デュクレス帝国跡4
翌日、ヘヴンとのあれこれをメンバーに報告してみた。ゼノン以外は懐疑的だった。まぁ、それはそうだろうな。俺だっていきなり言われて信じられるかは分からない。
ぐるるぅ《よもやシルヴァーに妄想癖があるとは……》
「妄想ではないぞ。れっきとした事実だ。確かにヘヴンは謎に包まれている人物であるのは間違いないから、妄想と言いたくなるのも分からないわけではないが」
そのまた翌日のこと。
「来ちゃった♪」
デュクレス城にディオール(と、その妹)がやってきた。彼等を見るこちらの面々は驚愕と困惑と混乱の渦に巻き込まれていた。とても本当のことだとは思えない俺の話が事実だったことによる驚愕、ディオールらしき人物はちゃんと人間の皮を被っていたことに対する困惑(なにせ、骸骨状態の奴しか見てないからな)。そして混乱は……彼等の後ろにたたずむ透けた人物、所謂幽霊がいたということに起因する。とりあえず見なかったことにして、その一方で人間版ディオールがゼノンと親しげに話しているのを見てラヴィさんが一言
「ほんとにディオールさんなのね……」
「そうだよ。まあ、君達は僕の骨格しか知らないのだから戸惑うのも分からなくはないけどね。ああ、紹介しておこうか。これは僕の妹のカルティエだよ」
「これ、とは……人を呼ぶときにはもう少しあると思われますが? 後で覚えておいてくださいませね、お兄様。皆様、初めまして。カルティエと申します。皆様のことはジェルメーヌから聞き及んでおりますわ。兄に苦労させられたとか。こちらで適当な折檻をいたしましたので、許してやってくださいまし」
ディオールはそれを聞いて、すぐに疲れた顔になった。こころなし青ざめてさえいる。妹の言う『折檻』はそれだけキツいものだったのだと見てとれる。そして、後に『何か』があることも確定している。
「がんばってね、ディオール」
「何があるのかは想像できないが、頑張れ」
「ティアは僕に対して遠慮がないんだよ。全力で襲ってくる。頑張れと言われても、無理だね」
あのディオールをしてここまで言わしめるとは、カルティエはどれだけ恐ろしい妹なのだろうか。だが、俺にとっては他人事だな。頑張れとしか言わん。
さて、放っておいた奴の処分へと移ろうか。
ディオール達がやって来たとき、まず最初の言葉を発したのは実はこいつだった。ふざけた野郎だ。ま、分かっていたことなんだが。そのあともこいつは気を引こうと話しかけていたのだが、思考を整理するために無視させてもらった。幽霊とか、あり得ないだろ?
「ねぇってば……聞こえてるよね? 無視しないでよ」
いつまでも無視しているわけにもいかないか。俺は奴と対峙することにした。
「ああ、もちろん聞こえているぞ。声も俺にとってはよく知っているものだったからおまえがヘヴンだってことも分かる。だが、幽霊ってことに納得がいかない」
「うん、俺も同意見だよ。幽霊って実在しているんだね……それにしては他に見ないけどね」
ゼノンも俺に同意している。
「やっと私と話してくれるんだねっ。えっとね、確か私は死んだと思ったらこんな風に体から離れたわけだ。その状態って幽霊と言うよね? 私以外に幽霊を見ないということについてはこちらも疑問には思っているんだけど、調べてもよく分からないんだよね」
「そもそも資料自体がないのでは?」
恐る恐るラヴィさんが話す。そこは俺も思ったところだ。幽霊って未練を持って『成る』のだろう? それを考えるとこの世には幽霊があふれていてもおかしくない。だが、それが存在しているなんて話は聞かないし、研究しているなんて話もない。あくまでも空想上の、架空の存在であると思っていた。真面目な資料などあるはずがない。
「そうなんだよねー。私も幽霊の体を活かしていろいろなところにお邪魔したんだけど、確認できる限りでは幽霊に関しての記述はなかったよっ」
「……そういえば、学院でチラッと見た資料に謎の侵入者の記述があったな。もしかして、あれはヘヴンか?」
学院に慣れるまで暇なんてものはなかなか作り出せなかったが、一月もすればいい加減時間の過ごし方と言うものが分かってくる。そうして出来た時間で俺は学院の資料室を掘り返していた。そのときにたまたま目にした書類にそのようなことが書かれてあった気がする。
「そうかも? あそこの王国は重要な資料は国が管理しているから、何度か王城に行ったことがあるからね。一番最近ではざっと30年くらい前かな」
「ちなみに、何をしに行ったんだ?」
「主目的は国が魔生物大発生の危険性をどれだけ把握しているかを確認することだったね。このところ間違いなく魔獣・魔物は増えているんだよ。そしてそれはスタンピードの前兆でもある。だけど、それを経験した国はほとんどが消えてしまっているんだ。もしかしたら情報が伝わっていないのかもしれないと思って資料を探しに行ったんだよ」
「王城にある資料はかなり昔のものも含まれています。スタンピードも昔から度々あったのですから、間違いなくその資料も保存されているはずです」
「そうだね。確かにあったよ。でもね、一つ分からないことがある。資料の一つにスタンピードを食い止める研究内容が書かれていたものがあったんだ。それはスタンピードの前兆が見られたらすぐに魔獣・魔物を減らすようにするというものだった。当時の国王の命令書も一緒にしてあった。でも、今の時点でそんな命令は出されていないよね? このままだとちょっと危険かな、と思うんだ」
「王国の組織も随分と変化していますからね。国王様の命令も万人に向けられるものと一部の者のみ知るものとあります。ヘヴンさんの見た命令はおそらく秘密裏に出された命令だと思います」
ロウがそこまで話したところで何かに気が付いたのか、ラヴィさんがあっと声を出す。
「ひょっとして、その命令は最近も出されたのかもしれないわ。たまたまかもしれないけど、私達が飛ばされたプルン村跡地の周辺はかなり魔獣・魔物がいたじゃない。そして、ここまで来るまでにも多くを倒してきた。それはスタンピードを食い止める一手と言えないかしら?」
「なるほど。サバイバル授業で俺達が飛ばされた地域は冒険者が行きたがらないところで、かつ魔獣・魔物が多く存在する場所だったな……そしてそれは俺達に限らず他の奴等も同じような状況であったとしたら……学院に密命が下っていた可能性も出てくるのか」
今の状況では確認のしようがないのだが、もしそれが事実だとしたら、俺達はまんまと利用されたことになるな。あまりいい気分ではないが……。まぁそれは置いておいて、いい加減の本題に入ろう。
「スタンピードを食い止めるための密命が下っていたかどうかは今は関係ないし、確認もできないからここまでにしておこう。いい加減本題に入るぞ。俺がヘヴンを頼ったのは復活したこの街をどうするか、だ。それにお前は移転してしまおうと返したわけだが……」
「術式は完璧に覚えさせられたからいつでも大丈夫。本当、たいした復讐法だよ。君、意外と怒っていたんだね」
仲間に手出しされるのは気に入らないからな。思惑通り、そうとう揉まれたようで何よりだ。
「座標の割り出しは任せてくださいませ。移転先は妖精郷でよろしいですわね?」
「そうそう。妖精郷の近くの【果てなき草原】の入口に設定して」
「まったく知らない情報ばかり飛び出してくるね……果てなき草原って、国に知られたら目の色を変えて飛び付くよ」
草原ということは植物の生育に適した場所だと言うことだ。農業をやると考えるとかなりの確率で成功が見込まれるだろう。そして、大国ならばどこも同じ悩みを抱えている。食料不足だ。
ああ、確かにこれは垂涎ものだ。
「でも、知ったとしてもどうにもならないよ。あそこに行けるのは死者か私が許可を出した人だけだからね」
その言い方だとまるでヘヴンが王様みたいだ。まさか、な? ディオールがおとなしく従っているが、まさかな……。
「さぁ~て、やろうか。ちなみにシルヴァー。ブレインの了承は取ってあるんだよね?」
「あ、ああ。夜のうちに説得した。基本的に何らかのトラブルがあったらヘヴンのもとに行くように命じておいた」
「いつのまに!? 私、こう見えてもかなり仕事しているんだよ! これ以上増やされたら……」
「別に平気だと思うよ」「平然とこなしてしまわれるかと」
「最近ふと思うんだけど、君達、以外と私の扱い適当だよね」
「「今更でしょう」」
そんなやり取りをしながら彼等は消えた。魔術は事前準備は大変だが発動は呆気ないのだ。それでもここまできれいに発動することは滅多にない。
「一流の技ってあれほど綺麗なのね……」
憧れるに足る魔術だよな。俺もいつかこれくらい大規模な魔術を使ってみたいものだ。そう思いながら俺は一面の更地を見渡した。
面倒事の芽があっさり片付いたのは良いが、別の意味で騒ぎになりそうだな……知らぬ存ぜぬを貫かないとな。




