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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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ドルメン6 ケンカ?




 いい笑顔の門番に頑張れよと言われて面食らったが、実はここに着くまでにも何度も同じように激励の言葉をもらっていた。きっとヨシズが伝えていたのだろうと思い当たる。この短時間でこれだけの人に話を広めて回れたヨシズが恐ろしく感じる。敵に回したくはないな。というか、彼が俺に味方しているということは過激派の連中とは敵対していると言うことで……。彼らはもうすでに詰んでいるのではないか? 俺がやるのは止めを刺すことか……。


 草原は町から十五分ほどかかる。草原を囲んでいる森を抜けるのが意外と手間取るためである。草原には草が生えるが、何故か雑草しか生えないと言う特徴がある。薬草を植えてみても枯れ、野菜を植えても雑草が栄養分にしてしまう。雑草魂恐るべし。幸い囲んでいる森から外は普通に作物の栽培が可能なので、薬草などで、町で育てきれない分はそこで育てる。


 さて、俺はもともと森に住んでいたのでついてきている冒険者一同より一足先に、慣れたように草原に潜る。……そう、草の丈が長すぎて見た目は進むと言うより潜るが正しい。中央から森の入り口付近はそこまで長くはないらしいので話し合い(場合によっては殴り合い)にはぴったりだろう。


「全く、どれだけ放っておけばこうなるんだ」


 思わず愚痴ると、ほんの十メートル前を何かが横切った。


「なんだ……「ブモオオォ」って、ピギーか!」


 すぐに臨戦態勢になり、迎撃の準備をするがピギーの方が早い。少し態勢が崩れつつも……蹴る!


「ブモォ……」


 先程とは違う、明らかに苦しんでいる声で鳴く。

 体勢が崩れていたが、蹴った時に俺の足は上に向けて最大の力がかかった。つまり、ピギーは上に打ち上がった。


「「なんだぁ?」」


 後ろが騒がしいが気にしてはいられない。ピギーが上手く打ち上がったこの好機を逃してなるものか。俺はすぐさま態勢を立て直して追撃する。


 俺の戦闘方法は体術と魔術だ。連続攻撃を得意とすることがこの場では有利に働いた。


「ブモッっ…ブモ……」


 仕留めた……か。初めの一撃が入ってなかったら流石に俺でも無理だったな。例え逃げ切れたとしても後ろにいる人達が重傷を負うことになったかもしれない。


 ここで解体すると、また奇襲が来るかもしれないので一度アイテムボックスにしまう。アイテムボックスはその人の許容量を越してしまうと、魔力を使い、許容量を増やすがその分の魔力を消費し続ける。

 アイテムボックスの許容量には個人差があるが、その原因は今だ解明されていない。今回は俺のボックスの許容量を越すことは無かった様だ。


「……ふぅ。ここかな。明らかに草の高さが違うんだが何が原因なんだろうな」


 草を掻き分けてついたところは今まで通って来た草むらの続きとは思えないほど整然とされていた。森までの一区間、草の丈は背後のもののざっと十分の一くらい。足に絡まるほどではない。


 ガサッ


 突如近くから草が掻き分けられた音がした。またピギーかと警戒したが、出て来たのはヨシズ達冒険者一同だった。なんだ……。驚かすなよ。


「ああ、すまん。驚かせたか。それにしてもお前早ぇなぁ。ピギーと一戦あったんだろう? オレの方が早く着くと思ったのによ」


 ヨシズの言葉に皆が頷く。


「俺は虎人族だぞ。悪路には慣れてる」


 獣人のほとんどは身体能力が高い。俺もその例にもれず、高い身体能力を持つため進行が早かったわけだ。

 そもそも、ピギーを宙に浮かせること自体、普通の身体能力では無理である。


「まぁ、そうだよなぁ。流石、だな。その調子で見守り隊の過激派連中を倒してくれ。なあに、ただ殴るだけの簡単なお仕事だ。オレ達もやってやるぜ」


 これで今までの鬱憤(うっぷん)を晴らせるとばかりに笑顔でそうのたまう。


「いやいや、ちょっと待て。俺は何も殴るとは言っていないぞ? 理性的なお話が出来ればそれでいいって」


「いや、無理じゃないか? 町全体で『あいつら締める』って雰囲気だし。青アザすらつけずに戻ったら町の人たち総出で殴りに行くと思うぜ。あいつらのことを考えてやるならここでギリギリの手加減で町の人たちに手を出す必要は無いと思わせるのがベストな落とし所だろうな」


 確かに。皆密かに怒り狂っていたみたいだしなぁ。はっきりした落とし所が必要か。思えばこの状況はあいつらを相手するにはちょうどいいな。ケンカって言う大義名分があるから、殴っても罰の対象にはならない。相手も条件は同じだが。


「おうおう、お前らがアンちゃんに言い寄っている奴らか?」


 離れたところから出て来た過激派の連中のボスらしい人物が凄んできた。それなりに能力を持っているのだろうがここでくすぶっている以上たいしたことは出来なさそうだな。多数対一だと俺の方が不利かもしれないがヨシズ達は俺サイドらしいから乱闘になっても何とかなるだろう。


「いや、俺達は誰もアンさんに言い寄ってなどいない。だが、依頼の受注報告にアンさんと話すだけで殺気を向けられるのは迷惑だから話し合いをしようと思って来てもらった」


「殺気? アンちゃんにろくでもないことを言わない様に牽制(けんせい)しているだけさ。何も問題はない」


「へぇー。その殺気はアンさんも気付いていたけど? 君たちは良かれと思ってやったことでも、あれだけ分かりやすければ迷惑以外のなんでもないだろ。むしろ業務妨害?」


 挑発するような言動をとったのはヨシズと一緒に出て来た冒険者グループのリーダーで、やたら言いにくい名前を持つ。


「ハッ。例えそうだとしても文句は言えないだろう? アンちゃん……いや、アンだって俺を拒めないさ。町に住めなくなるからなぁ! お前達の様な奴らは目障りなんだよ。散れやぁ!」


 そう言って相手は突然切りかかって来た。


「「……っ!」」


 ガキィン!


 間一髪ヨシズの盾が間に合った。アイテムボックスから出したのだろう。


「ちっ、回り込め!」


 下衆な考えを持つやつだが、流石手を出せないと判断されるだけあって指示は的確だし、連携もとれている。


 だが、ヨシズのおかげでこちらの態勢も整ったぞ? 手を先に出して来たのはあちらだから俺達は正当防衛を言い張れる。


 さぁ、反撃といこうか。


「っくそ、ヨシズとあの銀色のやつを止めろ!」


 おっと、狙いはこちらか。でも、銀色のやつって……。分かりやすいが、ムカつくな。俺にはシルヴァーって言う名前があるんだ


「よ!」


 多少力んで打った攻撃に切りかかって来た奴等がまとめて吹っ飛ぶ。


 過激派の連中は実力はあるが、俺達が連携して対策を取ればそんない脅威ではない。

 ヨシズは先頭で盾と剣を上手く使って攻撃を受け流しつつ相手の体勢を崩す。俺は向かって来た奴に攻撃を入れ、気絶したのを見て少し下がるといったちょっとしたヒット&アウェイで相手する。他のメンバーは撃ち漏らしに対応する。

 そして、ほんの数分で過激派連中を制圧しきった。


「お疲れ。ところで、こいつらどうするんだ?」


「おいおい、何も考えずにここまで来たのかよ……と言うところだろうが対応策はちゃんと用意しておいたぜ。オレと一緒に来た『シュトゥルム』 って言うパーティが町へ行って衛兵とこいつらを運ぶ助っ人を呼んで来ることになっている。……もう行ったみたいだな」


 ああ、一人減ったなと思ってたらそう言うことか。根回しが早いことで。


「衛兵が来るまで俺も待っていた方がいいか?」


 それにはシュトゥルムのリーダーが答えた。


「何か依頼を受けているならそれを優先していいよ。こいつらは無力化してあって武器も取り上げているからよほどのことが無い限り、後は俺たちで十分だろうからさ」


「そうか。なら、お言葉に甘えてピギー狩りに行って来よう。そういえば、あなた方は何か依頼を受けているのか?」


「シルヴァーさんが心配することじゃあないさ。気にせず行って来てくれ」


 この返答は……依頼を受けてはいないのだろうな。午前中に十分稼いでいる可能性もあるが、このままじゃ俺が納得がいかない。


「しかし、これは手伝いの域を超えているからあとでピギーを一頭渡そう。それを俺からの報酬代わりとしてくれ」


「……そこまで言ってもらえるならありがたくいただくよ。受け取りは日が落ちる頃【ネコ居つく亭】でお願い出来るかい?」


「ああ。俺もそこに泊まっているから何の問題もない」


「そう……やっぱりね」


 最後が聞き取れなかったが聞かせる気はない内容なのだろう。気にしないことにする。



 *******



シルヴァーが去った後


「じゃあそろそろオレも狩りに行って来るぜ。オレからは売ったピギーの総額の二割だな」


 そう言ってヨシズもピギーを狩りに草むらに向かうが、制止の声がかかった。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ。シルヴァーさんからピギーをもらうことになったんだからヨシズさんからはもらえるとしても一割です!」


「ああん? 冒険者が約束を反故(ほご)にしちゃあいけないよなぁ?」


 ニヨニヨと……こほん、言い間違えました。ニヤニヤと笑うヨシズさんはきっとこの結果が分かっていたのでしょう。してやられました。




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