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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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デュクレス帝国跡2


「……全員構えておけっ」


 不穏な影に気付き、俺は武器を構えるように号令を掛けた。そしてその数秒後、緊張が一気に高まったときそれは現れた。

 体高はおよそ5メートルほど。街に建つ家屋と同じくらいの大きさだった。それが2体街角を曲がってこちらを向く。


「あれは……ゴーレムだね。制御者がいるのかな?」


「武器を持ってはいるが、襲ってくる感じではないな。何のために現れたんだ?」


 ゴーレムは広場で警戒している俺達の前に立つと跪いた。そして、少し聞き取りにくい声で話し始めた!


「ワレラハ、コノマチノ防衛機能ヲトウカツシテオリマス。街ヲ甦ラセシソノ魔力ニ従イマス。ワレラニ命令ヲ」


「お前たちにはこの街の情報があるのか?」


「ワレラハ防衛機能。街ノ情報ハ政治機構ヲトウカツシテイル『ブレイン』ガ保持シテオリマス。ワレラハ防衛ノ命令ノミ対応デキマス」


「……とりあえず、復活しているだろう門の守りを任せる」


「東西南北オヨビ城門二ソレゾレ2名ヲ配置シマス。残リノ兵力ハ戦闘ゴーレムガ1000体、防衛ゴーレムガ990体、スミスゴーレムが600体、試作型ガ各種20体デス」


「お、おぅ……」


 戸惑いつつもどうやら俺が命令しなくてはならないようだったので、暫定で命令を出す。目の前のゴーレムが防衛機能を統括しているというのは事実のようだ。何やら地響きがしてきた。ゴーレムが所定の場所に向かっているはずだ。

 命令した後に告げられた残りの兵力は防衛ゴーレムが戦闘ゴーレムに比べて10体少なかった。おそらく、今の時点で存在しているゴーレムは戦闘と防衛でそれぞれ1000体ずつなのだろう。


「ワレラハ城門ノ防衛ヲ担当シマス」


 ゴーレム2体はそう言うとまたもとの道を戻っていった。俺はその様子をぼうっと見る。今起こったことに頭が追い付いていなかったのだ。


「……一体どうすればいいんだ? 表に出してはまずいものばかり飛び込んでくるんだがっ!?」


「これだけ造られている街だったら知られればかなりの人が来るだろうね~……ゴーレムだってシル兄ちゃんを主としているみたいだし。頑張れ、シル兄ちゃん。一応貴族の知り合いもいるんだし、何とかなるんじゃない?」


「他人事だと思って……まったく。とりあえずあの2体を追いかけて城へ向かおう。『ブレイン』とやらにも会わないといけないだろうしな」



 と言うことでやって来た城なんだが、人の気配がないとここまで寒く感じるものなのか。なまじ広いだけあってよりもの寂しさが強調されている気がする。ここも、本来は仕事できた貴族や使用人で賑わっていただろうに。俺が主じゃそこまで賑わせることはできないだろうな。


「ところで、『ブレイン』とやらはどこにいるんだ?」


「普通に考えれば城の中心部じゃない? 政治機構を統括しているんだから壊されたらたまったもんじゃないからね」


『是。そのまま謁見の間までお越しください。ここからは私との対話が可能になります。質問があればその都度発言していただければ幸いです』


「「「っ!?」」」


「あら。この声が『ブレイン』なのね。私から質問しても良いのかしら?」


『マスターの許可があれば可能です』


「マスターっていうのは俺で間違いないのか?」


『是』


 マスターと言うのは間違いなく俺のことのようだ。『ブレイン』に肯定されたから他の可能性はなくなった。やはり噴水のところで唱えてしまったあの呪文で俺はこの街の主となったんだろう。それはそうと(どうせ『ブレイン』に聞けば分かるだろうし)、俺はパーティメンバーに質問を許可した。


「ええと……『ブレイン』さんはどんな姿をしているのかしら?」


『私は形あるものではありません。しかし、謁見の間ではそれらしい幻影を見せることが可能です』


 裏を返せば、『ブレイン』は謁見の間でしか姿を見せれないということだ。しかし、それはデメリットにはならないな。謁見の間でしか姿を見せないと思われれば一部の悪党は隠れて不正を行うようになるだろう。『ブレイン』の監視の目が届かないと思い込んで。その実はちゃんと監視されているのだが。つまり、いらない官吏というものが一目瞭然となるわけだ。なるほど、合理的だ。


「今の政務状況はどうなっているのかな? 国民がいないから何もしていない?」


『否。かつてここが廃棄された際に私に残されたプログラムを実行しております』


「それはどんなもの?」


『街の中心部の噴水から出る水を循環させるというものです。よって、これ以降、この国が廃墟となることはありません』


「つまりは街の建物の現状保持を行っているということか。すごいな、それは」


『それが私に課せられた役割の一つです。主様、ご友人方、そろそろ謁見の間になります。右手側に見えている大きな扉に手を当ててください』


 謁見の間は謁見の間だった。……俺の貧相な語彙を哀れまないでくれ。何と言えばいいのか、まず正面に玉座が見えて、そこまで50mくらいの距離がある。壁際はぐるりと傍聴席?らしきものがあり、床より2、3段ほど高い。もちろん、玉座は一際高い場所だよ。

 その玉座の横に異様なほど顔立ちの整った長身の男が控えていた。彼が『ブレイン』なのだろう。彼は俺達が中へ入ってくると階段を下りて俺の前に跪いた。


「ようこそ、主様。私はブレイン。基本的には政務の補助を担当します。今現在はこの街を維持する水の調整を行っております」


「あ、ああ……よろしく」


「はい。つきましては、主様にはまずあの玉座に触れていただきたく存じます」


 ブレインの言う通りにいろいろと動いた俺は、気付いたら見事国王として認められていた。住民のいない国王って……。というか、国として認められることはないと思うんだがな。だが、国王に位置する人がいないと街の保全も完璧にはならないと言われたんだ。仕方ない。


「シル兄ちゃん、流されまくっているよね~。行き着くところまで行き着いちゃった感じ?」


「うるさい。自分でもそう思っているんだからわざわざ言わないでくれ……」



 しかし、まいったな……この場所を知らせたら絶対に国は手に入れようとするはずだ。だが、今現在ここで王として君臨できるのは俺とその血縁……実質俺だけだ。なぜかって? 先程国王として認められたと言っただろ? そうなるまでの手順に継承権について決めるものがあったんだが、俺はブレインに言われるまま動いたから『血の継承』に設定してしまったんだ。俺の血縁しか王になれないってことだ。しかもそれを変更することは100年経たないと出来ないらしい。

 つまりここを支配する権利は俺にしかなく、たとえ他国が実効支配したとしてもブレインは動かないしゴーレム達だって命令に従わないだろう。街の噴水も止めるそうだ。俺が粛々と従えばそんなことはないだろうが、気ままな冒険者を気に入っている俺が貴族に従うわけがない。面倒くさいしがらみが出来るのはごめんだ。



「兄ちゃんの知り合いを盾に従わせるといった可能性もあるよね。ここのことは知らせないほうがいいと思うよ」


「私も同じ意見よ。ここを支配できるのがシルヴァーさんしかいないと知られたら『冒険者風情が!』とか言われてろくなことにならなさそうだわ」


「僕も、ここのことは秘密にしておくべきだと思います。貴族がここの噴水のことを知れば放っておくことはないでしょうし、欲深い人は狙ってくるでしょう」


「そうだな。俺もそう思う。とは言え、こんながらんとしたままにしておくのも寂しいのだがな。なんとか活用出来ればいいのだが」


 仲間の意見はすべてここのことを秘密にするというものだった。この場所もブレインに頼んで地図を見せてもらうと、驚いたことにクナッスス王国から200km程のところにあると分かった。間違いなく面倒くさいことになる。


「ここは秘密にするということで、今日のところは解散だ。これからこの街をどう扱っていくかは俺のほうで考えよう」


「頑張れ、新米国王様!」


「ゼノン、その茶々はいらない!」


 いっそ、誰かに丸投げ出来ないだろうか……。




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