに話していたお前に嫉妬した誰かだな。信じているやつはいないが、この先弄られるぞ」
と予言めいたことを言い残していった冒険者仲間だったり。本当にあの後ギルドに着くまでずっと弄られた。……何の拷問だろうか。
「とりあえず、アンさんは茶化さないでくれ……」
「ふふ。お疲れ様です。多分、後しばらくはこんな空気だと思いますよ。諦めて下さい」
「残りの過激派から報復とかはないのか?」
ふと過激派はあの草原に来たメンバーだけではないことを思い出す。残っている奴等から復讐されそうだよな。町の皆から見れば俺は迷惑な連中を倒してくれた存在だからありがたく思っているようだが(反省のさせがいがあると言っていた姐さんもいた)、過激派の残りにとっては俺は自分達のボスを不当に倒したという認識ではないだろうか。
「大丈夫ですよ。残っている方々は既にいくつも罪状を重ねていますので、すぐに牢へつなぐことが出来ます」
「なぜ今まで捕まえなかったんだ?」
いくつも犯罪を犯しているってことだろう。衛兵がしっかりしている町にしては手落ちだよな?
「ガードンが庇っていたのですよ。実家のことを持ち出して。一応伯爵家ですからね。それに、ここ一帯を治める領主家でもあったので迂闊に手を出せなかったのです。しかし、丁度領主が長男に代替わりしたので、どうにか彼等を捕まえることに踏み切れたのです」
「そこまで言って良いんですか?」
伯爵家代替わりなど、言い方からして極最近の事だろう。思わず敬語になってしまった。
するとアンは僅かに苦笑を滲ませて言った
「関わりのない方には言えませんが、シルヴァーさんは関わることが確定していますので」
「………は?」
なんで俺が面倒そうな貴族と関わる機会があるんだ?そう問うと、
「なぜ、と言われましても……。実はここに召喚状がありまして」
てへっと擬音がつきそうな顔でアンは召喚状を差し出す。背後に『イタズラ成功』の文字が見えるようだ。
「先にそれを出してくれ……」
俺はカウンターに突っ伏す。皆何で俺を弄るのだろうか。俺、そんなに面白い反応してるか?
「普段冷静な人の調子を崩すのは割と楽しいです♪ それはそうと、召喚状はあなたに謝罪したいということで出されたものだそうですよ。いつでも良いそうですが、余り待たせるのは貴族相手には良くありませんので弁当の配達の依頼が終わり次第王都へ向かうことをお勧めします」
「王都か。賑わっているんだろうな。あ、そうだ。依頼報告に来たんだった」
「そうでしたね。ギルドカードをお預かりいたします」
「……シルヴァーさん。ピギー十四体ってどうやって狩ったのですか?」
アンがそう言った瞬間、俺に視線が集まった。ここにいる冒険者は午前にカウを狩りにいったが、稼いだ金額は割り増しの報酬分を入れてもピギー十四体を売った際の金額には到底及ばない。集まった視線には、もしソロで14体も狩れる方法があるならぜひ真似したいと言う『楽したい精神』が透けて見える。
俺はそんな視線に気付き、苦笑する。あの方法はBランク以上じゃないと自殺行為だとヨシズにお墨付き(?)をもらったので、言ったらきっと一斉に撃沈することだろう。
「俺が知る限り、一人を除いて真似出来ないと思うぞ」
そう言っても諦めそうにない冒険者一同。アンは気付いたらしく、少し温かい目になって冒険者一同を見ている。
「まあいい。その方法はな……草原に潜って歩き回るだけだ」
「「「それは自殺行為と言うだろうが!」」」
一斉に突っ込みをいただきました、まる
「それじゃあ、例外の一人はヨシズさんか……」
ある冒険者がつぶやく。ヨシズはしっかり強者と位置付けられているんだな。
その時、タイミングの良いことにシュトゥルムとヨシズがギルドに入って来た。
「「何だこの死屍累々……」」
彼等は異口同音に発するやいなや、遠い目になる。ギルド内はさっきの言葉の影響でほとんどの冒険者(シルヴァー除く)が机に突っ伏しているのだ。現実逃避もしたくなる。
「ああ。俺がピギーを狩った方法を教えたらこうなった」
「そりゃそうだ」
ヨシズはもう知っているからすぐに納得するが、シュトゥルムは知らないので混乱したままだ。そこに、復活した他の冒険者が原因を教える。
「……ピギーを」
「草むらに潜って、」
「狩ったぁ?」
とつぶやいたきり絶句して二の句が継げなくなったようだ。固まっている。ヨシズはその横で反応がツボに入ったのか床に崩れ落ちる程笑っていた。
「はい、処理が終わりました。ギルドカードの記載は十四体となっています。この後、売却カウンターで討伐証明部位の確認を行って下さい」
周りがあんなんでも受付嬢は動じなかった。さっくり無視して仕事をしていたようだ。
「分かった。アンさんはよくこの状態に動じないな」
「慣れてますので」
事もなげに言うその様に本当に『慣れ』ていることが良く分かる。
慣れとは恐ろしい……。などと考えつつ方向転換すると、シュトゥルムのリーダーがこちらに迫って来ていた。
ガシッとこちらの胸ぐらを掴んで言う。
「シルヴァー、お前に常識はないのか!」
あ、これ心からの叫びだ。隣にいるグランドには分かった。実を言うとこの言葉はこの場の皆が思っていることだった(約一名を除く)。
「そこへ直れ! 常識を確認してやる」
「あ〜。そこまで。先にシルヴァーを売却カウンターに行かせてやれ。その方が常識教える時間が取れるぜ。ほら、シルヴァーは早く済ましてこい。それまでにはこいつらも頭が冷えるだろ。……逃げるなよ」
「あ、ああ」
ヨシズが取り成してくれたので俺は先に別部屋にある売却カウンターへ向かう。あのひっくい『逃げるなよ』に俺はかなり言いたい放題言われる覚悟を決めた。
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「シルヴァーが来る前に絶対分かっていて欲しい常識とかの確認をしとこうぜ。誰が聞くかとかも、な」
「そうだな。とりあえず紙に書き出しておくか」
そうして書き出していった常識は紙5枚分になった。表裏びっしり書かれている。もちろん、今までのシルヴァーの行動から見て聞く必要もないものは除いている。
「……これ、シルヴァーにマルバツで答えてもらった方が楽じゃね?」
びっしり書かれて、重ねられた5枚の紙を前に、これを一つずつ聞いていくことに気が遠くなるのを感じながら、思わずある冒険者がつぶやいた。
「確かに! その方が俺達が楽に済む。ナイスアイデア!」
ヒュゥーと口笛を吹いて喜びを表す冒険者B。ちなみに、提案者をAとする。
どうやら皆同じ思いだったようだ。
「まぁ、ピギー十四体討伐してピンピンしているくらいだ。マルバツつける余裕はあるだろ」
そのヨシズの言葉で、苦労はシルヴァーに背負わせると言う流れが決まった。