ドルメン7 露呈
シュトゥルムのリーダー視点
シルヴァーさんとヨシズさんが依頼の獲物を狩りに俺たちと別れた。二人とも先ほどの戦闘ではあまり疲労した印象を受けなかったので俺は心置きなく送り出したが、もし彼らがこの町での普通の冒険者なら今頃はかなり疲弊していることだろう。
なにせ、ずっと先頭に立って力だけは無駄にある過激派連中をたった一、二撃で倒し続けたのだ。並の冒険者じゃ出来ない。シルヴァーさんにいたっては虎人族ということを鑑みても並とは言えない。
本人は俺達の行動を手伝いの域を超えていると思っているようだが、後始末を引き受けてようやく手伝いになったと思う。
「……なあ、グランド。俺ら手伝いの域を超えていたと思うか?」
「何を唐突に。ああ、さっきのことか。超えてないだろ。……よっ。これで終わりだな。 コレでようやく手伝いって感じだな。まあ、あまり気にするな」
グランドは最後の気絶者の体を転がして言う。
あの後、衛兵が牢屋を手配して気絶者を順次転がしておく方針になり、シュトゥルムが中心となって動き、最後の気絶者を運んだ二人はいま牢屋の前にいるが、ずっとここに居たいものでもないので外へ向かって歩き出す。
「一体あの体力は何なんだろうな。底なしじゃあなかろうか。でも、ヨシズはともかく、シルヴァーは謎だな」
「なぜ?」
「あの動きは恐らく独学で組み立てたものだぞ。足の運びに無駄はなかったが攻撃は非効率だ。ヒット&アウェイ、だったな。あれは普通弱い奴の、強い奴に対する戦法だよ。シルヴァーさんが使うには分不相応だろう。というか、さっきの戦闘を思い出せば獣が獲物をいたぶっているようにしか見えないよな」
改めてあの光景は傍から見れば恐ろしいものだったんじゃないかと思う。
「俺が謎だと思うのはあれだけ強いのにどうしてまだDランクなのかと言うことと、あの戦闘方法は誰の指導によるものなのかということだよ。虎人族は大抵小さい頃から戦闘技術を教わるそうだ。俺達も一度虎人族に会っただろう? 女性だったが親から戦い方を教わったと言っていた」
グランドもそれを覚えている。虎人族に会うこと自体稀だから良い体験をしたと記憶に残っているのだ。
「つまり、お前はシルヴァーが小さい頃から戦闘技術を教わる虎人族にしては戦闘技術にブレがあり、特徴と一致しないその理由を知りたいってことだな」
「ああ。それと、ランクの低さもな」
「ランクについては予測が立てられるじゃないか。宿の女将が褒めていたあれが理由じゃないか? 俺もその場に居たかった!」
「……お前は人の不幸を眺めるのが好きだものな」
「人の不幸は蜜の味だろ!」
やたらツヤツヤしはじめたグランドに疲れ、この話は流れて行った。
*******
そのころ、俺が何していたかというと……
「「ブモオオォオ」」
ピギーと戦闘を繰り広げていた。
突っ込んできたピギーを回避し、すれ違い様にその横腹を殴り、もう一体に当てる。体勢を立て直されないうちに追撃し倒す。ピギーは本来二、三人で一体を倒す。普通は一人で相手をするものではない。こういうところが実力がDランクにあらずと言われるのだ。
「ふう……。これで十か。流石に今のような二体同時に倒すのはきついな……」
俺は今草むらの中に潜っている。そこを歩いていればピギーから出て来てくれるので本人は効率がいいとしか思っていないが、普通は丈の低い草の草原におびき寄せて狩るものだ。高ランクパーティーでさえ安全を第一に考えるならそれで狩る。つまり、客観的に見れば俺がやっているのはただの自殺行為である。
もしシュトゥルムの皆がその狩り方を知ったなら全力で引き止めたことだろう。
そんなこと知らない俺は続けて狩るためにまた歩き出す。
少しするとピギーではない強者の気配がした。
何だ? 何か……いや、誰かがいるみたいだな。
「うぉらあ! ……ったく、一度に六体とか運が悪いだろっ……と」
カサ……
俺の足元の草が僅かに音を立てた。
「何だ! また新手か? 」
戦闘中で感覚が鋭敏になっていたのだろう。あの微かな音にも男は反応した。
「いや、俺だ。シルヴァーだ、ヨシズ」
一人で六体まとめて相手していたのはヨシズだった。
「そうか、ヒビらせやがって。それより、悪いが手伝ってくれ。オレ一人だと面倒くせぇし時間がかかる」
「分かっている。俺が相手取れるのは2体が限界だ」
そう言いながら戦闘に混ざる。ピギーは新たな敵に警戒心を高めた。
「十分っ。四体ならオレが押さえられるからなっ」
俺は二体倒したらすぐにヨシズが押さえている残りのうち二体を新たに相手取り、ヨシズも押さえていた四体のうち二体を倒す。
この二人を前にしてピギー達はあっけなくその命を散らした。
「助かったぜ。倒した分持ってってくれ。」
「いや、三体ずつでいいぞ。俺はもう依頼分は倒しているしな」
「それはこちらも同じだ。でも、それならそれでいいか」
二人ともアイテムボックス持ちなので収納が楽なため、依頼分の三体はとっくに狩り終え、超過分を持て余しそうなくらいになっている。
「くくっ。やっぱり虎人族は強えなぁ。一度手合わせしてみねぇか?」
「俺が負けるだろう。お前の防御を抜けられる気がしない」
「どうだろうな? 防御に関しては嬉しいが抜けられたら即詰むからなぁ。精進あるのみだな」
「そんなものか」
「そんなものさ」
どんな生き物でも得意不得意は必ずあるものだ。俺も遠距離攻撃は苦手だしな。
「そろそろ俺はギルドに向かうがヨシズはどうする?」
「オレも戻るか。今日の戦果はピギー十七体だな。全部換金すれば宿代一週間分にはなるかな」
「十七体だって? 三体しか違わないじゃないか。俺の方が早く捜索に出たのにな……」
過激派の連中を倒す前、ここに来る時に倒したやつを含めて俺の戦果は十四体になる。
「いや、ちょっと待て。マジでお前何ランクだ?」
「Dランクだが? このランクでこの戦果は少ない方か?」
「逆だ。Dランクソロでピギーを十四体なんて狩れないぞ普通は。体力が持たん。Bランクでなんとか出来るか?」
呆れを含む声で教えてくれた。俺の知る常識と食い違っている。以前ヘヴンが教えてくれた事はピギーやカウなら低ランクでも普通に狩れるとのことだったが。でも、ヨシズは十七体も狩っているんだよな。それなら高ランクなのだろうか。
「そういうヨシズは何ランクなんだ?」
「オレはBランクだ。十七体倒すのはBランクでも本来はきつい。そもそも、普通に草原で罠張って待つ方法じゃ狩れない量だぞ。お前はよくそんなにおびき寄せられたな?」
「いや、おびき寄せるなんてしてないぞ? それに、罠張って狩るのが定石なのか?」
思ったことをそのまま言うとヨシズは頭を抱えてしまった。
「じゃあ、一応聞くがお前はどうやってピギーを狩った?」
「そりゃあこの草むらを歩いて近寄って来たやつを倒したに決まってる」
「 ハハハ……。そりゃあお前と同じランクにいるやつからしてみれば自殺行為と言える行動だ。まぁ、オレがあそこにいる時助けに来れたんだから分かっていたことなんだがな。お前、規格外だよなぁ。本当に虎人族なのか? なんかの化け物が虎人の皮被っているんじゃ……」
失礼な。俺は歴とした虎人族だ。多少常識が違っていても、虎人族であることに変わりはない! と、顔に出ていたのか、ヨシズが謝ってきた。
「すまん、つい本音が……。一つ忠告しておくぞ。お前は今すぐにでもランクを上げるべきだ。実力があるのに低ランクだといろいろ悪く思われることがあるし、それを良いことに面倒な依頼を押し付けられることもある。高ランクになれば、具体的にはBランク以上だが、実力者とみなされていろいろと融通が効くことが多くなる。実力者を失う訳にはいかないから国によっては手だしを禁止しているし、公国なら諸手を上げて歓迎してくれるそうだ」
「そうか、忠告感謝する。だが、二ヶ月でやっとDランクだからまだまだかかると思うぞ?」
「二ヶ月って……お前、その前は何していたんだ。何か職についていたなら勿体無いことだぞ」
「あ〜ちょっとなぁ……(まさか虎として生きていたなんて言えるわけない)ボソッ」
「? 人によっては変な憶測を立てる人もいるから注意しておけよ。じゃあな」
そうだな注意しよう。と返事をする前にヨシズは何か用事があったらしく、先に走って行った。