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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
83/449

ここからが本当の……


ここまでのあらすじ(たぶん合ってる)

 辺境の町ドルメンにやって来たシルヴァーは色々な依頼を受け、喧嘩をし……ゼノンやヨシズと一緒に王都へ向かうことになった。その道中で何者かに操られた多くのウルフに襲われるが、その原因となっていた首輪を壊すことで倒し、リーダー格だった聖獣アルを拾った。

 王都ではシルヴァーとゼノンは学院の生徒に、ヨシズは教師になる。半年で卒業してやるぜ! と学院生活に精を出す一方、アルが持ってきた厄介事に首を突っ込むことになり、そこで起こった事件で無理矢理獣人にされたロウを引き取ることになる。

 ロウの様子も安定した頃、シルヴァー達はサバイバル授業に放り込まれる。飛ばされた先でアンデッドフェスティバルに遭遇し、否応なく英雄様と対戦することに。その後の一週間の強化合宿を経て最後に英雄達の物語を聞いて、彼等を見送った。



 

 英雄様方を見送った翌日、俺達もプルン村を後にした。さぁ、ここらが本当のサバイバル授業だ。英雄達との腕試しアンデッドフェスティバルの期間のあれは強化合宿にすぎない。食べていた肉類はほとんどがバルディックが調達してきたものだったからな。俺としてはサバイバルしていたような気はしない。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 ここに来て、俺達は大きな問題に突き当たった。


『果たしてどちらの方向が王都なのだろうか?』


 いや、俺もうっかりしていた。プルン村なんて聞いたことがないではないか。そもそも村跡だったから例え地図を買えたとしてもそれに載っていたとも思えないが。先生に聞くのも遠慮したい。というか、そうしてしまうと卒業ができなくなりそうだという予感がある。これについてはメンバーの全員が同意してくれたので、結局俺達は地道に進んでいくことにしたのだが……


「道、ないね……」


「崖だな。村跡からの一本道を辿ってきたのだがな……」


 どういうことか、道の先は崖だった。そこを降りればまた別の道があるかもしれないが、見渡せる限り森が続いているから現実的ではないだろう。仕方がないので戻ることにする。


「どうするか……どの方向へ向かう?」


「棒でも倒して決める? 他の方角は道がないんだからもう戻ることなく進むでしょ? どの方向にしても同じだし」


 ぐるるぅ《北の方角は止めておいた方が良さそうだ》


「何故だ?」


 ぐるる《何かの獣の縄張りだった。突き進むとおそらく戦闘続きだろう》


「ふむ。アルによると、北方面は何かの獣の縄張りだから戦闘続きだろうとのことだ。体力的につらい行程になる上にどこまで進めばいいか分からないから俺もやめておくべきだと思う」


「じゃあ、西と南の2択だね。うっすら獣道があるから、道なき道を行くよりかは楽だろうけど……どうする? 俺は南に行きたいかな」


「その心は?」


「南ってさ、暖かいイメージがあるじゃん。果物とかあるかな、と思ったんだけど。それと、プルン村がどこにあったにせよ、南に進めば少なくとも魔の森に行くことはないからだね」


「南に進んだからといって果物がなっている保証はどこにもないぞ……。ああ、でも魔の森は西方面だったか。確かに……西だと万が一のことがあるな」


「そういえば、ヴェトロさんの話に大障壁沿いに旅したとありましたよね。今もあれほど危険なのでしょうか?」


「穴が開いているってことはないと思いたいわね。でも、やっぱり大障壁沿いではかなり強い魔獣が出没するって聞いたことはあるわ。いまの時点では近付きたくないわね」


 諸々の理由から俺達は南に進路をとった。強化合宿中も南にも狩に行ったことはあったが、あまり深く考えていなかったので魔物の強さだとかそういうものについてはよく分かっていなかった。だが、改めて考えると確かに北に比べれば緩く感じる。

 村跡を出た以上、寝る時はテントを張ったその中しかない。野営は森のど真ん中になる。強い魔獣が出ないとはいえ、夜間は襲ってくる数も増えるため最低二人は見張りに立っていた。今は俺とゼノンが当番だ。


「それにしても、魔獣の強さはそうでもないが、なかなか森を抜けられないな。街道すらも見えないってどういうことだ」


「プルン村を出てからもう1週間なんだよね。いい加減街道の1つや2つ見えたっておかしくないのにね」


「そうだな。だが、もしプルン村が最南端の村だったらここまで人の気配が感じられないのも分かるが」


「実は最南端を開拓していましたーってこと? 考えたくない可能性だけど、考慮しなきゃならないかなぁ」


「先生も、このサバイバル授業で他国に飛ばされた例もあると話していたからな。俺達が王国から外れてしまった可能性も出てきているだろう」


 俺が生きている大陸は中央に龍が住んでいると言われている大霊峰があり、その南西方面にアーリマ五公国、その奥に魔の森が広がっている。南にはヒコナ帝国がある。北西を向けばアヴェスタ教国、その国の東側にタリオの森がある。その森を挟んだ先がクナッスス王国だ。今言った4つの国が現在、大国とされている国だ。もちろん、これらの国の他にも小国家と呼ばれる国々は存在しているが、詳しいことは割愛する。大霊峰からずっと南は広くは開拓されていない広大な森だし、ずっと北の方は海が広がっているという。俺が危惧しているのは飛ばされたのがその南の森であることだ。もしそうならば、このまま南に進んでも街道など現れないだろう。


 しかし、翌日になって現れた周囲の変化に、俺達はどこに飛ばされていたのか推測することができた。


「これは……でっかいリンゴだな……」


「アーマービーも巨大化してるよ。あ、マッスルビートルだ。俺の半分もあるとか……。ベースが虫なのに人間のような筋肉がついているのがはっきり見えて、とにかく気持ち悪さが増してるね」


「あの、シル兄さん、ここってディオールさんの話に出てきたユモアの森じゃないですか?」


 グルルル《確かに、あらゆるものが我等の知るものより大きい、というところは共通しているな》


「そうだな。ユモアの森か……」


「あ、どこかで聞いたことのある特徴だと思ったら、そうね、ディオールさんの話にあったあの森ね。それなら、ここを進んでいけばいい加減森から出られるのよね?」


「とりあえず進んでみるしかないけどね。ユモアの森だといいね。その森だったら王都への方向が分かるから」


 もしここがディオールの話にあったユモアの森であるならば、このまま進めば森を抜けられるだろう。しかし、ここを進むということはつまり、現れる魔獣、魔物の強さがべらぼうに上がることを意味する。ここまではそんなに強い魔獣が出てくることはなかったのに、このあらゆるものが巨大化しているゾーンに入ったら強くなるとは、面妖な。


 強敵その一、マッスルビートルという魔物が現れた。通常は俺の頭の大きさくらいなのだが、そこはユモアクオリティー。俺と同じくらいの大きさになっている。


「シル兄ちゃん、マッスルビートルはまかせた」


「断る! 確かに俺は格闘系が得意だが、あいつと組みたくはない!」


「僕だと力負けしてしまうので……シル兄さんが適任だと思います」


「マッスルビートルは魔法が効かないし、私は非力だし……申し訳ないけれど、お願いします」


 ぐるるぅ《一体だから別にいいだろう》


「よくない! アルが行けばいいだろ! って、押すな……」


 3人と1匹に押されてマッスルビートルの前に出てしまった俺。おそるおそる正面を向くとパンっと拳と掌を鳴らした()()を目にすることになった。心なしニイッと嗤ったような……。


 くそっ、魔物にバカにされてたまるか。


 やつの姿形に対する嫌悪感を押さえ込んで、俺は腹をくくって対峙する。こうなれば徹底的にやってやる。幸い、マッスルビートルは数が少なく、一つの森に一体の割合で存在している。こいつを倒せばおそらくこの森では二度と出会うことはなくなるはず。マッスルビートルはあらゆる魔物と対戦して自分の技を磨くという習性がある。しかし、人相手には殺しにかかってくる。それはこちらを見下してのことなのか……とにかくあいつはこちらをイラつかせる。それこそが奴の術でもあるのだが……。


 マッスルビートルがちょいちょいとこちらを挑発する。まぁ、こいつらの常道の戦術だ。だが、俺は挑発し返した。自分から相手の術中に嵌まろうとは思わない。あくまでも、冷静に潰さないと。


「やっぱり挑発されるのには慣れていないみたいだな……攻撃が直線的になってやり易いな」


 俺の挑発にいとも容易く乗ってくれたマッスルビートルはその恐ろしいまでの筋肉を唸らせた一撃を放ってくるが、何の工夫もないのでかわしやすく、隙だらけだ。


「頭を潰した方がいいか……」


 俺は伸ばされた腕をつかみ、奴を頭から投げ落とす。マッスルビートルも一応虫系の魔物だから確実に殺るには頭を潰すのが一番だ。気色悪いからさっさとけりをつけたかったのもある。


「よし。他は大丈夫か?」


「巨大ピギーは全部倒したよ。エイプはロウとアルが、ヒュプノスバタフライはラヴィさんが何とかした。やっぱりさ、この森ってかなりの種類の魔獣や魔物がいるよ」


「日があるうちに突っ切るか。ゼノンの言い方だと野営をするには厳しいんだろ?」


「うん。出来ればもっと進んでおきたいかな。予想があっていればだんだん弱くなっていくはずだし 」


 必要最低限の採集はしたから、俺達は黙々と進んでいった。そろそろ本格的に夜になるところで、洞窟が現れた。これは実にちょうどいい。調べてみたら洞窟の入口の方は安全なようだった。何か魔獣が訪れている気配もなかったしな。


「今日もなんとか乗りきったな。お疲れさま」


「お疲れさまです」


「シル兄ちゃんもお疲れさま」


「マッスルビートルの件はありがとうございます」


「おい、思い出させるなよ……」


「「「あははは!」」」


 こんなすぐに英雄の縁の地に来れるとは、運が良いんだか悪いんだか……これを知ればきっとディオールの驚いた顔が見れるかもな。だが、森から出れる可能性が出てきたのは嬉しいな。先が見えて皆少しは明るくなった気がする。


 さて、俺も寝るか。






国などの位置関係、ごちゃっとしているので訂正。

というか、自分で方角間違えてました。地図読めない子なのです……。


|     海?

|    森 タリオの森

大  教国   王国

壁    竜峰

|

|      帝国

|       南方諸国

|         森

|五公国

 ←魔の森へ

|

|


大体の位置関係です。

一応、初期の段階でもこうなってました。

分かりにくくてごめんなさい。


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